北の領地の魔獣討伐3
「くそっ!キリがない!!」
「ルーっ!危ない!ファイア!!!!」
ルーカス王子の後方に迫っていた魔獣が、火に包まれて、倒れる。
「すまん。リリ。助かった。」
「いえ。それにしても、次から次へと沸いて出ますわね。森の奥には、いつになったら、到達できるのでしょう・・・。」
「リリ、今回の討伐は、魔獣が異常だ。君は、領主館に戻って・・・。」
「嫌ですわ。ルー。わたくし、婚約者としてあなたの横に立つ権利を持ってますもの。」
「・・・ったく。頑固なんだから。」
魔獣に囲まれ、剣で切り捨てながらも、ルーカス王子と、リリアナは、お互いをサポートしながら、軽口をたたく。
「今日は、そろそろ、引く・・・か?」
ルーカス王子が、疲れが出て来た騎士達に気付き、離脱命令を出そうとした時、上空に、突然、黒い影が差した。
「うわあああああ!竜だ!」
「竜が出たぞ!!!!」
騎士達が、悲鳴を上げる。
ルーカス王子は、ぎりっと奥歯を噛みしめた。
森の奥にいるだろう、強い魔獣は、竜だとは、思ってはいた。
森の奥に到達するときは、今のように、皆が疲れていない、万全の状態で、行く予定だった。
1匹の竜を討伐するのには、100人単位の騎士が必要だ。しかも、万全の状態であっても、半日あるいは、1日がかりの討伐になる。
今、竜に襲いかかられたら、魔獣との戦いで疲弊している騎士達では、絶対に勝てない。
「ルーカス王子!リリアナ様!離脱を!我らが、竜を引き受けますっ!」
「しかしっ!」
「今は、竜を相手にして勝つ見込みがありませんっ!王子と王子妃を失うわけには、行かないのですっ!」
それは、真実。ルーカス王子もリリアナも、よくわかっている。
戦場では、一瞬の判断の遅れが、死につながる。
くそっと吐き捨てながらも、ルーカス王子は、リリアナとともに、馬に飛び乗った。
「援軍を連れて、戻る!」
馬を駆けようとしたところで、前方に、竜が舞い下りるのが見えた。
「グギャアアアアアア!!!」
すさまじい、竜の咆哮と、着陸時のすさまじい、衝撃で、地面が揺れ、馬が暴れて、ルーカス王子とリリアナは、辛うじて、振り落とされないよう、馬を制御する。
「くっ!塞がれたか?」
「お・・・大きい・・・。」
普通の竜は、5メートルくらいだ。その倍は優に、ある。こんな大きな竜を見たことは、ルーカス王子には、無い。
竜の周りに、もうもうと砂埃が舞い、視界が悪い。そんな中、聞き覚えのある声が響く。
「ルーカス王子っ、リリアナ姉さま!」
驚愕に染まった、2人の所へ、ドレスを着た女性が走ってくるのが、見えた。
「え!?ユーリっ!なぜ、ここにっ!」
ルーカス王子と、リリアナは、馬から飛び降り、ユーリを迎える。
魔獣か、竜の襲撃に備えて、剣を油断なく、構えながら。
「もう大丈夫ですっ!」
ユーリが、言う言葉の意味がわからない。
と、竜のいる方角から、アルフレッド公の声が響いた。
「ルーカス。剣を引かせよ。魔獣は、我らを襲わなくなった。」
「え?叔父上?」
騎士たちがいる、後方を振り返ると、先ほどまで、敵意を向けていた、魔獣たちが、金縛りにあったかのように動きを止め、騎士達が、戸惑っているのが見えた。
「先代王の王弟、アルフレッドが命じる!全員、剣を引き、ルーカス王子の周りに集まれ!」
アルフレッド公の命令が、響いた。
騎士団にとっては、上司の命令は、絶対服従。魔獣に背中から襲われるかも・・・という恐怖を振り払いながら、ルーカス王子の周りに、駆けよる。
そして、その背後にいる魔獣は、驚いたことに、ぴくりとも、動かない。
騎士が全員、ルーカス王子の周りに集まったのを見計らっていたかのように、竜がまたもや、咆哮した。
「ギャアアアアアアアアアアオオオオオオオオンン!!!!!!」
その声で、金縛りが解けたのだろうか、魔獣たちが、身震いする。
こっちに来る!?一瞬、騎士達に緊張が走ったけれど、騎士達には目もくれず、くるりと、山奥へと、向きを変え、ものすごいスピードで駆けこんでいく。
山全体が、地響きで揺れた。
「うわ!・・・地震か!?」
「・・・違うわ。魔獣達が、全て、地下の彼らの住居に帰ろうとしているの。」
「ユーリ嬢?」
「ルーカス王子。この地の魔獣の討伐は、もう不要です。」
「え?どういうこと?」
「えーと、シュヴァルスの話だと、暴れていた魔獣達は、もう落ち着いたから、地下で暮らして、あまり外に出てこないだろうって。まあ、たまには、ひょこっと出てくる個体がいるかもしれませんが、今まで通り、普通に討伐すれば良い・・・みたいです。」
「シュヴァルス?」
「ああ、後ろにいる、黒竜です。」
「黒竜!?神!?」
アルフレッド公が、説明を変わってくれる。
私の黒い目のことは、一切触れず、神の御使いが、竜を呼んだのだ、という作り話に変えながら。
そして、その作り話を聞いている騎士達の、私を見る目がどんどん、崇拝に近くなっていく。
やめてほしい・・・。お願いだから・・・。
「神の御使い殿は、我が国のご神体たる、黒竜様を従えることができるのですね。」
なんと素晴らしいと、崇め奉られるように騎士達に跪かれて、半分、涙目だ。
シュヴァルスが、私にだけ聞こえるように声をかけてきた。
「ユーリ。我も、地下に戻る。魔獣どもを確認するから。」
「わかったわ。ありがとう。シュヴァルス。気を付けてね。」
黒竜が空に舞い上がる。突風と砂埃を、空高く吹き上げながら。
慌ただしく、ルーカス王子が、指示を出していく。
本当に、魔獣達が居なくなったかどうか、確認しなければならない。
それは、明日以降となり、騎士団の大半は、野営地に戻り、数日、滞在して、森を調査することになった。
ルーカス王子と、リリアナ嬢および、一部の騎士達が、私達と一緒に、領主の館に戻る。
竜に置いていかれた私達は、野営地には、馬車が無かったので、騎士の馬を1頭借り、領主の館に戻ることになった。
馬に乗れないので、アルフレッド公の前に乗せてもらう。ぴったり密着しているので、恥ずかしいけれど、仕方ない。絶対、今度、乗馬も習わせてもらおう・・・。
4人で、領主の館まで、馬をゆっくり走らせながら、アルフレッド公が、護衛の騎士には聞こえないように、真実を話す。聞き終わった、ルーカス王子が、つぶやいた。
「うわ・・・。破壊の黒竜も魅了するなんて、黒い瞳は、最恐じゃん・・・。」
「ルー?ユーリに不敬よ!」
「うわ。そうだね。申し訳ない、ユーリ嬢。」
「いいんです・・・。」
半分、気分は、へこんでいる。
最恐、そうよね。この瞳、異常よね。竜まで魅了するなんて・・・。
そんな私の意識を引き戻したのは、アルフレッド公。
「ところで、ユーリ。なぜ、あの小屋に一人で行った?」
「え?アルが、私を呼んだんじゃないの?」
とたんに、3匹の馬の手綱が、一斉に引かれ、馬が止まった。周りを並走していた騎士達も、慌てて、停止する。
「叔父上。」
「ああ。館に戻る前に話をした方がいいな。」
ひらりと、3人が馬から飛び降り、アルフレッド公が、私を抱き下ろす。
ルーカス王子は、騎士達に、少し離れて周囲を警戒するよう、命じた。
「ユーリ。誰が、君に、あの小屋へ行くように誘導した?」
「・・・ドロテア様ですが・・・。」
すばやく、アルフレッド公とルーカス王子が目を合わせる。
リリアナが、わたしを護るかのように、肩を抱いてきた。
「ドロテア嬢は、何と?」
「えっと。アルが呼んでいるって・・・。案内してくれて一緒に行ったんだけど、途中で彼女、転んで、足をくじいて。遅くなるとアルに叱られるから、自分をほっておいて、小屋に行ってくれって。」
「小屋には、魔獣が居たな?気付いたことは?」
「えーと。そういえば、ドリアンの皮が落ちていたから、ドリアンに釣られてきたのかな・・・とは思ったけれど?」
アルフレッド公の顔が、見たこともないほど、厳しい顔になる。
ルーカス王子も、眉間に縦皺を寄せている。
2人で、ひそひそ、何かを話しているが、聞き取れない。
何を話しているのか知りたくて、そばに寄ろうとしたら、リリアナにぐいっと引き戻され、にっこりと、怖い笑顔で、微笑まれた。
「ユーリ。怪我はしてないのね?」
「そうですね。してないと思います。」
「思います?確認してないの?」
リリアナが、いきなりしゃがみこみ、ドレスの裾をまくった。
「きゃあ!」
「あらあ・・・。やっぱり。転んだんでしょう?脚に擦り傷できてるわあ。・・・ん・・・ついでに、手のひらも、裂傷があるわね。ああ、なんてこと。左の腕も血がついてるじゃない!」
ルーカス王子と話をしていた、アルフレッド公が、リリアナとの間に割り込んでくる。
「ユーリ!怪我していたのかっ!」
「ええと、大したことないと思います。すっかり、忘れてましたし。」
アルフレッド公は、手のひらや腕を、無理やり、捻り上げられるようにして、傷を確認し、さらに、ドレスの裾もめくろうとして、リリアナに叩かれて、不機嫌になっていた。
ともあれ、ルーカス王子とアルフレッド公で、何か、話がまとまったらしい。
「今夜は、野営地に泊まる。」
驚く私には何の説明もなく、来た道を戻り、野営地のテントで、泊まることになった。私は、リリアナと一緒のテントに。
テントの中で、傷の手当てを受けたけれど、意外と体のあちこちに、青あざやら擦り傷やらできていて、リリアナが、猛烈に怒っていた。




