ユーリ復活
夜中に、水を口移しで飲まされた(私のファーストキスだったのに!)翌日の昼頃に、ようやく、ぱっちりと目を覚ました。
熱が、ぐっと下がって、まだ平熱より高いけれど、峠は越したらしい。
身体を起こそうとすると、くらっと眩暈がして倒れかけた。
アルフレッド公にまだ寝ているように言われたけれど、半身起こさないと、いつまでも起きられない気がして、起こしてほしいとお願いすれば、背中に手を回して起こしてくれ、レーテが、たくさんのクッションをあてがって、よりかかれるようにしてくれた。
「心配かけて、ごめんなさい。」
「謝る必要はない。君への負担を考慮しなかった、私が悪い。・・・すまなかった。」
「アルフレッド様・・・。」
アルフレッド公の顔色が悪い。きっと、私の看病で寝ていない。
「あの、私、もう大丈夫なので、アルフレッド様、部屋に戻って、休んでいただけますか?」
とたんに、アルフレッド公の顔が、泣きそうになる。
「私がそばにいるのが、嫌なのか?」
「そ、そうじゃないです!あの、お顔色がとっても悪いので、心配なんです!」
「心配・・・?」
「あの!アルフレッド様が倒れたら、私・・・その・・・悲しい、です・・・。」
「ユーリ・・・。」
「ユーリ!目覚めたのですって!!具合はどう!?」
アルフレッド公が、私の顔に手をのばしかけていたところに、突然、アイリーン王妃が乱入し、アルフレッド公を押しのけて、私の顔を覗き込む。
「まだ、熱がありそうね?でも、もう大丈夫かしら。何か食べたの?」
「いえ、まだ・・・。」
「だめじゃない。食べなければ、いつまでたっても回復しないわ。ドルチェ、ユーリの食事は?」
「パン粥を用意しております。」
アイリーン王妃は、ぐいぐいと、肩でアルフレッド公を押しやり、
「アルフレッド様?ユーリからも、寝るように言われましたわよね?ユーリの面倒は、わたくしが見ますから、とっとと自室に戻って、お休みあそばせ?」
「王妃!」
「アルフレッド公を、自室までお送りして。」
アイリーン王妃が、自分が引きつれてきた侍女たちに命じれば、心得ました、と、数人がかりで、アルフレッド公を、彼の寝室に無理やり連行していく。
それを、ちらっと横目で見てから、アイリーン王妃が、困ったように笑いかけた。
「ごめんなさいね。ユーリ。アルフレッド様にいてほしかったかもしれないけれど、彼、3日も寝てないの。さすがに、もう休ませないと、ね?」
「アイリーン姉さま。いえ、ありがとうございます。私も休んでほしいと思っていましたから、助かりました。」
布団の上に簡易テーブルが置かれ、パン粥と果物が並ぶ。
お腹がすいた、と感じられるようになっていたので、ありがたく頂いた。
・・・おいしい。
おいしいと感じられるということは、元気になってきたということ。
「そういえば、アイリーン姉さま。婚約式のあと、倒れてしまって、何かご迷惑をおかけしませんでした?」
「大丈夫よ。ユーリ。婚約式で、神の御使いを紹介したら、その後は、できるだけ、諸外国からは隠すつもりだったから。
・・・むしろ、3日間、部屋から出られなかったのは、僥倖だったかもしれないの。いくつかの国が、帰国前になんとかあなたに接触しようとしてきていたわ。
レジナルド王が許可しなかったけれど。ぎりぎりまで粘った彼らも、もうさすがにいつまでも、ここに滞在はできないから。
そうね、ガルバン帝国の使者はまだ残っているけれど、他の国は、ほとんどが、もう帰国して、王宮も静かになってきたわ。」
「ガルバン帝国?」
「えええと。婚約式で、乱入してきた令嬢が居たでしょう?彼女、祖母が、ガルバン帝国の貴族令嬢なので、今回の騒ぎで、そちらに預けられることになったの。その手続きで、使者がまだ残っているの。」
「そう、なんですね。」
正直に言うと、あれには、びっくりしたけれど、もう、彼女の顔を覚えていない。
嫉妬も覚えなかった。アルフレッド公が嫌いなタイプの女性だって、わかっていたから。
「ガルバン帝国で、穏やかにお過ごしになれると、いいですね。」
「まあ!ユーリってば!あなた、やさしすぎてよ!アルフレッド様なんて、死罪が妥当だって騒いでいたのに!」
ひくっと、私の笑顔が引きつる。
「死罪って・・・。何もしてない、ですよね?」
「そうねえ。王族への不敬罪すれすれのところね。婚約式に、青いドレスに金色に近い黄色の刺繍。それだけでもやばいのに、アルフレッド公にしがみつくなんて、数百年前なら、その場で、お手打ちかしらね?」
「ユーリ、だいぶ、顔色良くなったのね、安心しましたわ。」
ひょこっと、リリアナ公爵令嬢も、顔を出して、にっこり笑いかけてきた。
「まあ、リリアナ姉さま、心配をおかけして、申し訳ありません。」
「いいのよー。今日はね、しばらく、王宮から離れるので、挨拶に来たの。」
「王宮から離れる?」
「例の、バカ娘が、ガルバン帝国の使者と一緒に、あちらに移住するんだけれど、確かに出国したか、国境の視察がてら、ルーカス王子が見届けることになったの。それに、わたくしも付いていくの。」
「あら、リリアナ。それは、わたくしも初耳だわ。」
「たった今、決まったところですもの。」
「リリアナ姉さま、どれくらいお留守にされるんですか。わたくし、寂しいです。」
「あらあら、ユーリってば、甘えん坊?・・・うふふ。1か月くらいかしら?国境までの移動に片道10日くらいかかるの。向こうの視察が、いつも1週間くらいだから。」
「そうなんですね。無事のお帰りをお待ちしてます。」
「ありがと。ユーリも、身体、大事にしてね?戻ってきたら、お茶会しましょう。」
明日には出立するそうで、準備があるから、と、リリアナが、嵐のように来て、去っていく。
「リリアナはね、ああ見えて、女騎士なのよ。」
アイリーン王妃が、暴露する。
「え?公爵令嬢、ですよね?」
「ええ。でも、小さいころから、騎士になりたいと、ごねていて、女騎士の試験に合格しているの。
で、ルーカス王子とは、幼馴染なんだけれど、試験に合格すると同時に、婚約したから、実際に騎士団に所属していたのは、数週間なのだけれどね。
・・・だから、ルーカス王子が、騎士団を率いて、国内を移動するときは、彼女も一緒に、軍服を着て、ルーカス王子の横に轡を並べて、回っているわ。」
午後中、アイリーン王妃は、私とおしゃべりしてくれて、夕方、ようやく立ち上がる。
「ユーリ、熱も下がったようで、安心だわ。でも、数日は、ゆっくり休んで、身体を大事にね?幸い、今すぐ、あなたがしなければならないことは、何も無いから。」
「アイリーン姉さま、ありがとうございます。」
うなずいて、アイリーン王妃が退室し、ドルチェとレーテに着替えさせてもらってから、流動食に近い食事を取り、眠りに落ちた。
ちなみに、アルフレッド公は、王妃の侍女に睡眠薬を盛られて、明朝まで強制的に眠らされたと聞く。
そうでもしないと、絶対に眠りそうになかったから、だそうだけれど。




