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婚約式2



 婚約式兼、神の御使い降臨のお披露目会は、国王陛下の、私を紹介する声で幕を開けた。

ホールに、アルフレッド公のエスコートで入場したとき、居並ぶたくさんの人たちから、一斉に注目され、本気で回れ右をして、逃げたいと思った。

アルフレッド公が、軽く、背中を支えてくれたから、どうにか踏みとどまったけれど。


 今、私は、王宮で一番広いホールの正面に設置された、一段高い壇上で、各国の使者と、このエルダー王国の貴族の挨拶を受けている。

 壇上の中央には、国王と王妃が立ち、壇上に向かって左側にルーカス王子とその婚約者のリリアナ公爵令嬢が。右側に、アルフレッド公と私が、立っている。

それぞれに挨拶する列が続いていて、壇の前は混雑していた。

 私は、事前に指示されたとおり、微笑むだけ。声はかけない。頭を下げてもいけない。そして、何より、絶対に、誰とも目を合わせない。

作り笑いで、顔の筋肉がけいれんを起こしそうになった頃に、ようやく、挨拶の行列が、ほぼ途切れ、それを合図に、音楽が変わる。

お披露目のダンスの時間になったのだ。


 アルフレッド公と私だけが、最初に踊る。その後、全員が、ダンスに参加する。

 アルフレッド公に手を取られて、ホールの中央に歩くとき、足がぶるぶる震え、転びそうになった。

四方八方から熱い視線が、からんできている。

・・・どうしよう。踊っていて、転んだら・・・。

と、ぎゅっと、手を強く握られた。

アルフレッド公が、微笑んでいる。


「大丈夫。ユーリ。転びそうになっても、私が支える。足を踏んでも構わない。力を抜いて?そして、私だけを、見ていて?」


 アルフレッド公のリードで、踊り出せば、目に映るのは、アルフレッド公の、引き寄せられてやまない、深い深い青の瞳だった。

ああ、いつ見ても、この蒼い瞳はきれいだなあ。

吸い寄せられるように、目を離せずにいれば、緊張がほぐれて、ステップが軽くなるのが、自分でもわかる。

一曲、踊り終えれば、鼓膜が破れそうになるくらいの、拍手が響いた。


「なんて、お美しいのでしょう、神の御使い殿は!」

「神の御使い殿、ぜひ、次は、わたくしとダンスを!」


 賞賛の嵐と、私をダンスに誘おうと殺到してくる男性を、うまく、アルフレッド公がさばき、王族がいる壇上に、連れ戻してくれた。


今日は、一種、無礼講になっている。

通常、公式の場では、上位者からしか話しかけてはならない規則があるが、今日は、海外からの賓客が多く、賓客の爵位が初対面ではわからないので、その規則が撤廃され、自由に話をすることが、許されている。

だから、この時とばかり、王族に話しかけてくる者も多く、ホールで踊る者、食事やお酒を取りながら、談笑する者と、普段より、賑やかになっているようだ。


 特に、アルフレッド公は、今まで、社交界に出ることが少なく、出ても、誰にも話しかけないから、話しかけるチャンスすら与えてもらえなかった貴族が多い。

したがって、今日は、彼と話をする絶好のチャンスと、引きもきらず、多くの人が、押し寄せてきていた。

男女比でいえば、圧倒的に男性ばかりだけれど。女性は、彼を怖い人だと、未だに信じこんでいるらしい。

 王族らしく、卒なく、こなしているけれど、目を見れば、冷たい光が、どんどん強くなってきているのが、私にも、わかる。

 アイリーン王妃から、令嬢が卒倒する眼力だと聞いていたので、ちょっとまずいかな、どうしよう、いったん、彼を皆さんから引き離して、落ち着いてもらわないといけないかな、と悩みはじめたところに、耳障りな、甲高い声が響いた。


「いたー!アルフレッドさまああああ!!!」


 ホールの向こうから、令嬢が突進してくる。

紺に近い青色のドレスに、金色の刺繍?え?王族?あれ?でも、髪の色が茶色?

そもそも、王族の婚約式に青のドレスって、私以外が着たら、マナー違反なのでしょ?あ、でも、禁じられてはいないんだっけ?


その令嬢は、アルフレッド公の周りの貴族をつきとばし、さらに、私を押しのけて、彼の腕にしがみついた。


「アルフレッドさまあ!婚約者は、私でしょぉ!!!」


 ホールの中が、凍り付いた。

楽団も演奏を止め、談笑も止まり、一瞬、静寂が満ちる。

と、アルフレッド公が、その令嬢を振りほどき、令嬢が吹っ飛ぶ。

なのに、懲りもしないで、また、しがみつき、振りほどかれまいと足を踏ん張っている。

・・・ど、どうなっているの?この子、何?


青い顔をした近衛騎士が、駆け寄ってきて、数人がかりで、アルフレッド公から、令嬢を引き離すけれど、暴れまくり、長い爪でひっかいてくるので、拘束するのが大変そうだ。明らかに貴族令嬢なので、犯罪者のように扱えず、手を焼いているのが、わかる。


呆気に取られたけれど、アルフレッド公が、すばやく、私の腰に手を回し、ホールから連れ出すために、壇上に速足で向かいながら、労わってくれる。

「ユーリ、怪我は?」

「大丈夫、です。びっくりしただけで。」


ホールから、連れ出されれば、そこには、王族が揃っていた。全員、避難したらしい。


「ユーリ、ごめんなさいね。まさか、あのバカ娘が、参加するとは思っておらず。あの子の親のモートン侯爵には、あの子が今日、参加しないように、部屋に閉じ込めることを申し付けていたのに。」

 アイリーン王妃が、謝ってきた。

「いえ、びっくりしただけです。あの、あのご令嬢は?」

「ご令嬢なんて言わなくていいよ。バカ娘で。モートン侯爵のとこの娘なんだけど、前から、目を付けた男性にべったりくっついて誘惑するから、社交界に出すなって命令しているんだけど、親の目を盗んで、あちこちに出没して、騒ぎを起こしてる。はあ。まさか、叔父上の婚約式に乱入されるとは。諸外国に、我が国の恥を知られてしまった。」

 ルーカス王子が、吐き捨てるように言う。


「アルフレッド様?」

 アルフレッド公が、ジュストコールを脱ぎ捨て、床にたたきつけたので、びっくりして声をかけると

「あの汚らわしい女に触れられた服なぞ、着ていられるか。」

と、険しい顔、怒りが籠った、低い声。

彼が怒ったのを見たことがなかったので、思わず、リリアナの側に行って、彼女の袖を握ってしまったくらい、怖かった。

 後方で、慌ただしく、侍女達が走り去る音がして、間もなく、別のジュストコールが持ってこられる。

脱ぎ捨てた服とほぼ、似たようなデザインなので、それに着替えても違和感は無い。

万一、汚してしまった時のために、スペアが用意されているためだ。


 時間にすれば、15分くらい、待っただろうか。あわただしく、宰相が近づいてきて、モートン侯爵令嬢が、連れ出されたことが報告され、私達は、また、ホールに戻ることになった。


 超機嫌を損ねたアルフレッド公が、もう戻る、と駄々をこねたけれど、今日の主役は、私達なので、許されない。


 宰相や公爵たちが、うまく立ち回ってくれたのだろう、ホールに戻れば、何もなかったかのように、賑やかさが戻っていて、集まっている貴族や、海外の賓客の目には、先ほどと同じように、好意が見られ、ほっとする。


 この騒ぎの後は、特に何も問題なく、初めての社交界デビューを、無事に終え、自室に戻れば、疲れと安堵で、ドレスを脱ぐ気力もなく、崩れ落ちて、眠りの世界に意識を手放した。




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