東の領地にて1
冬が終わり、私がこちらに召喚されて、2回目の春がめぐってきた。
アルフレッド公との結婚式が、秋の終わりに執り行われることが正式な日程とともに発表され、国内がお祝いムードで沸いている、そんな中、東の領地の魔獣討伐の日程も決まった。
「東が最後。ユーリ嬢、また、ご面倒をおかけしますが、どうぞよろしくお願いします。」
レジナルド王初め、宰相や大臣達に頭を下げられる。
「頑張ります・・・。」
東が浄化されれば、召喚された役目は終わる。
結婚式の後は、王族の最低限の義務を果たせば、何をしても良いことになっている。
アルフレッド公と一緒に、薬の研究をしたいなあ。とひそかに思っているけれど。・・・もともと、医者になりたかったし。
竜乙女の騎士団は、冬の間に、半数以上の団員が入れ変わった。全員、ルーカス王子が元から率いる近衛騎士団か、第一国軍の騎士から選ばれた。エリート中のエリートであるだけでなく、代々、王家に忠誠を使ってきた家柄の貴族ばかり。
「裏切り者は、おそらく、出ない、はずです。・・・念のため、3人で一組グループを組ませ、単独行動を禁止しました。グループは、随時、メンバーを組み替えます。」
ルーカス王子から、説明を受けて、それなら、大丈夫そうだ、とほっとする。
また、アルフレッド公も、今後は、私を絶対に優先すると言う。
私から離れない。私の生命と安全が第一。だから、目の前で民が危険に合ったとしても、対応しない。民は、後回しと割り切ると。
・・・それは、レジナルド王の命令でもあった。
東の領地に滞在するのは、2か月と決められ、今までの討伐より、多くの騎士が、東の領地に向かう。
それは、各地に、魔獣討伐のために差し向けられていた騎士団が、その必要を無くして、王都または国境に戻ったことを意味する。
本来の、国防のための騎士団が、機能してきた、ということだ。
今まで無いほど、厳重に護られ、東の領地に向かう。
東の領地には、海があると言う。
こちらに来てから、海を見ていないので、海が見られるのが楽しみだ。
「東の領地の海には、港があるの?」
「小さな港はあるが・・・。漁師たちが漁に出るための港だ。」
「海の向こうの国との交易は?」
「無いな。・・・海の向こうに国があるのは知っているが、船で2か月くらいかかる。ごくたまに、貿易商が船を出すことがあるので、その船が戻ってきたら、話を聞かせてもらっているが・・・。こちらより、文明が進んでいない。貿易商が仕入れてくるのは、主に、香辛料だけだ。暑い国でしか取れない、貴重な香辛料がある。往復で半年かかるから、非常に高価で、王宮と一部の貴族しか使えない。」
海の向こうの国は、貨幣も流通していない上、宝石や金銀にも興味を持ってもらえないので、衣服や鍋や皿などの日常品と交換しているらしい。
そんな話を聞きながらも、東の領地まで、6日間。トラブルなく、到着した。
東の領地では、野営地まで、直行した。
なんと、冬の間に、野営地の近くに、私が滞在するための小さな館が造られていた。
住むのは、王族だけなので、1階建ての小さなものだけれど、ルーカス王子夫妻、アルフレッド公と私の居室以外に、調理室やダイニングなどが、ちゃんと作られていた。
この館をぐるりと囲むように、騎士達の野営のテントが張られ、騎士に見られずに中に入ることは、できない。
レジナルド王が、絶対に私を守れ、と厳命して作らせたそうだ。
2カ月しか住まないのに、かなり頑丈な建物で、室内も、貴族の部屋らしくそれなりに豪華で、ちょっと申し訳ないくらいの配慮。
本来は、東の領主へ挨拶に行くところだけれど、それも、省かれた。
冬の間に、東の領主が、王宮に伺候し、王宮で、私達は、挨拶をしている。それで良い、とされたのだ。
騎士達が、交代で、森の中に、魔獣を討伐し、奥への道を開いている間、海を見に連れて行ってもらった。
野営地から、馬に乗って30分も走れば、海岸に到着する。
海水浴などは、できそうにない、岩場がごつごつした海岸が続いていて、海の色は、濃い青だった。底が見えないほどの濃い青に驚いたけれど、きっと、いきなり海が深くなっているのだろう、と勝手に思い込む。
さらさらの砂浜を見たかったけれど、そこまで行くためには、馬車だと、半日くらいかかるらしい。そのため、今回は行けない、と謝られた。
少しがっかりしたけれど、久しぶりに潮風のしょっぱい匂いを嗅げて、懐かしかった。
それから、街にも出たかったけれど、それも、禁止だった。
徹底的に、人に会わせないよう、徹底されていて、息が詰まりそう。誘拐と暗殺を警戒しているのは、わかっているのだけれど。
その代わり、野営地まで、騎士が、商人を連れてきてくれて、1つのテントの中で、いろいろ見せてもらえることになった。
海沿いの街なので、珊瑚や真珠、貝殻細工が、名産品なのだそうだ。
商人が来る日は、リリアナ妃も一緒に側にいてくれて、2人で、自分達のだけでなく、アイリーン王妃へのお土産も選べて、楽しかった。
「この珊瑚が取れる海は、水の色がエメラルドグリーンで、とても透き通っていて、海面からかなり深いところまで見渡せるのですよ。」
と、珊瑚を見せてくれた商人から聞いて、そういう海を見たかったんだけれどな、と思いながら、ここから時間がかかる場所なんだろう、と今回は、行きたいとお願いすることを、諦めた。いつか、その海を見てみたい。
週に1度くらい、濃い青の海を見るため、海岸まで出かける以外、野営地に閉じ籠っているうち、森の中頃まで到達した、とルーカス王子が、声をかけてくる。
「そろそろ、浄化をお願いしたい。」と。
私は、アルフレッド公たちに護られて、森の中に入る。
ちなみに、東の青竜、ブラウには、東の領地に入った時から、ずっと呼びかけていたけれど、こちらもやはり、反応は全く無かった。
かなり森の奥まで来てから、また、大地に膝をつき、両手を、あてる。
西の領地の時と同じように、私の横に、アルフレッド公が膝をつき、ルーカス王子とリリアナ妃が、私達を守るように、剣を構える。
私達を中心に、ぐるりと、1メートルほど離れて、騎士達が、円形に何重にも囲む。
「ユーリ嬢。護りの準備はできました。・・・お願いします。」
「はい。」
目をつぶって、祈る。
「神よ、この大地の傷みを、癒してください。青竜ブラウの身にまとわりつく、暗い想念を払ってください。この地を浄化し、この地の民が安心して暮らせるように、力をお貸しください。」
一生懸命に心をこめて祈れば、また、両手が熱くなり、白い光があふれてくるのが、わかる。
やがて、アルフレッド公が、私の手を取り、
「そこまでだ。ユーリ。」
と、魔力が切れる前に、やめさせてくれる。
だけれど、今回、私は、森の奥まで、浄化できなかった気がして、不安が残った。
「ルーカス王子。もしかしたら、森の奥まで、浄化できていないかもしれません。」
「ユーリ嬢?」
「他の地を癒した時の安心感が・・・今回、無いのです・・・。」
「森の半ばまで達したと考えていたけれど、そうじゃなかった、ということか・・・?森の奥までまだまだ距離があると?・・・ユーリ嬢。わかりました。偵察隊を出しましょう。まずは、野営地に戻りましょう。」




