西の領地にて4
ゆっくりと意識を浮上させた。
目をあけたけれど、真っ暗だ。
「夜・・・?」
「目覚めたかね、神の御使い殿。」
「だれっ!?」
聞き覚えのない声に、跳ね起きようとして、腕が縛られているらしいことに気付く。
縛られているらしい、というのは、真っ暗で何も見えないから。
でも、誰かが、私の背中に手をあてて起こし、座らせた。
どうも、ベッドの上にいるようだ。
「御使い殿。目隠しを取らないように、腕を縛らせてもらっている。」
ひんやりとした声が、聞こえた。
「何しろ、貴女の目を見ると、魅了にかかってしまいますからね?」
私の背中を、冷や汗が伝った。
え?なぜ、私の魅了の力を、知っているの?彼は、誰?
「ここは?私をどうするつもり?」
「大人しくしていてくだされば、危害は加えません。」
「何が、望みなの?」
「フェロー王国に連れて行くことですよ。貴女を。」
「フェロー王国?」
「ええ。フェロー王国です。ご存じかどうかわかりませんがね。彼の国も、魔獣が暴れて大変なのですよ?貴女の力を、フェロー王国が所望しています。だから、ね。あなたは、彼の国で、浄化の力を使っていただきたいのです。・・・浄化さえしてくれればね、命は、保証します。そしてね、それが終わったら、魅了の力を、使ってもらいますよ。ふふふ。この国を攻め滅ぼすためにね。」
「そ!そんなこと!誰がするものですか!」
バン!
頬に痛みが走った。平手打ちされたらしい。
「御使い殿?貴女に選択肢はないのですよ。私の言うとおりにしなければ、私は、貴女が言うことを聞くまで、拷問します。ねえ?でも、言うとおりにすれば、大事にしてさしあげますからね。そのほうが、貴女も楽ですよ?」
冷たい声に、身体が震えてきた。拷問?
「閣下。」
誰かが、部屋に入ってくる音がして、呼び掛けてきた。
「なんだね?」
「当分、船が出せません。」
「何?」
「ルーカス王子が、船着き場を閉鎖しました。その上、川を航行する船は、全船、問答無用で、攻撃すると警告が出ています。」
「ちっ。思ったより、動きが早いですね?」
「どうします?」
「まあ、いいでしょう。焦らなくても。1か月、2か月、いくらでも、待てますからね。いくつか、馬車と、人を、夜陰に紛れて、この街から、こっそり出しなさい。何度もね。・・・そのうち、この街には、いないだろう、すでにどこかに連れ出された、と判断されるまで。それまで、私達は、ここで、いつも通り、生活していればいい。・・・この部屋が、バレることは、絶対に無いしね。」
「承知しました。」
誰かが、部屋から出ていく音がする。
「ねえ。神の御使い殿。この部屋からは逃げられませんし、それに、大声を出しても、外には聞こえませんからね?なにしろ、ここは、地下室で。大声を出しても、屋敷の外には届かない。屋敷の中は、私の配下だけ。聞こえても、誰も助けに来ません。わかりますね?大人しく、船が出るまで、ここで暮らしていてください。大人しくしていれば、私は、あなたに危害を加えないのだから。」
じんじんと痛む、ぶたれた頬が、するりと撫でられる。気持ち悪い。
「世話をする娘をよこします。食事も着替えも、排せつも、全て、その娘がやります。目隠しと縄は外しません。よろしいですね?」
「ねえ?ここに連れてこられて、何日?」
食事を食べさせようとしている女性に声をかけた。
「・・・。」
「それくらい、教えてくれてもいいんじゃないの?」
「4日です。」
「そう・・・。」
その後、目かくしされたまま、腕も縄で縛られて、暗闇の中、ベッドの上で過ごしていた。世話は、女性がやってくれる。
トイレに行きたいと言えば、手を引き連れて行ってくれるけれど、ベッドから、数歩なので、室内に設けられているのが明らか。部屋の外に出させてもらえない。
その後、私をぶった男性は、部屋に来ていないので、状況も全くわからない。
目隠しをされ、真っ暗な中にいるという、ただ、それだけなのに、拷問のようで、気が狂いそうになることを、知らなかった。
何か話していないと、不安で押しつぶされそうになる。
女性は、あまり私と話をしないように指示されているらしく、ほとんど話をしてくれないけれど、食事は何?とか、今、あなたは何をしているの?と言った、たわいもない会話であれば、答えてくれたので、少し、救われている。
「夜です。もう寝てください。朝になったら起こしに来ます。」
女性が、私をベッドに寝かせ、布団をかけてくれた。出ていく音がする。
せめて、目かくしが取れれば・・・。
寝ている間は、目隠しを取らないよう、私の両手首は、左右のベッドの柱に、くくりつけられる。起き上がろうとすると手首に食い込み、寝がえりさえ打てない。
起きている間は、目かくしに手が届く位置にうまく持って行っても、女性が、その手を乱暴に下ろさせる。
「痛い目にあいたくなかったら、取らないことです。」
と、冷ややかに言いながら。
目から、涙がこぼれた。
「アル・・・。アル・・・。助けて・・・。」




