王家の3人
「本当に、召喚に成功するとは、思いませんでしたね、兄上。」
ティーサロンの控室に、3人の男性が集まっていた。
1人は、窓際に所在なさげに、黙ったまま立ち、残りの2人は、ソファに座って、熱心に話をしている。
「何歳くらいの女性?神の御使いは。」
「・・・わからない。ずいぶん、幼く見えた。12歳とか、13歳とか?」
「え!?子供!?」
「子供のように、見えた・・・。」
「うーーーーーん。それでも、僕らは、僕らの誰かが、御使いの伴侶にならないといけないんだよね?」
「そうだ・・・。そして、それを選ぶのは、御使いだ。我々には、選ぶ権利はもとより、拒否する権利も、無い。」
「兄上が選ばれたら?兄上は、すでに、妃が居るのに?義姉上はどうするの?」
「私が、御使いの伴侶に選ばれたら、妃とは、離縁する。」
「あれだけの、大恋愛をしたのに!?耐えられるの!?」
「・・・王の務めを、放棄するつもりは、無い。それより、ルーカス。お前だって、今、婚約者のリリアナ嬢がいるだろう?お前が選ばれたら、リリアナ嬢と別れる必要がある。大丈夫か?」
「リリアナと別れる?嫌だよ、絶対に。」
「ルーカス。我々には、選択する自由は、許されていない。」
「くっ・・・。」
ふと、ルーカスは、窓際を見やる。
「叔父上が、選ばれれば、問題ないのにね。」
「ルーカス。」
「だって、そうでしょう。兄上。叔父上なら、まだ結婚していないし、誰か、特定の女性と、つきあっていないし。」
レジナルド王は、小さくため息をついた。
ルーカス王子の言うとおり、叔父の、アルフレッド公・・・父の弟・・・を、神の御使いが、伴侶に選んでくれれば、助かる。
だけれど、果たして、選ぶだろうか?
アルフレッド公は、はっきり言って、我が国の女性に、モテない。
容姿は、王家の人間らしく、整っているが、前髪を口元までのばし、顔を隠しているうえに、肩より長い金髪が、さらに顔を隠すように覆っているので、はっきりとした表情が読めない。
幼少期、暗殺者に切られた傷跡が、左のこめかみから、右の頬まで赤く引き攣れて残っており、それを隠そうとしている気持ちはわかるのだが。
そして、顔を見られるのが嫌だからか、子供の時から、人前に出ることを極端に嫌い、図書室に籠ってばかりいる。
おかげで、我が国でも、彼の右に出る者がいないほどの優秀な学者となり、それはそれで重宝しているが、たまに社交の場に引っ張り出しても、誰とも話さず、壁の花と化しているので、女性とはますます疎遠になり、王族の義務である結婚から、どんどん遠のいているのが、悩みの種の叔父だ。通常、貴族の男性は、20歳前後で結婚する。叔父は、もう、28歳なのに!
「叔父上、聞いてますか?神の御使いが、叔父上を選んだら、叔父上、結婚しなくてはいけませんよ!」
ルーカス王子の声に、はっと、意識を戻した、レジナルド王。
「ルーカス。叔父上に対して、言葉遣いが失礼だぞ。」
たしなめつつ、アルフレッド公に視線を移せば、彼は、窓の外をじっと見たまま、黙ったままだ。
珍しいことではないけれど、レジナルド王は、ため息をつく。
「・・・ともかく、神の御使いには、先入観を植えるわけにはいかない。絶対に、女性の影を、匂わせるな。」
「だから、今、王宮に、義姉様も、リリアナも居ないんだね・・・。」