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東の領地にて3



 船大工が手を入れた小型の船は、双胴船になっていた。2艘の船の真ん中に甲板が造られ、そこに私が座れば、海に手を伸ばしても、転覆の恐れはない。

また、海に手を伸ばした時に転げ落ちないよう、柵もついていた。

航行を目的としないため、安定性を重視した形になっていて、まあ、これなら?とアルフレッド公も、海に乗り出すことを、承知した。

ただ、安定性を重視したため、重量も重くなり、当初の予定では、貿易船に載せて運ぶ予定が、曳航することになった。


 貿易船が泊まれる港までは、私達が滞在していた野営地から、馬車で1日かかる。

小型船も、その港で作られたので、小型船ができる日に合わせて、騎士達に護られ、港まで、移動した。

 港には、2階建てホテルがあったので、全館を貸し切り、王族は、2階に、1階はすべて騎士達が入り、ホテルへは、従業員たちの出入りも禁止され、当然、外も四方を騎士が固めたので、厳重過ぎる守りに、街の人たちが、何が起きたのか、と少々、騒ぎになったりもした。


 ホテルに泊まった翌日の朝、私が、守られながら、港の船まで移動すれば、大勢の領民が集まっていて、騎士達が、私達に近づかないよう、警戒しているのが見えた。


「神の御子様!こちらを向いてください!」

「神の御子様!この子に祝福をお与えください!」

 大勢の領民が、なんとか、私と会いたがって、制止する騎士が大変そうだ。


「ユーリ、彼らは気にしないで。こっちへ。」

 アルフレッド公が、私を、領民から隠すように、肩を抱き寄せ、自分の側に引き寄せる。

熱烈な歓声を無視するのは、心苦しいけれど、彼らの中に、危険な人物がいないとは限らない。今の私は、護衛対象なのだ。護衛してくれている騎士達の気持ちをむげにするわけにはいかない。

 ぎゅっと唇を噛み、心の中で、無視してごめんなさい、とつぶやきながら、貿易船に乗り込めば、さすが、片道2か月も海を航行するだけあって、大きく、揺れも少ない。

貿易船の後ろには、双胴船が、ロープでつながれていた。


 ルーカス王子は港に残り、リリアナ妃とアルフレッド公が付き添い、騎士が数十人、船に乗って、私を守る。


 私が船酔いしないように、船は揺れが少なくなるようゆっくり航行し、野営地の近くの海に到着する。

曳航していた双胴船が、貿易船に引き寄せられ、慣れた船員が、動かないよう、貿易船に固定し、貿易船から、双胴船まで、梯子が下ろされた。

 アルフレッド公がまず降り、ついで、私が下りる。へっぴり腰が恥ずかしかったけれど、途中まで下りれば、アルフレッド公が、抱き下ろしてくれた。

そして、するするとリリアナ妃、数人の騎士が下りてくる。

念のため、いつでも抜剣できるように剣に手を当てて、周囲を警戒してくれている。


 貿易船の上には、万一、私が、海に落ちた場合、すぐ飛び込めるよう、準備した軽装の騎士さえ、控えていた。

 ちなみに、この船を操船する航海士と最小限の船員たちは、私達が、双胴船に下りると同時に、船底近くの海が見えない船員室に入ってもらって、外に出ないように騎士が見張っている。

彼らから危害を加えられる心配は、無さそうだけれど、彼らには、白い浄化の光をできるだけ見せないのが目的だそうだ。

私の力は、できるだけ、隠す。そうだ。だから、同行している騎士団の騎士は、私の浄化の力を口外しないよう、「聖なる騎士の誓い」で、誓っている。


「念のために。」

と、アルフレッド公と私の腰は、帯で繋がれる。

ここまで心配しなくても、と思うのだけれど、西の領地での誘拐事件以後、アルフレッド公の私への執着・・・ごほん。守りは、行き過ぎと思うほど、厳重になった。



 船べりで横座りすると、アルフレッド公が、後ろから、私の腰に手をまわして、がっちり支える。

背中に、アルフレッド公が密着しているので、顔が真っ赤になるけれど・・・。

たぶん、抗議しても、離してもらえない。

あきらめて、海に手が届くよう、前かがみになれば、背中から、アルフレッド公が離れたけれど、腰に回した手に力が籠められるのがわかった。

・・・これなら、船が揺れても、海に転落しなくて済みそうだ。


 海の中に、両手を沈め、海底に手のひらを向ける。


「神よ。青竜ブラウを蝕む、黒い想念を、払えますように。この海が、元の美しい透明な海になるよう、癒しの力をお貸しください・・・。」

 いつものように、一生懸命祈れば、私の両手がまた、熱くなる。

白い光が、海の中を染めていくのが、わかる。

あとで、リリアナ妃に教えてもらったところによれば、海の表は、白い光が覆っているのだけれど、地上ほど、目立たなかったそうだ。日の光で、いつもより輝いているかな?という感じで。


「ユーリ、そこまでだ。」

 アルフレッド公が、私の腰を持ったまま、自分の方に、引き寄せる。

海辺から、引き離されて、船の真ん中に連れてこられた。ほっとする間もなく、いきなり、船が大きく揺れた。


「きゃあああ!?」


 アルフレッド公が、私をがっちり抱きしめ、海に落ちないようにしてくれる。

何度かの大きな揺れに耐えていたところを、いきなり、海面が割れて、大波が襲い、全身がびしょ濡れになる・・・と同時に、何かが、海中から現れた。


「竜・・・。」

「うわあああ、竜だ!青竜様か!?」


 私の正面に、青い竜が、居た。


「青竜、ブラウ様、ですね?」

 私が、呼びかければ、竜は、ふいっと、私から、目を逸らす。

「・・・神の御使いか。」

「はい。ユーリと申します。」

「ユーリ、か。我を、いきなり直接、浄化する、とはな。今までの御使いとは、全く違うではないか。」

「えー・・・と。ご迷惑、でしたでしょうか。」

「いや・・・。黒いモヤに包まれ、怒りと憎悪を持ち続けるのは、疲れる・・・。だから、助かった。」

「黒いモヤを払えて、良かったです。・・・あの、地上にあふれた魔獣達は、元いた地下に戻るでしょうか?」

「戻ってほしいのか?」

「え?・・・できれば・・・。この東の領地の民が、魔獣が街で暴れるので、困っていますし・・・。」

「・・・ふん。・・・奴らが戻る地は、無い。だが、我の精気で生まれたことも確か。奴ら全員、魔石に戻そう。」

「え?」

「グガギャアウアウアアアアア!!!!」


 今までの3竜とは全く違う、不愉快な咆哮が、森の方にびりびりと響き渡る。


「ユーリよ。森の中の魔獣は、消滅させた。」

「はい?」

「森の中をたどれ。魔石がたくさん落ちているはずだ。そちへの礼として、渡そう。」

「え?え?」

「我は、また眠る。」


 いきなり、青竜ブラウは、ざばっ!と海の中に沈み、また、大波を頭からかぶって、咳きこんだ。


「ユーリ。大丈夫か!?」

 アルフレッド公が、背中をさすってくれる。

「はい。大丈夫、です。」

「青竜殿は、何と?」

「えっと、森の中の魔獣を消滅させたそうです。森の中に魔石が落ちているから、それをお礼にくれるとか。あと、彼は、眠る。だそうです。」



 梯子を上って、貿易船に戻り、貿易船は、港まで戻る。

戻る途中、海を眺めれば、あの濃い青色は、どこにもなく、珊瑚を扱っていた商人が言ったように、限りなく透明なエメラルドブルーの海が広がり、海底を覗き込めば、魚が泳いでいるのが見え、とても、美しかった。

騎士や船員たちも、来た時と全く違う海の色に、歓声を上げて見ていた。


 港に戻り、ルーカス王子に浄化が終わったことや、森の話を伝えれば、ルーカス王子が、一部の騎士達を、魔石回収のために、森へ向かわせた。

 ホテルに戻り、湯あみして、ようやく、ほっとするも、明日は、王都にそのまま帰ると言われる。

 もっとゆっくり、あの綺麗な海を見ていたかったけれど、2か月の予定が、3か月になろうとしているので、諦めざるをえない。




明日、3話まとめて投稿します。それで完結となります。

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