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画家石像のアトリエにある自慢の作品群に目をやる父親、と女神石像。

ゲーマーとして当然ゲーム内に描かれたモノは現実の名作絵画より気になる。


女神石像はそのアートを見つめ、ふむふむと何か分かった気になっている表情をしている。女神は芸術が分かるようだな。


石像を描いたものが多いな。

ここの住人か?

勉強熱心でいいねぇ。こういう細かい所は好きだぜ、いつもの変な所じゃなくてな。


「おっ、これはなんだ……ピエロ?」


縦縞の黒と赤のぴっちりとしたスーツを着、口角を上げニヤリと笑っている。

星のペイント、白いメイクをしたピエロらしきものが1枚のキャンバスに描かれていた。


「こ、こいつのシュミか……いきなり違ったタイプが出てきて驚いたぞ……。まあピエロキャラってなぞの魅力あるよな」


父親は作品を褒め称える意味で画家石像にグッジョブのジェスチャーを送ってあげた。

画家石像はそれに対してお馴染みのジェスチャーで応えてくれた。

このやり取り地味に気持ちいいと言いたい。


にしてもエロいゲーム内で絵描きってこれまたシュールだよな……。何かを生み出すよりナニかを吐き出しに来る場所だし。……我ながら情けなくてくだらね……。あ、そうだ!


これだけ絵がうまいんだ画家石像くんに絵を描いてもらって、このステッカー知りませんか? 作戦でいこう! もう俺の腹は底の底にたどりつこうとしているぜ……。


「そうだ……ペンギンステッカーって知ってる?」


画家石像は、さぁ? と両手を広げ首を傾げている。

予想通りだよな。


「うん、ちょっとその筆借りていい?」


そう言うと画家石像はノータイムで頷いた。


こいつ人を全く疑わないな…………。実にゲームっぽい行動で良いぞ、画家石像くん。

ゲームっぽいを感じるとプレイヤー山田燕慈さんは誠に癒されるぜ。

もっと見つけたいゲームっぽい!


ふと、となりに目をやると。


とある作品をじっくりと鑑賞している女神石像がいた。


ベレー帽の石像と凛々しくて渋い男の、絵だ。


「…………」


父親の格好良さに気付いちまったか。


「んなことより、さぁてエロいゲームで、お絵描きタイムのじかんだ!!」


画家石像から筆を受け取った父親。


よーしはてェ、この筆どうやって使うんだ……。

絵の具どこ……?


受け取った筆は新品状態の白い毛、色が出るとは思えない状態のものだった。


こいつどうやってあんなカラフルを描いたんだ天才か……。いや、そもそもエロいゲームでお絵描きなんてそんな機能はない! どんな特殊なプレイのあるエロいゲームだ。俺の趣味じゃないぜ!


これはエロいガバいゲームどうせ、

どこぞのトンボさんみたいに、


ええい、の、ままよ!



父親は筆を真っさらなキャンバスに踊らせる。シュシュっと……よれぇっと。


独特の筆使いでキャンバスに生命を吹き込まれたのは、

丸い円の内にいる、フライ返しとおにぎりを持ったモンスターであった。


「うん……絵とか15年ぶりだわ」


父親がキャンバスに描いた渾身のソレを見た画家石像。

どこへやらアトリエの奥へ行き。

何やら迷わずごそごそとしゃれた小棚の引き出しを開け────


父親の元へとゆっくり慌てず歩き戻って来た。


彼が両の手のひらを合わせて、どうぞ、と乗せて見せたモノ。


「おまえがっ持ってんのかよ!!」


父親が描いた生物より可愛らしい生き物である、ペンギンさんが、石像商人の手のひらの上、丸いステッカーに存在していた。



お前が持ってたんかーい!!

っていうことで念願のペンギンステッカーを見つけたんだが。

それもこんなに。


画家石像の両の手のひらの上には8枚のペンギンステッカーが重なり合っていた。

宝の山に思わず高揚するリアクションを隠せない。

なんでこの画家石像くんが持っているのかは知らないが、石像を描き飽きてペンギンに興味があったのか?

かわいいもんな。

画家なら収集していてもおかしくはない、うん。


とりあえず……。

この宝の山を目の前にして抑えきれるかーー。


「もらっても……いいのか?」


父親は画家石像の顔色をうかがうような目で見る。だがその男期待感でいっぱいの表情を隠せてはいない。


石像の彼はノータイムで元気な顔で頷いた。


「うおおおお、サンキュー画家石像くん!!」


差し出されている石の両手からステッカーをそっと手に取り、全て、まるっと受け取った。


これぞ! お使いクエストの醍醐味!! ゲーム内でも持つべきものは友の石像だな。

太っ腹ァァァ!


……にしても人を疑うことを知らない画家石像くん、少しゲーム的すぎて心配になるな。

純朴な彼が悪いヤツに騙されないように祈ろう。


「ハハ」


手に持ったペンギンステッカーを見つめ、お腹のバロメーターを軽く確かめるように撫でる。

生物としての活動に必要なもの。

それはエロなどではない、メシだ。


「では、さっそく」


待ちきれない空腹が俺を急かす────父親は小走りで何の変哲もないアトリエの石壁に近づき、ペンギンステッカーを1枚ぺたりとしっかり念を込めて念入りに貼り付けた。


「よし!!」


準備はバッチシ。

ちょっと待て、一応手をつなぐ…………か。


「女神石像、その……手を繋ごう」


いつの間にか近くに寄って来ていた女神石像は首を少し傾げ顎に左の人差し指をあていたずらな女神っぽく考えている。


え、ちょっとショック……。


しばらく。


女神石像はうんうんと元気良く頷いた。


なんだその女神らしからぬ駆け引き、

ふぅ、そしてなんだろうこの心底(しんそこ)の安心は……。とびきり綺麗な石像を相手に……!


「じゃあ……」


そっと差し出した左の手に石の右手がそっと、いや、ポンと重なった。


置かれた父親よりちいさな手。つなぐ──彼女のその元気の良い石の顔を見てなぜだか笑ってしまった。


「ハハ」


「よォし!!」


父親は前に向き直り、石壁に貼ったペンギンステッカーを見つめる。そして腹の膨れるおまじないを元気良く発した。


「ハイッカー!!」


ハイッカー、そうおまじないを発すると父親たちは石の壁に貼り付けられた小さなステッカーの中へと魔法にでもかかったかのようににゅるりぐにゃり吸い込まれていった。


そして吸い込まれてすぐに。


目に入って来たその光景。


カウンター席、黒の食台、白く丸い椅子が6つほどの。

摩訶不思議を経ておとずれた小さな店内には可愛らしい生物、黒と白の体表をもつペンギンがいた。


余計なゲーム的な改造を施されていないいたってノーマルな容姿のペンギンだ。

その愛らしさからマスコット的人気もぼちぼちあるらしい。

さすがに父親よりはない!

勝ってる!

大差で!


厨房の中に佇むペンギンたち。

彼らのフォルムを一目見ただけでもう、


「メシ……メシぃぃい!!」


もはや彼の腹のゲージは空腹と期待と興奮で極限状態。よく分からない言語を自然とこぼしていた。

正しいルートで来店した父親たちは導かれるようにカウンター席に各々着いていった。


すると。


さっきまで突っ立っていたペンギンたちは生命を吹き込まれたかのようにいそいそと作業に取りかかった。


1匹のペンギンが古そうな炊飯器を開けその美しい黒い手で白い米をペタペタと握り、すぐさま出来たソレを放り投げる。


手早いソレをフライパンで器用コミカルに受け取ったもう1匹のペンギンがフライパンを火にかけ米を焼いていく。


手に持ったフライ返しで返す、返す、そんなに返す必要はないのに返す。

盛り上げてくれるぜ。


最後に、ぽーん、と宙に浮かせたソレらをまたもタイヘン器用にフライパンでキャッチし回収して魅せた。


そして出来上がったものが父親たちの席の黒い食台の上にすぐさま置かれた。


「フライパン直置きかよ!」


ふざけてんなラヴあスッでも生ペンギン可愛いしなにより早くいただきたい、許す!


待ちきれない客はさっそく出て来た豪快な料理を豪快に食す。


「ナニィ! 旨い!! しょう油味じゃん!!!」


その旨い雄叫びを聞いたペンギンたちは両腕を挙げガッツポーズをし応えた。


「手どうなってんだよ……。まいいや、エロいゲーム気にするより食うッ。はむっ」


獣のようにがっつく父親を不思議そうな顔で見つめている隣の席に座った女神石像。


彼女のその視線に気付き。


「……食べる?」


と、おそるおそる、いやそっと焼きおにぎりを左手で女神石像に差し出した。


それを受け取った女神石像は、がっつく父親を見て学習したのかはむっと石の口で焼きおにぎりに齧り付いた。


はむっ、はぷっ、はむ、ぺろりのごくり。


焼きおにぎりを完食した彼女がこちらをじっと見ている。

女神の優雅な食べっぷりに、


「……旨かった?」


女神石像はうんうんと元気良く頷いている。


「そっかー」


ってまじかよ!? ……まぁお供のHPとまりょくを何故か操作キャラが食べるだけで全快していたからな……。エロいゲームの外では省かれていた部分か、ハハ細かい芸だからって感動はしてやらないぜエロいゲーム。



「ずっとこんなほのぼの青春日常編なら良いんだがなぁ」



フライパンの焼きおにぎりをそっと待つ彼女の石の手に手渡した。

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