北の領地の後始末
その後、レジナルド王、ルーカス王子、アルフレッド公は、どうやって、神の御使いの情報を、後世のために残すが、頭を悩ませているようだ。
今回、シュヴァルスに聞いた情報は、貴重なので、どうしても残したいらしい。
「ねえ、アル?公的な記録で残すことに、こだわらなくても、良いんじゃない?」
「ユーリ?」
「伝説、で残せば。」
「伝説?」
「ええ。例えば、子供向けの絵本とか。吟遊詩人の歌、とか。真実でなく、おとぎ話としてなら、残っていくかもしれない。それが、後世の人に正確に伝わるかはわからないけれど。王家の教育の必須項目で、絶対に読ませるとか。」
「・・・何もしないよりは、マシか・・・。」
そして、私の暗殺未遂事件も、王宮裁判所で、裁判が始まった。
リリアナ嬢に脅されてから、ドロテア嬢はすっかり反抗心を無くし、裁判で、素直に真実を話し、反省の言葉を述べた。
また、ガルディア伯爵も、領地の経営にかまけて娘の教育をおろそかにしたことを詫び、厳罰を望んだ。
彼らの殊勝な態度と、ドロテア嬢が15歳の未成年であること、被害者の私から、最も軽い量刑の嘆願書が提出され、かつ、黒竜召喚につながった功績もあったことから、判決は、異例の軽さとなった。
事件を起こしたドロテア嬢は、罪を犯した貴族令嬢が収監される修道院に10年の幽閉。ガルディア伯爵は、年収の3倍にあたる金額を、慰謝料として私に支払うことと、一族全員が、領地から3年間、出られないという刑が、確定した。
・・・領地から出られないということは、ガルディア伯爵の長女、マーガレット嬢にとって、王宮や、他の領地の社交界に出られず、良縁を得る機会が、ぐっと減ることも意味する。
3年後、マーガレット嬢は20歳、婚期を逃しかねない。
アイリーン王妃に、なんとか、マーガレット嬢だけでも、社交界に参加させてほしいとお願いしてみたけれど、難しい、と首を振られてしまった。
「それにね、ユーリ。仮に社交界に出られたとしても、神の御使い殿を暗殺しようとした家と、婚姻を結ぼうという貴族は、居なくてよ?マーガレット嬢にはかわいそうだけれど、彼女は、領地の中で、相手を見つけるしかないでしょう。」
私が、アルフレッド公の言いつけ通り、部屋から出なければ。ドロテア嬢にくっついていかなければ。結局、私が一番悪い。この世界の異分子。私さえいなければ、この事件は起きなかった・・・。
判決が確定した後、ドロテア嬢と面会を希望し、彼女と会った。
「ユーリ様・・・。」
牢の向こう側には、意外と、すっきりした顔をしたドロテア嬢が、居た。
「ユーリ様、申し訳ございません。わたくしのしたことは、決して許されることではないので、許さなくても構いません。でも、一言言わせてくださいませ。我が領地の民を魔獣から救ってくださったこと、心から、御礼申し上げます。」
「ドロテア様・・・。いいえ、わたくしこそ、ごめんなさい。わたくしが、もっとしっかりしていれば・・。。」
「いいえ、ユーリ様。わたくしは、ユーリ様が居ても居なくても、そのうち、きっと、別の令嬢に対して、何かをしでかしていましたわ。」
「ドロテア様?」
「わたくし、小さい時から、欲しいモノがあれば、何でも、奪ってきましたの。・・・今回、捕らえられるまで、それが悪いことだと気づかなかったのです。・・・だから。わたくし、修道院に入ることになりましたけれど、わたくしのためには、良かった、のだと、思うのです。・・・ユーリ様には、大変申し訳ないことをいたしましたが。」
「・・・。」
「ユーリ様、どうぞ、御身を責めないでくださいませ。わたくし、本当に、自分というものに向き合えて、反省の機会を与えていただいて、感謝しているのですから。」
「・・・ドロテア様。ありがとうございます。・・・10年経って、戻ってこられたら、わたくしと友達になってくださいますか?」
「まあ・・・。光栄ですわ。」
ドロテア嬢が、美しいカーテーシーをとってくれた。
彼女が行く修道院には、手紙も差し入れもすることができない。完全に外部から遮断されていると聞いた。
10年後、彼女がそこから出てきたら、今とは別人になっているかもしれないけれど・・・。私が生きていられたら、もう一度会いたいと、思った。
また、ガルディア伯爵も、北の領地に戻る前に、謁見を申し込んできて、丁寧な謝罪を受けた。
ドロテア嬢と仲直りしたことを告げれば、ガルディア伯爵の目には涙が浮かぶ。
「わたくしが申し上げるべきではありませんが・・・。いつかは、また、北の領地においでくださることを、祈念いたしております。」
「もちろん、伺いますわ。・・・それまで、ガルディア伯爵様のご一家に平安と健康が満ちますように。」
「ユーリ様・・・。御身は、やはり、神の御使い殿なのですね・・・。我らの一族は、ユーリ様に永遠の忠誠を誓います。」
ガルディア伯爵が、跪き、私の靴先に、軽く口づけしてきた。
ぎょっとするも、じっと我慢する。
この国の貴族のマナーの講義で勉強した。
靴先に口づけるのは、永遠の忠誠を誓う、という聖なる誓約。王族に対してでさえも、めったにされない誓約だと聞いている。
私が行かなければ、ガルディア伯爵が、罪に塗れることは無かった。
それでも、ガルディア伯爵は、私を責めず、むしろ、忠誠を誓ってくれる。
この国の貴族は、何と、高潔な人が多いのだろう・・・。
私は、ここに居る限り、この国を護ろう。なんとしてでも。




