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父親が浴びた魔法の眠りから目覚めてから────謎の一室で事はすすんでいた。
「おい女神石像はどこだ!」
ベッドに腰掛けた父親がその横たわっている女体に向かい声を荒げた。
「はぁはぁ」
「下にいるわ」
脱力した身体で薄ピンク色の枕につかまりながら。息を少し整えて白い魔女は発言した。
売り飛ばされてなかったか、よかったー。
はぁっ、と大きく息を吐いた父親。
「はぁ売りはしないわはぁ……」
「これに懲りたらこれ以上あんまり邪魔しないでくれよっ!」
「ええ、はぁはぁ……」
そう軽く言い捨てて。彼はその場を立った。
きれいに折り畳まれていた、父親の服。
少し目に止まったが、気にせず急いで服を着た。そして小部屋の戸を開け。
廊下に出た。
そそくさと木の板の階段を降り下に向かう。
タッタッタッ。古そうな板だが踏む音は軽やかだ。
1階へと。
緑の、爽やかな風のにおいが流れ込んできた。
だがそんなささいな情報には彼は気付きもしない。
「女神石像無事か!」
女神石像はキッチンでお茶を淹れている。
石の手に持った白い陶器のポット。黒い粉の入ったフィルターにお湯が注がれた。
「あれ、なんだこれ……」
辺り一面の緑。心地よいそよ風と草原の緑がどこまでも広がっている。
白いテーブルを囲い各々席に座る積み木弓師赤青と様々な属性の人形たち。このエロいゲームのセカイでティータイムをたのしんでいるようだ。
「こうやってモンスターちゃんたちと一緒のじかんを過ごすのもいいものよ」
乱れた枯れ草色の髪のお姉さんがいつの間にか降りてきていた。
急いできたのか、トレードマークのあの帽子を身につけるのを忘れているようだ。
「……ハハ、それはいいけど…………。女神石像とりあえず……一杯くれ」
「ワタシもよメガミちゃん」
こちらをみつけて元気に手を振った彼女は、じょぼじょぼと勢いよくフィルターにお湯を注いだ。
コーヒー。女神石像が淹れたこの一杯、ちゃんとコーヒーの味だ。……少し薄いが。
魔女をしばき、茶をしばき。謎のティータイムを満喫している彼、父親。
緑の地、白いテーブルを隔て、向かいの席に座った魔女は特に何もしゃべらず。
さっきまで乱れていたのが嘘のように優雅な仕草で。
エロいゲームの世界の中でコーヒーが飲めるとはな……もしかしてあの工程、味も反映されているのか?
草原にぽつんと佇んだキッチンにいる女神石像はジョボジョボと大胆にお湯をコーヒーフィルターに注いでいる。
そういえばVニュースで少し見たことがある、興味のあるトピックだったから。その記事では。ゲーム内でコーヒーの味を再現するんだと狩野サハラが笑いながら言っていた。もちろんそんなの出来っこないよなゲームってのは味も香りもしないんだから。
でも、それの面白いところは。コーヒーをプレイヤーが飲むんじゃなくてNPCに飲ませてその味を理解させる味の言語化がどうたらって。つまりゲームの中の住人がその味を感じられたら成。
まぁ遠回りしただけな屁理屈な気もするな……。
「あまり考え込むクセは治したほうがいいわ」
……。
言われなくてもだ。
「……じゃあそろそろ帰らせてもらうぞ。女神石像とあれあいつどこだ、うお」
ケーキが運ばれて来た。彼のテーブル席に。
その板に乗せ。
「さ、さんきゅー」
その石のおぼんから皿を受け取り、運び終えた石の板は回転し縦向きに立った。
「じゃあ! もぐもぐぷはぁ! 帰ろう」
父親は胡桃クリームのケーキを手でつかみ一瞬で平らげ、なぜか追加で運ばれてきたなみなみに注がれた薄いアメリカンコーヒーで流し込んだ。
「それはかまわないけど」
女神石像の淹れたコーヒーを飲み脚を組みやけに大人しい様子の魔女はそう言った。
構わないなら早めにおさらばだ。
父親は席を立ち女神石像の元へと歩いていった。
つまりラヴあスにティクティカのモンスターと料理を足して混ぜた完全版ってことか?
アレして……コーヒー飲んでそんなのもう現実じゃん?
魔女にヘタなことは漏らさないようそう心の中で呟き、無限にコーヒーを作り続けていた女神石像と合流した。
「じゃあ……」
父親は一応、用心しあの魔法陣の上から再度退出することにした。
父親パーティーは既にティータイム中に草原の中に見つけていたそのマークの元へと歩み。
いつの間にか魔女が父親の前に姿を現し。見送りに来たのだろうか。
また眠らされないよう釘を刺しておこう。
「じゃあ本当もう帰るから! 邪魔だけはしないでくれよ」
「それはかまわないけど」
構わないならさっさとおさらばだ。
見送りに来た白い魔女を少し睨みつけ、目を離し。背を向けた。
淡々とその背を追う女神石像と石の板。
少し小高く盛り上がっている緑の地に描かれた黒い魔法陣へ向かい歩み寄っていく。
それは突如。
金色に輝いた魔法陣、その一瞬の光を上げ。
「ふいぃ、チッ……相変わらず景色のザッピングは目に悪い」
「あら?」
「くウふふ、魔女この子ね!! いい渋メンだわァ」
「お出迎えまでドウモカンシンっ」
深緑色のぴっちりとした全身を覆うシルクのローブ。スキンヘッドに1点ガーネットをあしらったサークレットを付けた長身。
ソレが魔法陣の場所からいきなり父親たちの前に現れたのだ。
「え、ナニ!?」
一応最大限の警戒はしていた。クソトレーダーの魔女の魔法に対してだが。
この見た目、俺の記憶、まさかとはおもうが……。
「ごめんなさい。もう売っちゃったの渋メンくん」
売る? コイツは何を言って……。
魔女に対し警戒をめぐらせ頭は常に働かせていた父親。
一瞬の間考えて、すぐ分かった。
「おい……俺はモンスターじゃねェ!!」




