北の領地の断罪
★暴力の記述があります。苦手な方は、飛ばしてください。★
「アルフレッド大公殿下!ユーリ様!お姿が見えず、大変心配しましたぞ!」
ガルディア伯爵が、屋敷から飛び出してくる。
「おお、ルーカス王子殿下と、リリアナ公爵令嬢もご一緒でしたか。」
翌朝、私達は、騎士団に護られて、領主の館に戻ってきた。
「ガルディア伯爵。貴公に、お聞きしたいことがある。」
ひらりと馬から飛び降りながら、ルーカス王子が、厳しい声を出した。
「書斎をお貸しいただけるか?そこで、貴公と話がしたい。」
「承知しました。どうぞ、こちらへ。」
ガルディア伯爵が、ルーカス王子、リリアナ、アルフレッド公、私の4人を書斎に入れる。その部屋の外の扉を、数人の騎士が、固めた。
ガルディア伯爵が、ものものしい気配に、顔を引きつらせる。
「あの・・・。何かあったのでしょうか?」
「ガルディア伯爵。貴公に、神の御使い殿の暗殺を企んだ疑いが出ている。」
ガルディア伯爵が、ひゅっと喉を鳴らした。
私も、のけぞるほど、驚く。え?暗殺?誰を?
「そんな!そんなこと!わたくしは、考えたこともございません!!!」
「ほお?貴公の娘の、ドロテア嬢が、ユーリ様を、魔獣の前に連れ出したのだが?」
「ドロテアが!?」
「・・・どうやら、貴公は知らないようだな?」
「ドロテアが、何をしたのです?」
ルーカス王子は、扉を開け、騎士の一人に、ドロテア伯爵令嬢をここに連れてくるように、指示した。
間もなく、扉がノックされ、
「お父様、お呼びと伺い・・・ひっ!」
ドロテア嬢が、部屋に入りながら、私を認め、悲鳴を上げた。
素早く、リリアナが、ドロテア嬢を部屋に引きずり込み、扉を閉める。
「ドロテア伯爵令嬢?どうなさいました?今、わたくし達を見て、悲鳴をあげかけられましたけれど?」
冷たい、リリアナの声が、誰何する。
「あ・・・あなた、生きて?」
リリアナの声が聞こえなかったのか、ぶるぶる震えながら、私を指さす。
と、素早く、アルフレッド公が、私の前に、盾になるかのように移動する。
リリアナが、ドロテア嬢を突き飛ばし、床に膝まずかせた。
そして、剣の柄先を、ドロテア嬢の顎の下に差し入れ、ぐいっと上に向けさせ、冷たい笑顔を見せる。
「ねえ?今、なんって、おっしゃたの?まるで、ユーリ様が、亡くなられていたかのような、セリフだったわよね?」
「ひぃっ!」
リリアナが、身体を曲げ、ドロテア嬢の顔の近くで、にたりと笑う。
・・・こ、怖い。リリアナ姉さま、怖い!!!
思わず、アルフレッド公の後ろから、腕にしがみつけば、彼は、小さなため息をついて、抱きよせてくれた。
「魔獣をおびき寄せ、ユーリ様を、殺そうとしたのよね?」
「ちっ・・・違います!!!」
「じゃ、どうして、小屋まで誘導したの?・・・アルフレッド公が待っているなんて、嘘までついて?しかも、小屋には、ドリアンまで置いて?」
「そ・・・それはっ!」
どすっという鈍い音がして、ドロテア嬢の腹部に、剣の柄先がのめりこみ、彼女が、ガハッと、胃液を吐く。
「ひっ!」
思わず、私の喉からも、悲鳴が上がる。
リリアナは、苦悶に顔を引きつらせ、お腹を押さえてうめき、涙が流れている、ドロテア嬢の顔を、また、剣の柄先で、強引に、上に向ける。
「ねえ?どうして?」
「あ!あ!・・・魔獣が、あの子の顔を、切り裂けばっ!醜くなればっ!いいと思って!」
涙でぐしゃぐしゃになりながら、ドロテア令嬢が、白状する。
ただの貴族令嬢だ。暴力を振るわれ、脅されることには、慣れていない。
一度白状したら、リリアナの問いに、簡単にぺらぺらと答え、彼女が、一人でやったことを、白状した。
私の顔や身体に傷がついて醜くなれば、アルフレッド公と婚約が解消されると信じていたらしい。婚約が解消したら、自分が恋人になれるかも、と期待していたと。
なんでも、あの小屋の近くには、小さな魔獣が1匹、おそらく、黒竜の子供、アーテルのことだろう、が、時々、姿を見せていたのだそうだ。
騎士団がやってきて、ドリアンで魔獣が釣れることを知った彼女は、試しに、ドリアンを小屋の前に置いてみたところ、食べた形跡があった。
だから、昨日の朝、ドリアンを小屋の前に数個置いて、それから、私を呼びに来たらしい。
「に、2メートルくらいの、小型の魔獣だからっ!死んでほしかったんじゃなくって!本当に、傷が付けばいいと思って!それだけなのぉおお!!!」
「な、なんということを・・・!」
本当に知らなかったらしい、ガルディア伯爵が、蒼白になって、ふらふらと、よろめき、膝を床につく。
ルーカス王子が、軽く、リリアナの肩を叩いた。
「リリ、ありがとう。もういいよ。」
リリアナが、軽く会釈をして、後ろに下がり、私に、いつもの笑顔を見せてくれた。変わり身、はやっ。
私の知っているリリアナ嬢は、お淑やかな公爵令嬢だったけれど、女騎士の方が本性みたい。ショックだけれど、どちらも、リリアナ姉さまに違いなく・・・。
「ガルディア伯爵。どうやら、貴公は、何も知らなかったようだ。でも、ドロテア嬢がしたことは、神の御使いの暗殺未遂。それは、わかるね?・・・小型の魔獣であっても、十分、人を殺せるのだから。」
「は・・・い。」
「ドロテア嬢は、神の御使いの暗殺容疑で、逮捕され、王宮に連行される。・・・彼女は、未成年だ。だから、ガルディア伯爵、貴公も、管理不行き届きで、王宮に行ってもらわざるを得ない。」
「はい・・・。」
「・・・あと、この領地の魔獣は、神の御使いの力で、ほぼ平定された。」
「え?」
「もちろん、たまには、魔獣が1匹、2匹、山を下りてくることはあるだろう。でも、それは、以前と変わらない。領地の兵力で十分対応できるはずだ。」
「あ・・・。ありがとうございます。ありがとうございます。」
ガルディア伯爵が、嗚咽した。
「神の御使いたる、ユーリ様、ありがとうございます!わが領地の領民はこれで、助かりました。それなのに、我が娘が、貴方様を・・・。わたくしは、自害してお詫びを。」
「ガルディア伯爵!自害は許さぬ!」
ルーカス王子が、叱責する。
「し、しかし・・・。」
「ガルディア伯爵。貴公が、領地の民を大事にしていることは、この領地を見ればわかる。そのような人物を、娘の管理不行き届きで死なせるわけには、いかぬのだ。もちろん、管理不行き届きの罪は償ってもらう。しかし、命までは必要ない。」
「る、ルーカス王子・・・。」




