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左右のフリッパーを失った大幅に弱体化したサハラワニフリッパーは父親パーティーのサンドバッグ代わりにされ滅された。賭け金は元の8倍になり全て返還され真の1位を駆け抜けた特典は余す事なくすべて平らげられた。


ここに、長い熱砂のレースは終わりを迎えた。そして。

ゴール後のご褒美が父親パーティーの視界に広がっていた。


砂漠の海を進み踏み入れたのは土と石で出来たそこそこの大きさの丸屋根のモスク、その前に構える中庭。


中庭の中心にある水場その泉の、本来ならそこに湧き出ていた水源は枯れている。老朽化しているのだろうか。砂漠の景色の中に突如現れたからか……誰にも使われず放置されていたそんな寂れた雰囲気を感じる。


「ナンカ情緒ですねぇ……」


「そう、だな……ん、どうした?」


導かれたかのように女神石像が不思議そうに空になった泉を見つめ底にあった丸い水芭蕉の紋様に触れてしまった。


すると。


魔法にでもかかったのか久々の来客に水は踊るように湧き出した。


開放的な中庭の水場施設は水を得て砂漠の地にその美しい人工的オアシスを広げて魅せた。


「うおおおすごいです!!」


「これは泉……? 体を清める的な?」


びしょ濡れになった女神石像はその泉の枠の中心で嬉しそうな顔で手を広げてその景色に魅入られているようだ。


「水魔法が仕掛けを解くトリガーだったりしたのか?」


外のラヴあスにはそんなギミックは無かったと思うが、完全版の追加要素なのだろうか。令月かほりがいれば水属性は使えるから問題は無さそうだしな……。


「歓迎されるのはうれしいんだが……」


俺たちほぼここにアイテムを漁りに来た賊なんだよなぁ……。


「よし水浴びしてから中に入ろう」


「王、作法を知っているんです?」


「…………知らん! ナニ、日本人は基本仏教徒だいけるイケる!!」


「デスね! 仏像さんに拝む前に全力お清めです!!」







長い熱砂のレースでの疲れを癒すように中庭の泉で水浴び休憩をし体を盛大に清めた父親パーティーはその後、お邪魔したモスクの中を入念に調べた。


出てきたレアアイテムの数々。希少で頼りになるレモンレモンスカッシュ天然水もあった。そしてまた……。


……ブーメラン。


「……あの魔女はやっぱり追加キャラか?」


「完全にモンスター引き取りお姉さんと化しているが」


「さすがにアレを引き取ってくれるとは思わなかったけどな」


3936階にて父親パーティーは一度、月の魔女の家へと見つけたステッカーを使いお邪魔していた。その時にドークスしていた珍しいモンスターを引き取ってもらっていたのであった。


土と石で出来たモスクの中は偶像崇拝が禁止されているためか、幾つもの老朽化した柱と汚れた赤い絨毯それと内面いっぱいに古くなり読み取れない何かを意図する壁画が描かれている。


合金なのか少し錆びついた金の装飾らしきものもありシンプルかつ豪華であった内装と歴史を感じさせる立派なモスク。


「やっぱりないか……」


「仏像ないですね……なんか寂しいです仏像さん特集も期待していたのデスが……!」


「いや、そうじゃなくて……」


「え、じゃあ何がです?」


「いや、うどんあるかなって」


「ぷはッうどん!? 王、この……なんていうか分からない異国チック神殿でさすがにそのボケは斬新過ぎます!」


「いやいや冗談、ハハ」



うどんじゃない……。


イッキアップがない。やはりイッキアップだけがない。


なぜだ。


強すぎて復活アイテムが廃止されたかラヴあス完全版……。

エロいゲームは難易度はともかくアイテム回復に関してはそんなにシビアじゃないはずなんだが。


「わたしもメガミさんみたいにお祈りはすべきなのでしょうか?」


女神石像はモスク内の一層陽の当たる場所で両手で祈りを捧げるようなポーズで目を閉じ佇んでいる。


「アレは…………寝てる」


「寝てる!?」


「ナニ、祈りを捧げながら眠ったなら夢の中の神様も許してくれるだろ」


それは突如。


モスクの窓から白い光が射し込む。


いや、白い光が呑み込んでいく。


「な、なんだ!?」


「ナンデス!? まぶし目がッ!?」


「バカ無理に開けるなサム、イイって言うまでVR病の俺に任せろ!」



白い光は止み、さっきまで騒々しかった神聖な空間はもぬけの殻になり寂れたモスクだけが残った。




父親パーティーを呑み込んでいった白い光は止んだ。モスクから見知らぬどこかの地へと飛ばされてしまったようだ。


「────ッ。……階移動じゃ、ないよな!」


VR慣れした薄目を開けながら状況を確認していた父親はその見たことのない光景に驚く。


「なんだ!? ここは!?」


近くに居たサムにゆっくり目を開けるよう指示した父親、しばしばと白い光量にヤラれた目を開いていく。


「────な、ナ、なんです!? アツッ」


周囲の景色を彩るメラメラとこれ見よがしに燃え盛る炎のフィールドと(まる)い焦げ色の大地。

赤い妖しい光源、熱く肌をヒリつかせるような空気がこの異界を支配していた。


そしてそこに仁王立ちするは────。


「ヤツの気配を感じ、(いざな)ったがなんだ貴様らは」


巨体、父親の倍はあろうその赤肌の巨躯に丸太のように太い鍛え抜かれた脚と腕。豪華な金の装飾をした防具や冠を身に纏いその地にどっしりと仁王立ちしていた。


なんだ……こんなやつは……!?


「あ、あんたおっと……俺は可黒……燕慈だ」


「ナグロ…………炎神だと!?」


その言葉を聞き、赤肌巨顔の形相が変わった。恐ろしいものに。


「いや待てなんか違う、違う!」

「違うって俺は炎神じゃない! 可黒……パパだ!」


「パパ!? 王、パパさんだったんです!?」


「ややこしいから今は黙ってろ!!!!」


「ひ……ハイ王……」


「我の眼前で……騒々しいぞ!! ヤツを騙る愚か者め!」


「あんた、あなたさまは炎神じゃないのか……?」


「…………」


「やはり愚か者ただの無礼者か……」


「燃やして浄化してやりたいところだが!! 貴様ごとき……我の炎がもったいないというものだ、早々にこの場から立ち去れ。我が怒りを買う前にナ」


ここは、こいつは何なんだ……炎っぽいし炎神だと思ったんだが違うのか……。ラヴあス完全版追加の隠しボスか?


……まぁいい……むしろソッチよりいい……。それより帰れって言われたなら逃げることも出来る隠しイベントという事か──────。


鬼狂ちゃんしかり、こういうのは大抵そこらのボスより強いよな……。


目と目が静寂で会話しあいヒリつく不穏な雰囲気の中。


突如、事態はまた変容する。


宙に縦楕円形の黒いゲートが開かれ、勢いよく、ゆったりと、2体のナニかが。


「ナンダなんだぁー!!?」


「何事です偽神(ぎしん)よ」



「勝手に嗅ぎつけて来るな、鼠の如き不愉快が」


「鼠だってよ、ひゃはは」


「その表現はなかなか的確ですね。このような屋根裏は私たちに居心地が良いものです、ふふん」


緑の鎖帷子に緑の羽帽子オールグリーンの装いの緑肌、烏帽子に単と長袴和風の仕上がりの青肌。大きさは父親とさほど変わりはない。


異界の支配者である赤肌の巨人とは違いこの場に不釣り合いな変わった服を着たヤツらだ。



「次から次へと何なんだ!?」


「ナンナンダ! なんなんだろうな!? ひゃはははは」


挑発するように見下した緑肌を無視しさりげなく辺りを見回し、パーティーの無事を確認した父親ことプレイヤー山田燕慈。熱砂のレースをゴールした次は灼熱の異界、何かが始まる予感しかしないその空気。隠しイベントは進行していく。じかんが刻々と迫り、プレイヤーの選択が迫られる。




新手のこいつらは何なんだ。


旨みがあるか? 引くかどうする……パッと見は炎の巨人がボスだとは思うんだけどな。……俺の予想するにこいつらは────。


「ニンゲンヤルぜええええ」


「待ちなさいプカ、偽神のゲストのようですが」


「我が炎は地上人より神を燃やし滅す為にある。弱き小さき命、我のサダメのウツワに乗せるものではない」



「の、ようですふふ!」


「ヤツのイカした黒服いただくぜええええ」


「ソレは私に譲ってほしいですねぇ、中々にクールな装いです」


「いいぜええじゃああの変なシャツは俺ンダ!!」


鋭く長い爪先でサムを指差したテンションが上がりっぱなしの緑肌。


「ひわ……わわたしデスか!? 譲れませんッ……フツウじゃないプレミアものですよこれは!」


「プレミアァァァ俺んダ! 俺はプレミアとグリーンに目がねぇ、ケッテイ俺ンだ!」


「ええ!? チ違います、これはフツウに大型ショッピングモールの服屋のあのぉ、その────」


「ふふん、アナタとは喧嘩にならないのでやりやすいですね」


「喧嘩すっと殺しちまうから兄弟ミンナァ妹もひゃはは殺しちゃダイナシ愛こそ愛ダァァァ」


「ふふんふ愛はたしかにいただきました。では、殺して来なさい」


「ひゃはははは愛した分はちゃんとコロおおおおス」

「バラバラのバラァァァンス」


「プレイヤー置いてけぼりで勝手にテンション上げて盛り上がってんな……!」


電子の荷から取り出された白蜜はプレイヤーの手に握られた。


「王、ヤルんです!?」


「あぁたぶん……これは」


突如、サムの視界が赤い炎で仕切られた。


刀を構えた父親とパーティーを分断するように炎の壁がごうごうと燃え上がっている。


「アツッあちつつ、王ーー無事です!?」



「我が眼前では決闘は一対一のみだ」


「だろうナァ……!」

「心配するなサム。漢同士のタイマンってヤツだ、あと女神石像にチョップしとけ」


「え!?」


戦闘態勢、女神石像は巨大なみずいろの魔法陣を構築している。


「メガミさん……失礼しますていっ!!」


石の脳天に直撃した手刀、構築していた魔法陣は集中を欠き消えてしまった。


観客席のつもりか出力をコントロールされた炎の壁により、七枝刀を既に取り出していたサムと父親の目が合った。父親は首を振り何かを目と目で話し合いサムはそれを理解した。


「的確アイコンタクト了解です……王! …………アイタッ、痛!? ええ!? ちょイタイです!?」


女神石像の石の手刀の連打がピンク髪の頭頂に襲いかかった。倍返しどころではない。


「何やってんだウチのパーティーは……」


石の板はその場にじっと佇んでいる。冷静沈着なのか……。


「訂正、ラヴあス勢はダメだな」


渋い大人顔はカードをしばし見つめ微笑みかけて、前方の敵に向き直った。


「興味がないワリに盛り上げますねぇ偽神!」


「ルールは大事ダァァァルールがあると俺は後悔をせずに済ゥゥゥム!! 弟も妹も天国ダァァァ!! ひゃははこういうの大好きだぜええええギシンのおやっさんンン」


「しゃべり過ぎだろあんたら……」


「貴様らは戦いも儀式供物にして勝手な理屈で捧げては我に浄化を請うていた。地上人よ、恨むまいな。それとも我が良心をもって炎を司る神としてこのサダメの場から逃がしてやろうか」


「さっきと言ってる事が全然違うぜアンタ! 逃げないから邪魔はしないでくれよ神様!」


赤肌の巨人はその立派な艶のある黒い髭を親指と人差し指でなぞりながら。


圧のある強面の眼を細めた。


「ひゃははその剣もプレミアかァァァ!」


「その美しき剣は私に譲ってほしいものですね」


「いいぜええええええ、愛が増せばマス程俺は斬り刻ァァァム」


緑肌は頭を抑え洒落た羽帽子を深く被り直し、伸ばした右の鋭い6の爪が開始の合図も無しに黒スーツに突っ込んできた。


「意味不明にラヴの高いパーティーだな! 来いよッ……悪魔退治だ!」



始まってしまった悪魔プカとプレイヤー父親の決闘。炎を司るらしき神が見守る中、テンションを上げに上げ猛進して来た緑肌に対し、美しき刀白蜜が迎え構えられた。

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