15
朝も夜も変わらない色鮮やかなステンドグラスから射し込む光。
この男が目覚める時間それがきっと朝ということだろう。
さりさりさりさり。
「ん……ンン……」
さりさりさ。
疲れの取れたねぼけた目に光が射し込む。
「…………」
見上げると石のだれかさん。
俺は髪をワシワシされている。
寝ぼけた頭からの第一声は。
「……おはよう」
撫でていた石の手を戻し、
女神石像は今日もうんうんと元気良く頷いている。
VRじゃない夢はたしかに続いている。
父親、山田燕慈のエロいゲーム世界での2日目の朝が始まった。
布団から出て欠伸をしながら伸びる彼。その後、左の手のひらで顔全体を雑に撫で回し何かをリセットした。
そうだ、まず確認したいことがある。
「ミーヌ」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
白い女神石像
ランク 紅炎
ラヴ きょうみ
技
【アクアスナイプ∀】
【アクアちょーちょ∀】
【アクアドルフ】
【アクアばーど】
【アクアシルド】
【アクアとーねーど】
【アクアバイバイ】
【水鞭】
【アクアシャーチ】
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ラヴは変わらずか……」
「それでこの∀って」
「おそらくあの滅茶苦茶撃っていたアクアスナイプだよな……ラヴが上がって強化されたってことなのか?」
「エロいゲームにこんなシステムはなかったが新要素……ふぅぅぅ……」
父親はミステリーを解き明かそうとする渋い表情で口元に左手をかぶせている。
「さっぱりだ」
女神石像の顔を見ながら両手を広げ首を傾げた。
「てかこのアクアちょーちょってなんだろ? ほかにもどうぶつっぽいのがあるが使ってこなかったよな、気になるぞ」
「女神石像、アクアちょーちょ」
父親はスマートフォンの便利機能にでも話しかけているかのように言った。
女神石像はうんうんと頷いている。
そして。
綺麗な水の蝶々が手のひらの上から現れ、彼女の周りを優雅に飛んでいる。
「ナニこれバフ?」
女神石像は両腕をクロスさせ大きなばつ印を作っている。
「なんだろ……あ、デバフか!」
女神石像は大きなばつをトントントンと3回腕を合わせ打ち鳴らしている。少し怒った表情をしている。
「ええ……じゃあんーと、んーとんー」
ふいに、水のちょーちょがふわりと彼の鼻に着地した。
その抜けた光景に女神石像はおおきな微笑みを見せている。
「ハハ、ここまでのゲーム脳ってこわいな」
鼻をちょんとはじいた水の蝶は、その羽をひらひらと、光の射す方へと舞い上がっていった。
▼
▽
「爆牙斬!!」
炎刃が剥き出しの肋骨を切り裂き地から這い出た炎の牙が黒骨の騎士デススケルトンナイトに突き刺さる。
技を受け後方に浮き上がるように吹き飛ばされた黒骨の騎士。
追撃するように水の魔法レーザーがその黒い髑髏の顔面を捉える。
「行けモグ蔵」
突撃して行ったタチモグラの青いオーラを纏った大きな6指の手の、張り手が更に髑髏をはたき砕き炸裂する。
「よしよし、爆王斬!!」
流れるような連携技の間に敵に肉薄していた父親の一閃。
巨大な炎球が黒い骨を焼き砕きすべてを呑み込んだ。
ダメージ限界を迎えたデススケルトンナイトは光の粒へと散っていった。
「ふぅ、さすが野良の中ボスちょっとだけ硬かったな」
息を吐き出すと、白蜜は納刀され。
「おつかれー、女神石像……とモグ蔵!」
後衛にいた女神石像は元気に手を振りながらこちらに駆け寄ってきた。
タチモグラは何やら地を飛び跳ねて勝利を喜んでいるようだ。
お母さん、新しい仲間が増えました。延々と湧いてくるモグラを狩り続けたらむくりと立ち上がってこちらを見ていたんだ。見ろよこの目。
タチモグラの目はその茶色い体毛に覆われていて見つけるのが困難だ。二足歩行が出来るようになってもチャームポイントの地中生活で退化した目はそのままのようだ。
……石像のステージでは運悪くか知らないが仲間を増やせなかったが。どうやら普通の野良のモンスターも【ドークス】できたみたいだな。
「にしてもこのパーティー」
女神石像はタチモグラの毛をふぁさふぁさとその石の手で撫でている。
「カオスだな」
「もっと普通のRPGみたいにエロいスライムとかエロいサキュバスと冒険するもんではないのか」
「まぁモンスター育成ゲームじゃないからねこれは。エロいヒロインなしでこの塔を進めていた変わり者もいたらしいが」
俺もその変わり者になりそうだな。
それにあまりモンスターをドークスしたくない理由も……あるんだが。
「俺の知っているゲーム知識とは違っている可能性もあるよな」
「ここまでやって来たけどこのエロいゲームは間違いなくエロいゲームのシステムを元にしてるよな……完全版商法でも始めたのか?」
黒い髪をかき上げ、長く息を吐いた。
女神石像とタチモグラはじっと父親の顔を見つめている。
「ふっ、可能性に満ちた女神石像か……エロいヒロインなしでも案外なんとかなるかもな!」
「行くか!!」
父親はくるりと身体を反転させ案内人の電球色の明かりを頼りに歩き始めた。
その黒い背を追う仲間たち、2308階ダンジョンセカイの探索はつづく。
▼
▽
「ミーヌ」
▼▼▼▼▼
タチモグラ
ランク 豪炎
技
【オーラ張り手】
▼▼▼▼▼
「オーラ張り手のみって!」
「これ……子春の技のコピペだし。神座してないのになぜモグラがつかえる……エロいゲームよみんなのヒーロー子春ちゃんの技を奪ってやるなよ」
まだ俺と女神石像でなんとかなるだろうが、正直この先の戦いついて来れるか心配だなモグラくん。一応大まかな指示は通るから中衛にして敵の数が減ったら参戦してもらおう。
「漢前なモンスターだが……ハハ」
ドークスはあまり使わなかったから、モンスターに関しては分からないことの方が多いな……。もっとしっかり隅々プレイしておけば良かった。そういや……モンスターのヒーラーってどいつだったっけ……? うーん。
「マァ! そんなこと考えても仕方ないな」
電球色の暖かな光が照らすダンジョン通路、敵を殲滅し石の地べたに座り小休憩をしていた父親一行。
よくある熊のぬいぐるみのような格好でぽんと座っている愛らしいモグラと、正座の格好でお上品にちょこんとしている女神石像が彼の顔を見つめている。
「いいね。地べたに座っていても怒られない、ゲームだからね」
そう言い彼が立ち上がるとすぐその真似をするよう彼女らも立ち上がった。
「女神石像モグ蔵くん、行こうか!!」
女神石像はうんうんと頷き、タチモグラは6指の大きな右手を挙げて答えた。
またその背を追う仲間たち。
「ああっ! かんッぜんに忘れてた! アートル!」
忘れ物を思い出したかのように意気揚々に歩き続けていたその足を止めた。
右手に緑色のマップ。
そして左手に……。
「まじかよ……モグラくん……」
振り返った父親の目には首を傾げぽりぽりと長い指で頭を掻いている可愛らしいモグ蔵が映っている。
「わけのわからない戦争だけはイヤだぜ、もうヒトツ滅ぼしてるんだからなこっちは」
「ハハ」
意志に従って明かりは動いていき探す銀の木の元へと、不確かな暗がりの道を赤く塗り潰し進み目指していく。
3人、いや2人と1匹のパーティーはその後も行手を塞ぐ敵を蹴散らし危なげなくダンジョンの攻略を進めて行った。順調にゴールを求めて歩いて行く……未知のセカイを、一抹の不安とほんのちょっぴりの期待をのこして。
▼
▽
その肌色の手の6指を巧みに使い【∀】のサインを作り出した。
▼
46,506,791∀
グレープグレープ天然水×99 20,000∀
パイナップルパイナップル天然水×20 20,000∀
スコップ×1 1,000,000∀
黒糖土竜饅頭×30 10,000∀
▼
「バイフル」
プレイヤーと商人の取引は成立した。
ここはモグラの里。
これはエロいゲームではないようだ。
ダンジョン通路の横っ腹に不自然に空いていた大きな穴の土の滑り台を抜けたらそこはモグラのセカイだった。
父親一行は唐草模様の頭巾を被ったモグラ商人に手を振り別れを告げた。
「どうやら本当に完全版商法を始めたようだな」
灰茶色の空洞に広がるセカイ。
一般的な切妻屋根から何かの工場のようなノコギリ屋根、和風から洋風、のバラエティー豊かな家がぽんぽんと無造作に置かれていた。
「これをスコップ一本でやったなら天才だな」
父親は平坦な声と音量でそう言い。
設計ミスだろうか何故か道端にそこかしこに置かれている木の長椅子に腰掛けた3人。
側から見ると巨大なモグラと黒スーツの男と女神石像が並んでいるなんともいえない世界に一つだけの光景だ。
父親は脚を組み、それを両手で揉みほぐすようマッサージしながら休憩している。
野良だったモグ蔵が侵入した瞬間消されるかもと思ったが、ここの住人は特に気にしていないみたいだ。プレイヤーのお仲間特権だろう。
雑に置かれたベンチから見える光景。
タチモグラたちが灰茶色の土壁際に集まり掘削工事をしている。
そうなんだ、コイツら穴を掘っている……スコップで。
「生物として進化か退化かどっちなんだろうなこれ」
「手で掘ることをやめたモグラは果たしてモグラと言えるのだろうか」
ふと隣に座っているタチモグラに目をやる。
映るのは、その直毛の集合体の茶色い毛並み。
「…………」
さすーーーー。
「ナニコレ!!」
ビロードのような滑らかさ! なんだこれ! 高級な……!
さすーさすー。
「ギィーギィー」
突如、モグ蔵は鳴き声を発した。
「え!? モグラって鳴くのかエロいゲーム?」
さすーさすーさすー。
すっかりその毛質に夢中になっている彼。タチモグラから得られる未知の手触りに癒されていく。
またも突如のアクションが起こる、ぐいっぐいっと左側から父親のスーツの裾の部分が引っ張られている。
女神石像は少しむっとした表情で唇を尖らせこちらを見ている。
「これが嫉妬……!」
モグラを撫で回し石像に嫉妬される、これがエロいゲームをやり込んだ者の行き着く所だろう。
「父さん両脇にエロいヒロインなんてハーレムは飽きたぜ息子よ、ハハ」
その後父親は女神石像をなだめることに成功し、いっしょにベンチの真ん中に配置した巨大なモグラをなでなでしたのであった。




