52⑬
「なんでまだ立ってんだよ!」
「ッぁぁ……俺様だからな」
「えぇうそだーー! ミレーやばいよあの人!」
「今さらかよ! もっと前からやべえんだよ」
辺りにひし曲がった自転車の数々、マンション敷地内の自転車置き場にぶち込まれた汚い金髪だったが。
チャージされたオーラ張り手をもらってもなおよろよろと立ち上がった男。ネズミパーカーから破けた土手っ腹を押さえてさすりながらも未だに喋る余力を見せていた。
「だが……敵は2人だけじゃなかったとはな舐めていたぜガキども、良いのをもらっちまったがこの先の戦闘プランはまだある」
ダメージ的にはこっちが優勢。変な動きも今まで通りとはいかないよな。切り札もまだある……だけどこいつは頭がおかしい、これ以上があるなら。
「付き合ってられるかよ子春逃げ」
「逃げたら今日背中から殺す今日殺せなくても明日から毎日お前らを殺し続けるお前らの通う学校にも算数の授業を受けにイってやる。俺様は100までは数えれるぞクク」
汚い金髪のセンター分けは乱れた髪を掻き上げ美玲をジロジロと見つめながらニタニタと笑っている。耳を疑う汚い声の発言に、
「ナッ!? イカれてんのか!?」
「ククそれが俺という男だ、戦ってみて分かっただろ? ガキと無意味な殺しは好きじゃないが我慢しよう、誰を殺そうが最終的に俺様は悪くない。つまりお前らのタメにお前らの行動次第で俺様は誰でも殺せるのさ、このバトルもお前らが仕掛けてきた事だからな」
電子の荷から取り出された改造鉈の切っ先は美玲から子春にゆっくりとすべらせ向けられていた。
「ミレー本当にヤルしかないよ! おかしいよこの人本当の悪役!」
「あぁマジでハズレクジじゃねーか……狂ってんな!」
「ハズレクジか……クク。そりゃそうだこんなとこで俺様と会う必要もなかったんだよ。知らなくていい世界、知っていても見て見ぬフリをしてテキトウな恋人と手を繋いで死ねばいいソレが俺様の理想の人間ってヤツだ」
「さっきから無茶苦茶言いやがってお前がここから居なくなればいいんだよ! お前はもう手遅れだ人間的にフツウじゃない! 猫でも飼って静かにして一生過ごしてろ!」
「はははは動物セラピーか、動物は好きだそいつは良いな考えておくぜ。そうだな……コレが終わったらまずキャットフードでピラミッドを作ろうそれを1ヶ月崩さなければ買いだ!」
「バカだこいつは! 何かをやった気になってるだけだろ!」
「それが究極的に俺様だ。世界がこんな有様の俺様を作り上げたってことだ」
「もうあんたとは話さない! 頭がイカれて俺まで人間じゃなくなるぜ!」
「ククそいつは残念。だが今のままじゃお前相手は少々厳しいな。お前相手は舐めてやらない。そしてこいつは使いたくなかったが仕方ねぇノってやるよ、ガキどもAの男」
電子の荷から取り出された黒い球。ネズミパーカーの右手の鉈へと取り込まれ赤黒く発光、バチバチと激しい可視の電流を跳ね上げながら。
「邪座」
「こいつはどうせ怪しい試作ブツ何が起きるか俺も知らねえ。だがもっと知りたくなった魚屋じゃないこの先の俺の物語を」
現れた黒い鉈。男が相棒にしていた武器が変色してしまった。使用感を確認するように宙に振り回された黒い剣線。
一連を終えた裏のバトルマニアはそれを軽く天にかざしニヤリと笑った。
「そんな主人公みたいな、俺は知りたくない!」
「そう言うな。裏の主人公同士仲良くバトろうぜェェミレー!!」
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▽
────怪異を捕まえるどころか。
「武器ってのは大事だな。こいつはヤリすぎたか」
こいつはまじでシャレになってねぇ。怪異を捕まえるどころか、どう逃げるか……。
使いものにならなくなった改造鍋のフタを地へと投げ捨てた可黒美玲。ひしゃげた物体がガラリと音を立てる。
「ミレー大丈夫!?」
「ハァあぁさいわいまだ盾はいくらでもある」
可黒美玲は黒い玩具で宙を斬り遊ぶ金髪の男を見つめながら考えを出した。
導き出したこの男の性格とこの先の戦闘結果を、
「ハァハァ子春たぶんお前の脚なら」
『武器は大事だ』
突如、耳に迫るエンジン音と共に高速の黒い物体がネズミパーカーにぶち込まれた。
「私は怪異を捕まえろと言ったぞ美玲」
「ハァハァたすか……おっそい!!!!」
やがてバターのように斬り刻まれてガラクタになり止まった黒いバイク。
人体に高速の不意打ちを受けたがなんともないその男は黒い鉈で現れた不審者に対して襲い掛かった。
「おいおいいきなりなんだよお前」
「刑事だ」
「ククははは、刑事かよ。お前が教育不足のガキ共のお守りか酷いヤツだな舞台が」
迫り来る輩に対し半身になり闇夜に紛れた黒い鞭が乱雑な軌道でネズミパーカーを滅多撃ち。予想外の武器、ガードの全く間に合わなかった男の鉈は女に届かず大きくノックバックさせられていった。
「言いたいことはわかった。今日がアイドルデビュー、下手な踊りだ私には手加減しろ」
全身黒のテラったライダースーツ。黒い長髪をかき上げたクールな美しい女性が右手に持つ黒鞭。
オカルト探偵部の救援要請に応えてド派手に現れた。
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▽▽▽
「もしもし起きてますよね!!!!」
『なんだ』
「なんだじゃないって! 喋る怪異をぶっ倒したら罠にかかった怪異も出ましたエリアAです速攻で来てください! マジで!」
『あの適当が……冗談だろ。こちらはまだ準備段階だぞ』
「準備? とにかく来いって! エリアAだ!」
『フフ、分かった。口の利き方には今後気を付けろ、私が行く頃には全て無力化しておけ分かったな美玲』
「えマジッ、来るのかよ!? ってそれじゃ意味ないだろ! ……分かった!!」
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▽▽▽
オカルト探偵部可黒美玲はエリアA到達前にケイコ警部に全てを報告し現場まで応援に駆けつけるよう伝えていた。自分達はまだ高校生、子供2人では怪異の犯人を捕まえる、捕まえた後の処理は荷が重いと考えていたからだ。
応援に駆けつけた黒鞭の女と黒鉈の男が遭遇し絡み合いバトルは続いていた。
「素手に石ナベの次は鞭か。なんだその武器はそんなおかしなヒーロー戦隊がいるかよクク」
「フフ、知らないな。ヒーロー? ならば普通こういうのは新戦力にあっさり倒されるものだ!」
「はは悪いが俺はその辺のチンピラAじゃねぇ、いきなり現れたところすまないが刑事の女お前も俺様には大したことはない」
リーチで勝る黒鞭の複雑な軌道を虚実を交えたゆらりとした動きで避けながら男は黒鉈を振り回した。
「【狐】【狐】【猫】【仔猫】」
狐の尾っぽのような訳の分からない軌道の2閃、更に剣速の微妙に違う鋭い2刺。
ケイコは自身の周囲に出鱈目に黒鞭を振り回し黒い風の繭に篭り【狐】を相殺。更に【猫】を皮一枚で避け【仔猫】を鞭の中途を握りしめビッと伸ばした部分のピンポイントで防いだ。
すぐさま自身の得意リーチまで離れようとするケイコを裏のバトルマニアは逃がすハズはない。再び迫り黒鉈で斬り刻もうと肉薄を試みる。
その時。
男とケイコの間に垂れ流された石のマシンガン。直撃した男はすぐさま追撃をやめバックステップでその場から下がっていった。
「たたかえたのかよケイコさん! 子供に戦わせておいて酷いって!! 死にかけたって!!」
「おーーケイコさん滅茶苦茶強いよミレー! きっと博士が新兵器新ヒーローのスーツを間に合わせたんだよコレ!!」
「博士ってだれだよ! とにかくあのイカれたヤツお願いしますよ」
「何ふざけたことを言っている子春美玲、新人アイドルだ私のファンになれ。ファンとして私を守れ」
「こんな遅咲き新人アイドルのファンになるわけないでしょ! 今までの分戦ってください!」
「無茶を言うな。ヤツの動きはフツウじゃない、回避できたのも再現性はない新人アイドルには荷が重いぞ」
「フツウじゃない者同士でしょ! お似合いですって頑張ってくださいここが俺の距離です」
「子春が後ろだ、美玲お前は私の前だ。従わなければ一生握手してやらん!」
「嘘だろこのアイドル!!」
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3人になったオカルト探偵部はフォーメーションを組み直し前衛に盾役の可黒美玲、中衛に仕掛け役のケイコとケイコの指示に従う子春。
邪座でパワーアップした裏のバトルマニアとの戦いは続いていたが。
「どうやら武器は大事だったようだな」
「クク冗談だろこっちの訳の分からない武器を凌ぐか……」
戦闘中に男とケイコはその優劣をすぐに理解した。
黒鞭は男の多彩な技を振り回しただけの威力で相殺、押し返すほどに強烈なものだった。
「更に貴様の剣技を見て大事なものが分かった。美玲隠すなヤレ」
「隠してないって……ノッ!!」
美玲は橙色の石を何故か上空に向かって思いっきり投げ上げた。
そして男に向かい惜しみのないサン弾32の石の連射からオカルト探偵部の攻撃の組み立てを図る。
迫る白ジャージはケイコの指示のもと美玲の射撃に合わせチャージしていたオーラ張り手を男にぶち込むべく接近していく。
「【孔雀】【孔雀】よっと! 【猿】【猿】俺様の剣技の魅力が分かったかクク」
渾身のオーラ張り手は決まらず男に肉薄する前に猿のような素早い跳躍と前進の2閃が子春の両肩を斬り通り過ぎて行った。
少なくないダメージを受け苦痛に顔をしかめる子春。利き手の右肩を押さえ男にこれ以上の追撃をされないよう突進した勢いのままその場から離れた。
「行っちまえよおおおお【サンライトバースト】!!!!」
子春は体力的にもまだ持つと考えたケイコ。まさかの高校生の彼女を捨て駒にし。
本命の一閃が地上に向かい降り注いだ。
男の胸先一寸に着弾橙色のレーザービーム。
投げ放って高速で落ちて来たのは橙色のパワーストーン。サン弾だけでは火力不足だと感じていた可黒美玲は日頃からパワーストーンにネガティブエネルギーを充電し厄介な怪異相手もしもの時の切り札としてそれを隠し持つことにしていた。
だが裏のバトルマニアの男は美玲の放つ技の予想を立て寸前で身体を後ろによじりこれを回避、人間離れした反射神経を見せた。
「ミレーェェェェククはははは」
視界の橙色の閃光が止み。
自身の予想が美玲の考えた技と一致し高笑う男に肉薄していたのは既に全身に練り上げた緑の妖しいオーラ。
「は」
「下僕が私に当てるハズはない」
「【エレメンタルウィップ】」
1発鞭打たれた汚い金髪。緑のオーラは鞭から男に伝染し。囲んだ8つの風の魔法の刃がネズミパーカーをズタボロに引き裂き地を引き裂き。発生した強烈な風圧が男を彼方へと吹き飛ばした。
「これが【技】で、デビュー曲だド派手に受け取れ」




