王弟の結婚
北の領地から戻り、4か月が過ぎた。
その間、騎士団が、北の領地を定期的に調査したけれど、シュヴァルスが言ったとおり、魔獣は激減し、ほとんど見かけなくないという報告が来ている。
4カ月の間に、人里に下りて来た魔獣は2匹。どちらも、弱い個体で、領主が雇っている領兵で、あっさり討伐できたとか。
エルダー王国に来て、早くも8カ月が経つ。
まだ、北の領地以外では、魔獣の数が多く、警戒が続いているけれど、1年前に比べると、少しだけ、人里に下りてくる魔獣が減ってきて、危機感が和らいだそうだ。
とはいえ、できるだけ早く、残りの3竜を浄化するため、3か月後、春になったら、東西南のいずれかの領地に、また、遠征に行くことになっている。
今は、冬で・・・雪が積もっているから、遠征には不向きなのだ。
そして、今年の冬の社交界は、例年以上に、にぎわっている。
ルーカス王子と、リリアナ公爵令嬢の、結婚式が、1週間後に控えているから。
もともと、魔獣に関係なく、騎士団は、春から秋にかけては、国内を移動し、非常に忙しい。
だから、騎士は、冬に結婚することが多いそうで、その慣例にたがわず、近衛騎士団長かつ第一国立軍の将軍でもあるルーカス王子の結婚式も、冬に行われる。
ルーカス王子とリリアナ公爵令嬢は、16歳で婚約し、婚約期間を2年間取って、婚姻と決まっていたそうで、それが今年だった。
王宮の中は、そのため、あちこちが、陽気なお祝いムードの喧騒に包まれ、普段、静かな、アルフレド公の宮殿にも、その賑わいが届く。
アルフレッド公の婚約者として、私も、結婚式に列席するので、北の領地から戻って間もなく、ドレスが何着も発注されていた。
今は、次々と運び込まれるドレスの山に、埋まりかけている。
結婚式では、緑色のベルベットに金糸で刺繍がされたドレスを着ることになった。しかも、アルフレッド公と、衣装がお揃いだ。
この国の結婚式では、既婚者と婚約者は、パートナーとお揃いの衣装を着て、新郎新婦が、私達と同じように、いつまでも仲睦まじく過ごせるように祈念していますよ。という祝福を示すのだそうだ。
緑色が選ばれたのは、アルフレッド公と私の宝冠の宝石がルビーだから。
宝冠は、ずっと同じものを使うので、今後も、宝冠を装着しなければならない公式の場で着るドレスは、ルビーの赤色が映える緑か青系が多くなるだろう、と言われている。
ちなみに、宝冠に付けられている宝石は、王族それぞれ違っていて、王と王妃は、ダイヤモンド。ルーカス王子とリリアナが、サファイア。アルフレッド公と私が、ルビーだ。
結婚式のドレスは1枚だけれど、山のように届いているのは、結婚式の前後に、王宮でたくさんのパーティが開かれるから。
諸外国からも、お祝いの特使が集まるため、アルフレッド公も参加が義務付けられている。
私も、もう一度、マナーや会話をおさらいさせられて、注意も山ほど聞かされて、頭がパンクしそう。
神の御使いの重要性が、この国の重鎮達にも、あらためて共有されたので、護衛の数も、段違いに増え、しかも、視線を合わせられないから、緊張も半端ない。
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今日は、ルーカス王子と、リリアナ公爵令嬢の結婚式。
王宮の奥に、神殿があって、神殿の中には、王の近親者しか入れないようになっている。そこに、新郎新婦と、国王夫妻、リリアナ嬢の家族、アイリーン王妃の家族、アルフレッド公と私だけが列席した。
神殿の正面には、高さが3メートルくらいの、透明だけれど、七色に輝く不思議な石が安置されていて、その前に、神殿長が黒地にびっしり銀糸で刺繍がされた式服を着て、立っている。
ルーカス王子とリリアナ嬢が、神殿長に誓いの言葉を述べ、指輪の交換をし、誓いのキスをして、神殿長が、夫婦になったことを宣言する。
とても荘厳で、とても、綺麗だった。
思わず涙ぐんでしまったら、アルフレッド公が、目尻に口づけを落とし、涙をぺろっと舐めて、ささやく。
「人の結婚式で涙ぐむなんて、自分の時は、大丈夫?」
と。
真っ赤になって、うつむいてしまった私を、アルフレッド公は、腰に手をまわして、ぐいっと、自分に引き寄せる。
婚約して以来、外に出ると、必ず、自分に密着するように仕向けてくるのだけれど、いつまでたっても慣れないので、やめてほしい・・・。
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結婚式が終わると、すぐに王宮の大広間に移動して、パーティだ。
私の婚約式同様、王族が立つ演台の前には、ずらりと、ルーカス王子夫妻にお祝いの言葉を述べるための行列ができ、主役のルーカス王子夫妻は、にこやかに応対している。
私達は、今日、主役ではないけれど、途中で、ルーカス王子夫妻が退室するから、その後、王族として、客をもてなす任務が与えられている。
そのため、外国の特使達の顔と名前、この国の侯爵家当主夫妻の顔と名前をすべて暗記させられ、でも、覚えているか心配で、正直、緊張がどんどん高まっている。
基本、アルフレッド公に対応を任せれば良いとは言われているけれど、社交が嫌いな彼一人に重荷を負わせるのは、嫌だ。
ルーカス王子夫妻への挨拶の列が、だいぶ少なくなり、楽団の音楽が変わったのを合図に、ルーカス王子と、リリアナ嬢が、ホールの真ん中に進み出て、ダンスを踊る。
真っ白い衣装、真珠とダイヤモンドの宝飾品、が、流れるような動きと共に、煌めき、息を飲むほど美しかった。
ダンスが終わると、万雷の拍手。
拍手を受けながら、2人が退室していく。
彼らは、このまま、1か月の蜜月を過ごすための、王宮から少し離れた王家の別荘に行く。
ここからは、王と王妃、私達が、客人をもてなさなければならない。
海外からの賓客がいるので、婚約式同様、無礼講となり、身分を問わず、誰にでも話しかけることができる。
北の領地の魔獣を平定した、私は、時の人、で、私と話したがる人が、殺到した。
誰とも目を合わせることができない私は、相手の顔をちらっとしか見られない。それだけで、誰だっけ、と、必死で思い出すのだから、余裕が全くなかった。
宴もたけなわとなっても、私の周りから、人が居なくなることは無い。
疲れて、そろそろ休ませてもらいたい・・・、と思っていた時、突然、背中に強い刺さるような視線を感じ、ぞくっとして、思わず、振り向いた。
バルコニーの側に、誰かが立っていて、鋭い視線を向けている。
一瞬、目があったけれど、さっと目をそらし、横目で、ちらっとその人を伺った。
・・・誰だろう?覚えさせられたリストには、載っていなかった気がする?
「ユーリ?どうした?」
挙動不審になっていたのだろう、アルフレッド公が、私の耳元で聞いてくる。
「・・・後ろのバルコニーの近くに立っている人が、私を見ているみたい?」
アルフレッド公が、さっと振り返って、私に言う。
「誰も、いないようだけれど?」
びっくりして、もう一度振り返れば、その相手は、すでに居なくなっていた。
「ユーリ、何か、気になるなら、下がるか?」
「え、でも、まだ接待が必要では?」
「挨拶が必要な要人との話は、すでに終わっている。あとは、国内の中級貴族だから、抜けても、特に問題ない。」
疲れていたこともあって、抜けさせてもらうことにした。




