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サウザント女侯爵

★暴力の記述があります。苦手な方は、飛ばしてください。★



 王宮に帰り、旅の疲れを癒して、1週間ほど経ったとき、王宮に、イザベラ侯爵令嬢が来ていると、聞かされた。


なんと、サウザント侯爵は、早々と、イザベラに、侯爵位を譲って、隠居したらしい。

貴族は、当主が変わったら、国王にその旨を挨拶し、王宮には、当主変更の書類を提出しなければならない。

そのため、イザベラ・サウザント女侯爵が伺候してきたそうだ。


「ユーリとアルフレッド様は、絶対に、この宮殿から出ちゃだめよ!」

 それを知らせに来てくれた、リリアナ妃が、カンカンに怒っている。


 アルフレッド公は、用心して、宮殿の警備を増やし、私も、王族しか入れない3階からなるべく出ないように、と言われた。


「私より、アルが目的でしょうから・・・。アルは、大丈夫なの?」

「問題ない。彼女が滞在している間、私は、王宮の政務にも行かない。王からも許可をもらっている。」


 イザベラ女侯爵が、王宮に滞在するのは、約7日。書類が関係部門の認可を受けるまで、最短でそれくらいはかかるのだそうだ。

1週間くらい、部屋に閉じ籠っていても、気にならないので、ドルチェとレーテに、図書室から、本を持ってきてもらって、読書したり、アルフレッド公の授業を受けて、過ごした。

 そうそう、戻ってきてから、魔法の勉強も始めている。

魔法というよりも、魔力の扱い方の勉強。魔力が減るという感覚が、わからないので、自分の魔力量がわかるようになることが目標。

今のところ、さっぱりわからないのだけれど。


 7日たち、サウザント女侯爵が書類上も認められ、彼女は、ようやく、王宮から去って行ったと、リリアナ妃が、知らせてくれた。


「閉じ籠っていて、正解よ!1週間の間、アルフレッド大公殿下に会わせてくださいませ。と、あちこち、うろついていたもの!この宮殿にも何度も押しかけて、騎士達が、通さないようにするのに大変だったみたいよ!警備を増やして、正解よ!」

 と、最後まで、怒っていたけれど。






 そして、翌日、アルフレッド公は、東西の領地のどちらを先に討伐するかの打ち合わせで、王宮に向かい、私は、さすがに1週間、自室から出なかったので、固まった身体をほぐそうと、アルフレッド公の宮殿の内庭で、散歩を楽しむ。


 がさっと、後方の茂みから音がして、何気なく、振り返った途端、さーっと青ざめた。


「え?・・・イザベラ様?」


 王宮から去ったはずの、イザベラ女侯爵が、目の前に立っていた。


「あなたがいるから、アルフレッド様は、わたくしを見てくださらないの。」

 ぎらっと光った瞳には、狂気が宿っている。

「アルフレッド様は、わたくしのものよ!」


 すっと私に近づくと、イザベラ女侯爵が、私の頬にビンタしてきた。


「痛い!・・・何をす・・・!」

 その口元に、後ろから手が伸びてきて、布が当てられ、何かツンとする臭いがする。

その手をふりほどこうと暴れたけれど、目の前の、にやりと笑うイザベラ女侯爵を見ながら、意識を手放した。





「王宮から、この娘を連れ出すのは、警備が厳重だから、無理でございます。」

 焦った声が聞こえて、かすかに目をあけた。


うっすらと細目で見ると、イザベラ女侯爵と、若い男性が、何か言い争っている。


「夜、衣装箱に入れるとかすれば、連れ出せるのではないの?」

「大きな荷物は、事前に申告が必要ですし、イザベラ様は、もうこの王宮にいないことになっているのです。とてもではないですが、王宮の外には連れ出せません。」

「いいわよ!それなら。じゃあ、この部屋に、平民の従僕どもを集めて?彼らに命じるのよ。この女を輪姦しろと。」

「イザベラ様!」

「何よ。わたくしに逆らう気?わたくしは、侯爵を継いだのよ?逆らうなら、お前に死ねと命じることもできてよ?」

「・・・ぐっ。承知しました。」

男性が、急ぎ足で、出ていく音がする。


・・・輪姦?輪姦って・・・。

後ずさりしようとして、はっとした。後ろ手に手を縛られ、足首も縛られている。


 物音に気付いたのだろう。イザベラ女侯爵が、私を見た。


「あら?気付いたの?」


 イザベラ女侯爵が、近づいてくる。


「うふふ。もう少し待っててね?とーっても素敵な時間を過ごさせてあげるから。・・・ああ、それにしても、きれいな肌ね?」


 すーっと、彼女の手が、私の頬をなで、首筋から、胸まで、指を走らせる。


「憎いわあ。あなたのこのきれいな肌。・・・でもね。このきれいな肌も、すぐに、汚れるわ。・・・うふふ。あなたはね、汚されるの。処女を奪われて、何人もの男を受け入れて。ぐちゃぐちゃになって。うふふふ。そうなったら、アルフレッド様は、あなたとの婚約を破棄するでしょう。」


彼女は、短剣を取り出す。

すーっと、私の頬から、首にかけて、その刃を走らせた。血が、したたるのがわかる。


「くすくす。・・・それにしても、綺麗な黒い瞳ね。その瞳で、アルフレッド様を誘惑したのかしら?」

 イザベラ女侯爵が、私の目を覗き込んでくる。


・・・魅了を使いたくないけれど、私は、顔を背けず、彼女の眼を睨みつけた。それしか、きっと、私が助かる方法は、無い。


 扉が開き、どかどかと、何人かが入ってくる音、そして、扉に鍵が掛る音がした。


「イザベラ様。連れてきました。・・・どいてください。・・・おい、お前ら。そこに縛られている娘だ。全員で、回せ。・・・イザベラ様?」


 イザベラ女侯爵の目が、とろりとしたのを感じて、イザベラ女侯爵だけに聞こえる声で、ささやく。


「彼らを、全員、部屋から追い出して。」

「・・・承知しました。我が主。」


 イザベラ女侯爵が、のろのろと、私から、身体を離し、大声で命じる。


「気が変わったわ。全員出ていけ!」

「「「え?」」」

「聞こえなかったの!?早く出ていけ!」


 イザベラ女侯爵が、短剣を振り回す。


「うわ!イザベラ様、危ないですよ!・・・わかりました、わかりました、出ていきます。でも、殺しちゃだめですよ!王宮では、死体の始末も大変なんですから!」


 全員が、バタバタと退室し、室内が、静まり返る。


「我が主。全員出て行きました。」

「そ、そうね。・・・私の手足の縄を、切って。」

「承知しました。我が主。」


 イザベラ女侯爵が、短剣で、縄を切ってくれる。


緩まないように厳重に縛られていたようで、縄が無くなっても、しびれて、痛い。

でも、逃げなくちゃ。


 窓辺に走り寄った。外は、まだ明るく、攫われてから、数時間と経っていないように思われる。しかも、ここは、1階だ。

どこかわからないけれど、庭には誰もいない。扉から出ると、扉の外に、さきほどの男性が居る可能性が高い。

窓から出よう。

 イザベラ女侯爵に命じる。

「あなたは、この部屋から出ないように。」

「承知しました。我が主。」


 窓の外にあるベランダの手すりに、髪をまとめていた青いリボンを結び付けてから、庭に出て、周囲を見渡す。小走りしながら、部屋から離れていくと、人の声がしたので、さっと、植木に姿を隠して、様子を見る。

女官らしい令嬢が、2人、楽しそうにおしゃべりしながら、ベンチに腰かけて、何か食べているのが見えた。休憩時間なのだろう。

イザベラとは、関係が無さそう。

私が、姿を現したら、悲鳴をあげられたけれど、黒髪黒目は有名だ。


「神の御使い様!なぜ、こんなところに!」


 真っ青になって、2人のうち、1人が、騎士を呼びに走り、もう一人が、ベンチに私を座らせ、私の頬の血をハンカチで、押さえてくれる。

聞けば、ここは、王家に仕える侍女達の住む館の庭だそうだ。


 騎士達が走ってきて、私を保護してくれ、歩けますか?と声をかけられ、うなずく。

ふらつくけれど、手を支えてもらって、その庭から、侍女達の住む館を抜ければ、王宮が、意外と近くにあることに気付く。

・・・と、王宮の方角から、アルフレッド公、ルーカス王子が、青い顔をして、駆け寄ってきた。

アルフレッド公が、私を抱き上げる。

ルーカス王子が、いったい、この怪我は?そもそも、なぜ、こんなところに?と、聞いてきたので、アルフレッド公とルーカス王子にだけ聞こえる小さな声で、

「イザベラ様に誘拐されました。連れ込まれた部屋はわかりません。あそこにいる女官達が座っていたベンチの近くの庭です。ベランダの手すりに、青いリボンを結んできました。その部屋に、イザベラ様がいます。・・・魅了かけました。ごめんなさい。」


 ルーカス王子が、うなずく。

「魅了は気にしなくてよい。・・・イザベラは、その部屋から出られない?」

「はい。出ないように言いました。」

「わかった。」


 ルーカス王子が、騎士を連れて、まだ蒼白な顔をして、震えている女官2名に、どこで私と会ったか、案内してほしい、と頼み、女官達と一緒に急ぎ足で去っていくのと反対に、アルフレッド公が、私を抱き上げたまま、王宮に入っていく。


 アイリーン王妃の部屋に連れてこられれば、医師もほとんど同時に到着し、切られた頬から首にかけての傷に薬が塗られ、ガーゼがテープで固定される。

手首と足首も、ロープの跡がくっきりつき、擦り傷で血がにじんでいたため、こちらも包帯でぐるぐる巻きにされる。


 リリアナ妃も治療途中に、とびこんできて、私の顔にガーゼが貼られているのを見て、悲鳴を上げる。


「ユーリ!なんてこと!先生、傷が残ることは?」

「ございません。切られたのは、皮膚の表面だけなので、綺麗に治ります。ご安心を。」

「よ、良かった。・・・いや、良くないけど!でも、なんで、誘拐なんか!?」


 私は、庭を散歩していたら、イザベラ女侯爵に会ったこと、後ろから布を口に当てられて、気付いたら、どこかの部屋で、縛られていたこと。

そして、複数人の従僕に輪姦するよう命じていたこと、などを、まだ震える声で、話した。


「王宮内で、そんなことが起こるなんて!」

 アイリーン王妃が真っ青になって、今にも倒れそうだ。

「アルフレッド様の宮殿から、どうやって、あんなところまで、運んで行けたの?途中、騎士達は、何をしていたの!?騎士団を問い詰めないと!」

 リリアナ妃は、怒りで震えながら、指をがじがじ噛んで、おやめください、と彼女の侍女に、手を口から引き離されている。

アルフレッド公は、私を抱き寄せて、離すまいと、ぎゅっと、腕に力を入れている。


 やがて、レジナルド王と、ルーカス王子が、同時に入ってきた。


「ユーリ嬢が、監禁されていた部屋は、客室付きの女官の部屋だった。イザベラは何も話そうとしないけれど、扉の外で見張っていた、イザベラ付きの従僕が全てを吐いた。客室付きの女官は、サウザンド侯爵の紹介で入っている。だから、イザベラが、自分に変装して、王宮から出ていく偽装を命じ、今は、王都の、サウザンド侯爵の屋敷にいるそうだ。・・・先ほど、屋敷にいるその女官を逮捕するように命じた。」


 その後、アイリーン王妃が、レジナルド王とルーカス王子に、私から聞いた誘拐の話をし、王と王子は、怒りに顔を赤くする。


「私は、さっき、逮捕した従僕に、どの経路で、ユーリ嬢を運んだのか、尋問してくる。」

 ルーカス王子が、足音も荒々しく出て行き、レジナルド王は、私に跪き、お詫びをしてくる。

 レジナルド王が悪いわけではないから、と、詫びる必要は無いと言ったのだけれど、王宮内で、誘拐されることは絶対にあってはならない、警備に穴があったのは、こちらの落ち度、と頭を下げられてしまった。



 尋問の結果、赤の宮殿の内庭にある生け垣の一部に穴があり、その穴から出ると、今は使われていない宮殿の庭に出られることがわかった。使われていない宮殿なので、巡回する騎士の数も少ない。そして、その宮殿の庭を伝っていくと、侍女や女官が暮らす建物に出られるのだそうだ。

その抜け道は、イザベラが何とかして、アルフレッド公の宮殿に入ろうと画策していた1週間の間に、従僕が、偶然見つけたらしい。



 その後、イザベラは、神の御使いの誘拐および傷害の現行犯で逮捕され、侯爵の爵位をはく奪された。

それだけでなく、王族への傷害・・・私の顔が短剣で切られた・・・は、法廷で厳しく裁かれ、彼女は、重罪を犯した罪人が送られる鉱山へ、生涯幽閉されることになった。

ここに送られる女性は、食事を作ったり、衣服を洗ったりといった家事労働をさせられると聞く。貴族の令嬢には、最初、何もできなくて苦しいかもしれないけれど・・・。

私の最後の命令は、鉱山へ行き、働く人の役に立つ仕事をしなさい。だった。



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