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月の全てを司るテラムーンパレスを掌握し、この急遽したためた声明は届けられるはずであった。
月面都市テラムーン、その中枢であるテラムーンパレスの天月の間にある持ち出し不能な特別な通信神具、大呼宝石は一言発せばアからンのカケラ区すべてにその声が高々く届く月面全域へのいわば玉音放送である。志を共にする者たちが内部から手引きし用意した九官鳥の鳥類ティックを使い畏れ多くも天月位の声を真似てひと演説をしていく手筈であった。
宇宙船から舞い降り急襲、乗っ取られていくダークムーンサイドが支配するテラムーンパレスその内部では────。
「天月位が戦艦甘多に乗って地球へと旅立ち不在、黒スーツの男もいない、魔女もいない、カグヤ派とカグヤのお付きもいない……よぉし! 十六衆の裏切り者さんたちは張り切りダークムーンサイドもまた動き出した。えーっとそいつらは灰色ローブに黒い月が裏にあるいかした連中だ」
「ダークムーンサイドは誰なのかまったく不明、チキンに狡猾に隠れていたがヨイザさんが死にアメジさんや色々死んでしかも嘘か真か謀反人とバラされたもんだしかも血迷ったカグヤ様が地球にいくぅーーとか言い出すし仮に地球と和平を結ぶなんてもしそうなったらダークな計画がぱー此度が最大のピンチ! だぁが城はもぬけの殻の最大のチャンス! とヤツらは動きだしたのだ」
「筋書きはこうだ、『カグヤは茶会の席で地球人に殺された』、なぁんて月の全国放送で涙誘い熱く語ってしまえばカグヤの地球行きに賛成扇動したものは立場危うく牢にぶち込まれ、司令塔であるお城を完全に乗っ取りかき集めた宇宙船かなんやらで地球へと向かうかここで帰ってきたカグヤを待ち構え敵の船だと言い張り宇宙星屑の海に散らして謀殺する」
『スジガッキーワコーダ、カグヤボーサツボーサツメッサツ』
プレイヤー父親は自信あり気に宣った。
ゆっくりと歩み近付いた黄金に照らされた影は立ち止まりニタニタと気味悪く笑う。
「バカななぜここに……!?」
『バカナナゼココニ』
「いやヤツはひとりここで始末」
『ココデシマツ』
大きな黒と黄の体色の鳥はたのしいのか次々と人の声真似をする、
全員灰色ローブ姿に灰色口マスク、見るからに怪しい集団は不意に現れた黒スーツの男に驚いた、計画にない予想外の事態に警戒を深めていく。
「はっはっは」
突如、大ボリュームで聞こえてきた野太くしがれた老骨の声。
「あ、アメジ様! 生きておられて!」
『アメジシンダイキテタ』
「さぁ知らぬなぁそんな賊どもの顔は、一度炎に眼を焼かれ死んで忘れたようじゃナ」
「なんだとアメジぃいいい貴様まさか裏切る気か!!! 貴様がこんな醜態をせね」
『ナンダトアメジィイイイキサマキマサ』
「裏切りではありませんよこれこそ分水嶺、その身がカビたことに気付かない悪を絶つベストな流れなのですから」
『ブンスイレーブンスイレー』
「研究所のビムーン!? きさっ」
「へぇー、十六衆で聞いたような声もある気がするよ。きみら鼠だったんだ、こんなにうじゃうじゃぁ……それやったら終わりでしょ」
『ヘェー、ヘェーネズミっオワリデショ』
「三日月のミカンまで!? て、手引きはどうなっているハダハダ!」
内部の手引きはもちろん罠であった。
ノリのいいリアクションを見せていた演技派肌色ローブの十六衆居待月のハダハダは既に父親に脅されその類稀なる才能を買われ属していた裏組織を裏切っている。
「これはッく、空城の計だ。さすればヤツラに戦力はこれ以上ない! 惑わされるナヨ、敗れた老いぼれと見かけだけの侍の地球人とただのおまけの女どもだ!!! 我々ダークムーンサイドがこれしき勝てぬことはない」
『クージョーヤブレタリぃ』
「た、たしかに! 真に恐ろしいのはヨイザではない、我々ダークムーンサイドこそがテラムーンひいては月を支配するに値する才覚衆なのだ!」
「大義があるのは我々の方だああああああ」
『タイギワレワレ、ワレワレタイギ』
空城の計、つまりわざともぬけの城にし多勢の敵を誘い戦力が乏しいにも関わらずわざとらしく勝っているように演出し敵を疑心暗鬼に陥らせあわよくば撤退させる……古く争乱の時代からある一種の愚策である。
カグヤ派の大多数は地球へと向かい居ないのは事実、ダークムーンサイドはプレイヤーの仕掛けた策を見事見破り、大義を掲げ灰色ローブ背に描かれた黒い新月は我々にあると士気を取り戻そうとした。
「のーのー大義はねぇでしょ、へぇー、あと女子だからって舐められるのはヤだなぁ?」
「ハハハ俺は別にタイギはどっちでもいいぞ」
「奇遇だな我もだ炎の侍、ハッハッハ」
「大義……そんなおぼろげな研究テーマは大したものではなさそうですね」
「ふふふタイギなんて歴史はチカラで裏にも表にもなるじゃないふふふ」
父親、アメジ、ミカン、ビムーン。
ひとりでも意気揚々の黒いスーツにつづき続々とどこからともなく現れてきた。
紫ローブの将軍に、
白ローブのオレンジ髪、
オレンジローブの緑髪、
さらに枯草の魔女は天から逆さに舞い降り登場し天月の間は混沌を極めに極める。
動揺の鼓動や陰にしたたる汗は加速していく。
チグハグのカラーが何故か結集、これほど不気味な集団は月にはいない、粋がっていても知らずおののくそれほどの未経験の圧となる。
「じゃあ敵さんへのご挨拶はほどほどにパーティー組むとしますか、おっさんは派手に暴れ回りそうだしオレンジ投げるお姉ちゃんやエリート魔女の魔法の誤爆はなかなか怖いぞ」
「仕方がない、そこまで我を恐れるナラ組んでやろうぞ小童! はっはっは」
「ふふふふ、魔女をパーティーにするなんて怖いものがないのかしら」
「へぇー青の民最強の乱入お兄さんとパーティーとか光栄じゃん、あぁうちはいいけどまだこの人のことゆるしてないよ、ゲッカのーのー」
「……後でいくらでも罰は受けましょう、それこそゲッカドウドウと……ミカン」
「へぇー、それはたのしみだよルミねぇ15年と124日ぶりかな」
「ハハハ予期せぬ存ぜぬ姉妹感動の再開だ、ならこっちはこっちで熱い茶会といこうぜ」
「うむ、いいだろうその誘い乗ったァ。数は0からハンデと同士討ちはなしダナ小童!」
「そういう誘いじゃないんだけど……いいぜアメじいさん!」
「へぇー、ルミねぇうちが勝ったら消えた日からその汚れたつま先まで顛末洗いざらい話してね」
「……えぇいいでしょう、ですが年違いの妹に負けるわけにはいかないですね。あのときの妹はかな文字もろくに読めませんでしたが」
「これでもうち見てない間にそこそこ月では偉い十六衆なんだけどルミねぇ」
「ならば私が十六衆になるのですね三日月のミカン? アメジ様、【オレンボム】!」
「へぇー、……はぁ? 邪魔! 【クレッセントミカン】!」
「てかもう始まってんだけどな! 【爆牙斬】!!」
「はっはっは武闘派のルールではそうなっているな! ナラバ我も……小望月の結晶を返してもらうぞっ小望月のエンジ!!! 【紫駆】」
「どわっ!? ナ、なんだそのかわいい称号と馬鹿みたいな入れ替わりシステム……!?? ってなんで俺の本名地味にヒロイン以外が知ってんだよおおお【爆炎斬】!」
「ふふふまともなのはわたしだけみたいね即構築【ウィンドボルテッカーブーメ】」
「「「「ゲッカドウドウ!!!!」」」」
「大掃除だ! ハハ」
「戦果を上げれば無罪じゃナ!」
「ゆるさないよルミ姉!」
「本当に妹ですか、ミカン!」
「わたしのティックをこぉんなに改造してくれちゃってふふふふふ」
地球人最強の父親、
十六衆武闘派最強のアメジ、
十六衆最年少三日月のミカン、
元ダークティック研究所のアルテミス、
星の森の魔女クゥミ。
即興で組まれた最強同盟パーティーの月とカグヤ様に仇なす敵勢ダークムーンサイド大掃除が技・術、炎とまりょくが飛び交い、一同ゲッカドウドウの宣言の下激しくはじまった。
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一方────────
月が騒がしく宇宙彼方で満ち欠け剣刃合わせ暴れるも、たどりついた青いホシから見上げれば動かぬかすかな月にすぎない。
ここ地球でははるばる豪華な船でお越しくださったあるお方のために……日月紋の和洋折衷な屋敷にて緊張の茶会は開かれていた。
地球式に合わせおめかしし直した月のカグヤ様と、対面するは同じく月の従者により強制され慣れぬおめかしをしてきた美しき金髪を下ろすセシリア・リンドバーグ騎士。
同じ色同じ形同じ光の黒目が今見つめ見つかってしまった。
「これはこれは驚いた!」
「本当に瓜二つ……」
「か、かかかかかかカグヤ様がふたり!?」
「これは夢でしょうか」
「見てあなたセっちゃんがふたり……」
「セシリアぁあああああああああ」
「素晴らしいですわ、どの角度から見ても耳の形までまったく同じでして……(それにしても私の名字がリンドバーグなんてまるできいていませんわ……)」
月と地球の従者はあらためておどろき、両手を組み合わせ何かを願う者、放心しぼけっとするもの、気が動転してついに気絶するもの。
青いスーツでびしっとキメたセシリア・リンドバーグの父は手を伸ばし泣き、母は顎に手を当てまじまじと2人を見比べ眺めている。
地球人である……ここではリンドバーグ家の先祖にあたり飾られた絵画上の伝説の人物……別所透蘭の助けもあり、地球での物事はスムーズに運び天位の住まう屋敷は慌ただしくも月と地球の大茶会の一席は設けられた。
騒めく集まった一行が見守る中、ほんじつの主役である着飾った2人がいる。
一目、目を見た瞬間にほろりと伝うもの、涙をながす天月位カグヤがそこにいた。
こぼれる涙をごまかし走る、よく似た顔と顔はギュッとすれちがう。
「あのカグヤ様、えっとその」
「よい、今だけはそのままでよいっ。そなたがいてくれてうれしいっ……」
「それはよかったです……でもわたしは」
「ぐすっ……そ、そちの父と母とはどのようなものなんじゃ」
「え、えっと、きっとつまらない話になりますが……お父様はリンドバーグ商船の社長で尊敬できる部分もいっぱい……それでいてときどき部下をこっそりよこしてすこし私のことになるとアレで……逃げるのも大変でしてついに此度隠れきれず! ……お母様は元月光騎士団副団長の腕っぷしで今でも私より剣の腕もつよく、それはもう強すぎてッ到底かなわずそれで武者修行に……」
「そうかそうかっ、それはたくましくて情と熱にあふれていてよいよかった……!」
「よよかったのでしょうか……?」
「よいのじゃ、かようにとおくはなれていない方がお互いいつでも会えるもの」
「た、たしかにそうですね……こうしてカグヤ様にも会えたようだ、あ、です」
「うむ、敬語はよい紅茶は好きか」
「そういうわけにもい、いかず……え。はい船上でお父様の部屋からこっそり盗んで母と飲む紅茶は好きですあのこのハグはすこし長い気が……」
深く痛いほどに抱き合う月のカグヤや地球のかぐや。
ながい黒毛と金毛が絡み合いいつまでもあたため泣いて離さない。
この光景につられて涙するものも、
千載一遇のシャッターチャンスに茶色い乾板写真のカメラで照らすものも、
次第湧いてきた月と地球の人々の拍手が鳴りやむことはなかった。
月と地球の歴史はこの日をもって両者がまた交じり合いまた大きくより良いものへと大きな一歩で抱き合い進んでいくのであった。




