西の領地から王都へ
黄竜が引き上げていったので、魔獣の脅威は、完全に去った、と、ルーカス王子は、判断し、今までのように、様子を見るための騎士を残すことなく、私達は、全員、西の領地を去った。
西の領地の領主、スナハイム侯爵には、フェロー王国の動静を、今まで以上に警戒するよう、指示を残して。
そして、シュヴァルスも、北の領地に戻っていった。
「何かあったら、ゲルプではなく、我を頼れ!我の名を呼べ!」
と、しつこいくらいに、私に言って。
東の領地の浄化と、その後の結婚式が終わったら、北の領地に行くことを、シュヴァルスと約束し、助けてくれたお礼を何度も述べて、黒竜と別れた。
王宮に着けば、また、レジナルド王と王妃が、馬車寄せまで出てきて、待っており、後ろには、困った顔の宰相や大臣達も揃っていた。
馬車から降りれば、レジナルド王が、いきなり私の前に跪き、フェロー王国の元帥が我が国に入り込んで、私を誘拐したことを、詫びてくる。
国王に跪かれて、真っ青になり、必死で、立ってもらって、お詫びはもう不要だと、何度も、お願いする。
アルフレッド公がとりなし、どうにか、王宮の中に入ってもらえたけれど、その後、一室に王族が集まれば、レジナルド王だけでなく、王族全員から、頭を下げられてしまって、困惑で、いたたまれなかった。
どうにか、お詫びを受ける、と言って、もうこの件は、蒸し返さないように、頼んだ。
ようやく、帰還の挨拶と、お詫びの嵐から逃れて、赤の宮殿に戻ってきて、ドルチェとレーテの歓迎を受ける。
誘拐、監禁されたことは、2人も知っていて、私を、お風呂に入れて、マッサージをしながら、無事で良かったです、と泣かれ、私も、2人の顔を見て、やっと、自分の家に帰ってきた安心感がどっと湧き出て、3人で、抱き合って泣いてしまった。
身支度が終わったころには、3人とも、ウサギのように赤い目をしていたことは、言うまでもない。
着替えが終わってから、アルフレッド公の居室に行けば、アルフレッド公が、とても思いつめた顔をしていた。
実は、監禁から戻って以来、アルフレッド公は、ずっと、張りつめた顔をしていて、西の領地や、その帰りの馬車の中など、ずっと考え込んでいる時間が多かった。
「・・・アル?」
「ユーリ・・・。」
アルフレッド公が、手を差し伸べてきたので、その手を取れば、軽く引っ張られて、彼の隣に座らせられる。・・・珍しい。いつもだと、膝の上に座らせられるのに?
「アル?ずっと顔色が悪いし・・・。大丈夫?」
「・・・君を護る、と約束しながら、何度も、その約束を、破った。」
苦渋に満ちた声が聞こえた。
「ユーリ。私は、君に、ふさわしくない・・・のではないか、と思う。」
「アル!?」
「君を守れないのは、神の御使いの伴侶として、失格だ。だから・・・。」
私は、アルフレッド公の両頬を、パン!と両手で、強くたたいた。
「っ!・・・ユーリ?」
「守れないから、失格って何?」
「ユーリ・・・。」
「私は、守ってほしくて、アルを選んだんじゃないわ。」
私の目から、ぽろぽろ涙がこぼれた。
「アルが好きなのに、アルは、そうじゃないの?」
「ち、違う!私も、ユーリが好きだ!」
「だったら!・・・ふさわしくないとか、言わないでよ・・・。」
私は、アルフレッド公の胸にしがみついた。
「い、居なくならないで、お願いだから・・・。」
ぎゅっと、アルフレッド公が力を入れて、抱きしめてきた。
「ユーリ・・・。君を守れなかったのに、君の側にいてもいいのか?・・・私を嫌いにならないのか?」
「き、嫌いになんか、なるわけ、ないでしょう!・・・アルの、ばかあ!」
涙が滝のように流れて、アルフレッド公の上着を濡らす。
アルフレッド公が、頬を、両手で挟んで、上を向かせる。
顔が近づいてきたと思ったら、目元に口づけし、その口づけは、頬から顎に下がっていく。舌が、涙をなめとる。
頬などに口づけられるのは、慣れていたけれど、舌で舐められるのは、初めてで、私は、びっくりしすぎて、涙が止まったのにも気づかず、アルフレッド公の青い瞳を見つめていた。
「ユーリ。ごめん。泣かせて、ごめん。・・・愛してる。・・・君を、これからも、愛することを、許してくれる?」
ひくっと、まだ、けいれんを残しながらも、うなずく。
アルフレッド公が、口づけしてきた。
「ん・・・!」
彼の舌が、噛みしめた歯を割って、侵入してくる。その舌は、やさしく、口内を愛撫し、意識が、半分どこかに飛んでいた。
彼が、離れたとき、脱力して、ぐったり、彼の胸によりかかったまま、動けなくなっていた。
そんな私を、膝の上に抱き上げて座らせ、ぎゅっと抱きしめてくれる。
「ユーリ。私は、君を、君だけを、愛している。・・・私から、離れて行かないで。私の側にいて、私に、君を守らせて。」
西の領地で、誘拐されてから、ずっと、守れなかったことを、悔いていた。だから、もう側にいてはいけないのではないか、自分の独りよがりの愛情で縛ってはいけないのではないか、と悩んでいたと、つぶやく。
今度こそ、間違えない。何があっても、君の手を離さない。と、アルフレッド公が、私の目を見つめながら、言葉を紡ぐ。




