召喚された理由
私は、サンルームになっている、大きなティーサロンに案内された。
ぐるりと三方が、ガラスになっていて、ガラスの外は、美しい庭園になっている。
芝生の緑が鮮やかな中、さまざまな色の花々が咲き乱れ、遠方には、剪定された低木の茂みが広がっている。
部屋の中央には、小ぶりの長方形のティーテーブルが置かれ、椅子が4脚。片側に1脚、その反対側に3脚。
・・・なんだか、高校受験の時受けた、面接での椅子の配置だなあ、と、ふと、思う。
面接の先生3人と、受験生1人。3人の先生が代わる代わる、質問してきたっけ。
でも、このテーブルは、向かい側の人に、手を伸ばせば楽々と届くほど狭いところが、面接の時と違う。
面接のときは、先生とは、かなり遠い位置に座っていたから。
テーブルから少し離れた所には、年配の女性がひとり立っていて、女性の横にワゴンがあり、ティーポットやカップがその上に用意されている。
そこまで見えたときに、後方で扉の開く音がして、振り返れば、3人のサークレットを装着した男性が、入ってくるところだった。
私をこの部屋に案内してくれたドルチェとレーテは、すでに退室して、そばにいない。
挨拶しないとだめだろうけど、この国の挨拶のマナーは、知らない。
・・・ええい、日本人よ、私は!日本人らしく、お辞儀すればいいのよ!
私は、中学校の卒業式を思い出して、まっすぐに足をそろえて立つと、両手を前にそろえ、腰を90度かがめてお辞儀をして、3人を迎えた。
「!おやめください。神の御使い殿!あなたに頭を下げていただくわけには、参りません!」
困ったような声が、響く。
困惑し、頭を上げて、声をかけてくれた人を見る。さっき会った、レジナルド王とかいう人だ。
「ご挨拶をすべきかと、思いましたので・・・。」
「御使い殿の国では、そのように、挨拶をされるのですか・・・?」
「はあ。基本は、誰でも、こんな感じでしょうか。」
「そうでしたか。でも、この国では、そのような挨拶は、臣下が行うものです。御使い殿には、ふさわしくありません。」
「あの、さっきから、御使いって、何でしょうか。」
「ああ、大変、失礼しました。そのご説明に伺ったのでしたのに。・・・まずは、おかけください。お茶を飲みながら、話をさせていただきます。」
1脚だけある側の椅子に座るよう、うながされて、素直に座れば、正面に、3人が座る。
私から見て、真ん中に、レジナルド王。左側に、彼より若い青年。2人とも18歳くらいだろうか。金髪に青い目がきれいだ。
そして、レジナルド王の右側に、年齢不詳の男性。顔を金髪で隠しているから、表情も何も全くわからない。
3人をそっと観察している間に、年配の女性が、お茶の入ったティーカップを、4人分、流れるような所作で用意してくれ、終わると、静かに退室していった。部屋には、4人だけ。
・・・お茶の色が、水色?何だろう、これ?
「御使い殿。まず、私達を紹介させてください。私は、エルダー王国の第153代目の国王でレジナルドと申します。先日、20歳になりました。右に座っているのが、私の弟で、ルーカス王子。近衛騎士団の団長をやってもらっています。18歳です。左に座っているのが、先代国王、私の父の弟の、アルフレッド公。28歳です。我が国で一番の学者と言って良いでしょう。」
レジナルド王が、にこり、と私に、微笑む。ルーカス王子も、少し硬いけれど、笑顔を見せてくれる。アルフレッド公の唇は、金髪越しでも、硬く真一文字に結ばれたまま。
「私は、日本から来ました。名前は、神崎友里子です。神崎が苗字で、友里子が、名前です。えっと、15歳、です。」
「苗字、というのは、家名のことですか?」
ルーカス王子が、不思議そうに聞いてきた。
「家名・・・そうですね。家名にあたります。」
「そうでしたか。えっと、では、カンザキ様、とお呼びすれば、よろしいでしょうか?」
「いえ、それは聞き慣れていないので、できれば、名前の方を、ユリコ、と呼んでいただければ。あ、敬称もいりませんので。」
「ユ、ユゥリ・・・リィコ様?」
なんだか、言いづらそうだ。そういえば、さっき、ドルチェとレーテも、変な発音で、私に呼びかけていて、違和感が大きかった。
「ユリコって言いづらかったら、ユーリでもいいです。友達からは、そう呼ばれていたので。」
「ユーリ様、なるほど、ユーリ様、なら、呼びやすいです。よろしいですか、ユーリ様。で。」
「はい。あの、様、もいりません・・・。」
「そうは参りませんよ。神の御使い殿を、呼び捨てには、できませんゆえ。」
「その、神の御使いって、なんでしょう。私、ただの人間なんですけど。人違いだと思います。」
「いいえ、人違いではありません。黒髪黒目、まちがいなく、我が国に伝わっている御使いの姿と一致します。」
レジナルド王が説明してくれたことを、要約すると、こういうことだ。
神の御使いとは、エルダー王国で、魔物があふれ、対応しきれなくなった時に、神に祈ると、異世界から召喚される女性を指すそうだ。
過去にも、何人か召喚されているそうだけれど、全員、黒髪黒目。
神の御使いは、この国に居るだけで、魔物が目に見えて弱体化し、減っていくのだそうだ。
そして、黒目にも意味があるのだという。
「神の御使いには、魅了の力があるそうです。黒い瞳で、一定時間、相手と目を合わせれば、相手を魅了し、意のままに操れるようになるそうです。要するに、何かを命令すると、絶対に相手はそれに逆らえなくなるそうです。たとえ、死ねと言われても、嬉々として従うと聞いています。」
私は、真っ青になる。
そんな力、嫌だ。要らない!
そして、納得する。召喚された場所にいた人が、全員、見るな!と騒ぎ、私から目をそらしていたことを。
ドルチェとレーテも、絶対に私の顔を見なかった。
・・・でも、あれ?
「あの・・・。やはり、人違いではありませんか?だって、レジナルド王、私の目をまっすぐに見て、話しをされていますよね?でも、私に何か干渉されているようには、見えませんけれど。」
「ああ、説明が不足していましたね。・・・神の御使いの力は、王家の血を引く者には、効かないのです。王家の血を引く者は、金髪を持っています。王家の金髪を持つ人間には、御使いの力は、及びません。でも、それ以外の人間には、魅了の力を使えると聞いています。」
「あの、魅了するには、一定時間、相手の目を見るって聞きましたけれど、どれくらいの時間ですか?」
「相手によるようです。最短で1分くらい、長くても3分くらいじゃないでしょうか。」
・・・1分。1分もじっと相手の目を見ることってあるかな?
「あと、魅了って、時間が経てば、その効果は消えますか?」
「いいえ。一度目を合わせて、相手の心を掌握したら、一生、その相手を意のままに操れる、と聞いています。」
・・・やばい、やばい、この目、やばい。絶対に、人と目を合わせたくない!
「そ、それで。なぜ、そんな厄介な力を持つ者を、召喚されたのですか?」
「この国を救うため、です。」
「はい?」
「この国は、この世界でも、一番古い歴史がある大国なのですが、最近、魔物があふれ、討伐隊を差し向けていますが、魔物の出現地と数が多すぎて、被害がどんどん広がっています。私達の手に負えなくなったので、神に祈ったのです。御使いが降臨されれば、魔物は確実に減りますから。何より、魔物に乗じて、隣国のガルバン帝国と、フェロー王国が手を組んで、我が国に攻め入ろうと、画策しています。もちろん、簡単に我が国は負けませんよ。でも、魔物に兵力を割いていると、やはり、苦しいのです。なんとかしなければならない、ギリギリの状態でした。」
「えと、そうすると、私の役目は、魔物の討伐、でしょうか?」
「とんでもない!あなたのようなか弱い女性を、討伐には出しません。この王宮に、いてくださるだけ、で良いのです。・・・被害が甚大な地域には、もしかしたら、早く、魔物を鎮めるために、その地へ数か月ほど、滞在をお願いするかもしれませんが・・・。」
・・・いるだけ、だったら、私でも、大丈夫なのかも?
「あの、魔物が落ち着いたら、私は、元の世界に帰れるのでしょうか?」
「それは・・・。申し訳ございません。」
「帰れないんですね。」
・・・たぶん、そうだろうと、思っていた。
今の状態は、きっと、日本でいうところの、『神隠し』に合ったのと同じなのだと思う。神隠しにあった人が帰ってきたという話は、聞いたことが無い。だから、一方通行なんだろうな、と。
でも、帰れないことに対して、あまり悲観していなかった。だって、帰っても、待っていてくれる人はいないし、ひとりだから。
だったら、この国で生きていくって決めて、生きていけるように、勉強しなくちゃ!
・・・この国でも、医者になれるかな?




