王妃とのお茶会
「ユーリ嬢、どうぞこちらに。」
色とりどりのバラに囲まれたガゼボで、緊張しながら、案内された椅子に座る。
にこにこと迎えてくれた、豪華なドレスを着た美人さんが、2人。
「まずは、自己紹介しますわね。わたくし、エルダー王国の王妃で、アイリーンと申します。」
長い金髪をゆるやかに結い、きれいな青い瞳をもった女性が、まっすぐ、私の顔を見つめて、微笑んでくる。
「わたくしは、リリアナ・ゲートリッヒと申します。父が公爵です。・・・ルーカス王子と婚約させていただいています。」
ふわふわと柔らかな、明るい薄茶色の髪と、淡い青い瞳をもった女性が、にっこりと微笑むが、その視線は、私の首元に落とし、顔を直視しないようにしている。
少し、パニックだ。
え?王妃?え?王子の婚約者?どういうこと?
確か、伴侶を選べって言われたとき、王と王子も対象になっていたはず?
だから、全員、相手がいないと思っていたのに?
「あ、わたくしは、神崎友里子です。ユーリと呼んでください・・・。」
それでも、慌てて、自己紹介する。
「ユーリ嬢、そんなに緊張されなくても、大丈夫ですわ?今日は、王家の女性同士、親交を深めたくて、お茶会を開かせていただいたのですもの。」
アイリーン王妃が、にこにこと明るい声をかけてくる。
「こちらには、もう、慣れまして?ご不自由を感じていらっしゃいませんか?」
「ありがとうございます。今のところ、大丈夫です。」
お茶を勧められ、テーブルの真ん中のお菓子も、好きなものをつまんでほしいと、言ってくれる。
素直に、マカロンと、プチシュークリームを選んで、自分のお皿に載せる。
この国の食べ物はおいしいなあ。と思いながら、さくさくとマカロンを食べていたら、
「・・・ユーリ嬢は、元いらした神の御国でも、貴族でいらっしゃいましたの?」
突然、リリアナに声をかけられて、びっくりする。
「はい?」
「とても、所作が洗練されていますので・・・。こちらにいらしてから、まだ1か月くらいですよね?1か月で身につくレベルではないと、思いまして?」
「あ、ありがとうございます。でも、わたくしは、貴族ではありません。・・・えっと、わたくしが来た日本という国は、貴族制度が無い国なので。」
アイリーン王妃とリリアナ公爵令嬢が、不思議そうな顔をする。
「ニホン?ニホンという国は、国王陛下がいらっしゃらないのですか?」
「はい、この世界でいうところの、国王陛下は、我が国には、居ません。」
アルフレッド公に、日本の政治を説明したとき、いろいろ質問攻めにあったことを懐かしく思い出しながら、2人に、日本について、簡単に説明した。
「まあ。国のトップを国民が選ぶの?しかも、何年かで変わる?・・・国民の識字率が100パーセント?信じられませんわ。・・・我が国の平民は、読み書きができない人が大多数ですのよ?」
アイリーン王妃が驚いたように、ため息をつく。リリアナも、理解不能という顔をして小首をかしげている。
「ともあれ、2カ月後の婚約式、ユーリ様の美しさに、皆が見惚れるでしょうね。」
アイリーン王妃が、ころころと笑い、リリアナも、ほんとですわ、と、相槌を打つ。
「そ、そんなことは・・・。王妃様とリリアナ様の方が、ずっと・・・。」
「あら。ユーリ嬢、だめですわ?公式の場ではともかく、普段は、わたくし達のことは、アイリーン、リリアナ、と呼び捨てにしてくださらない?家族になるのですから。」
アイリーン王妃が、遮る。
「あら、アイリーン姉さま、そうですわよね。」
リリアナも、うなずく。
「え?でも、王妃様と、王子妃様ですし?」
「何を言っているの。あなたも、王弟妃になるのですから、王族の一人。家族ですわよ?」
ふいに、涙が出そうになった。
両親がいなくなってから、私には、家族が、いない。叔父の一家は、私と顔を合わせようともしなかった。
学校の三者面談など、どうしても必要な時は、叔父が来てくれたけれど、元気だったか?と言った最低限の言葉も、私は掛けてもらったことが無い。
そんな私に、家族が、できる?
「ありがとう、ございます。あの、じゃ、アイリーン姉さま、リリアナ姉さまと、呼ばせていただきます。わたくしのことは、ユーリと呼び捨てにしてください。・・・妹なので。」
「あらあ、素敵。リリアナ、ユーリと2人も妹ができて。うれしいわあ。」
にこにこと、アイリーン王妃が、声を弾ませる。
「わたくしにも、妹ができたのですね。・・・なんだか、不思議ですわ。わたくし、末っ子だったので。」
リリアナも、軽く首をかしげながら、少し、恥ずかしそうに、笑う。
和やかにお茶会が進み、2人とだいぶ打ち解けたので、気になっていることを、王妃に聞いてみる。
「あの、アイリーン姉さまは、わたくしと目を合わせても、大丈夫なのですか?」
リリアナは、視線をさりげなく逸らしているけれど、アイリーン王妃は、まっすぐに私を見て、話をしてくれるのだ。
「ええ。ご覧の通り、わたくしの髪は、王家の金髪でしょう?わたくしの祖父が、2代前の王の弟だったのです。わたくしの父と、兄も、王族の血の証明である、金髪を持っています。だから、ユーリと目を合わせても大丈夫でしょう。でも、妹は、王族ではない母の血が強かったのでしょうね。茶色の髪ですので、ユーリとは目を合わせることはできません。」
「そう、なんですね。」
「リリアナの家も、先祖が王族ですが、血が薄まってしまっているので、今は、金髪の方がいらっしゃいません。・・・でも、リリアナは髪の色が、淡い茶色でしょう?金髪と茶色の中間ですわね?王族が先祖にいる証。だから、普通の人よりは、ユーリの魅了の力は、効きづらいとは思うのですけれど、金髪ではないので、用心をしてもらっています。」
・・・もしかすると、貴族の中に、王家の金髪を持つ人がいるかも?そうしたら、目を見て話せるお友達が増えるかも?
「では、貴族の方でも、金髪でしたら、お顔を見て、お話できるんですね?」
「そうですわね。でも、金髪を持つ貴族は、本当に少なくて。わたくしの父と兄以外には、いなかったと思いますわ。・・・リリアナ、どう?」
「そうですわね、アイリーン姉さま。えーと、あ、そうだ、辺境伯のお1人が、金髪でありませんでしたっけ?」
「ああ、ロックウォール辺境伯。でも、あの方は、王宮に出ていらっしゃいませんから・・・。ユーリと会う機会がほとんどないかもしれませんね。」
残念。目を見て話せるお友達ができるか期待したけれど、無理そうだ。
ついでに、もう一つ、気になったことを聞いてみる。
「あの、お二人は、私が来る前から、王妃様と、王子殿下の婚約者ですよね?」
「ええ。そうですけど?」
「じゃ、どうして・・・。どうして、レジナルド王は、ご自分と、ルーカス王子も、私の伴侶候補になられたんでしょう?というか、私が、王か、王子を選んでいたら、どうなったんでしょう?」
アイリーン王妃と、リリアナが、顔を見合わせる。
話すか、話すまいか、悩んだようだったけれど、アイリーン王妃が、小さくため息をついて、口を開いた。
「お話しても良いのか、少し悩むところはございますけれど。アルフレッド公をお選びいただいたので。問題ないかしら。
・・・この国では、神の御使い様を召喚したら、既婚未婚関係なく、王族の男子は、全員、御使い様の選ぶ対象となります。そして、選ばれたら、御使い様と結婚します。既婚の場合は、離婚して。
・・・なぜかと言うと、御使い様を、御使い様の世界から、無理やり召喚するという罪が、わたくし達には、あるからです。
御使い様には、御使い様がお気に召される方を伴侶にしていただき、できるだけ幸せにお暮しいただけるようにすることが、わたくし共の贖罪・・・なのです。贖罪にならないかもしれませんが、せめて、わたくし共の誠意として・・・。」
「え?その、相思相愛の夫婦であっても、離婚、するのですか?あの、お子様がいらしても?」
「はい。その通りです。ですから、もし、ユーリが、レジナルド陛下を選んでいたら、わたくしは、ユーリに会う前に、離婚して、実家の公爵家に帰っていたでしょうね。」
「そんな・・・。」
「ふふ・・・。ユーリ、大丈夫ですよ。もし、王を選んでいたとしても、王に妃は居なかったことにされますから。御使い様には、そのような罪悪感を感じないように、王に妃が居たことは、公的文書からも抹消され、緘口令が敷かれ、万一、お耳に入ることがあったら、それをお耳に入れたものは、死罪になったことでしょうね。」
「アイリーン姉さまは・・・、それでも、我慢、できるのですか?そんな理不尽に?」
「我慢ではなく、わたくし達には、当然のこと、なのです。それが、この国の貴族としての、義務。それに、理不尽な目に合うのは、御使い様も同じでしょう?いえ、もっと酷いですよね?勝手に異世界に呼び寄せられて。勝手に王族と結婚しろと言われて。」
絶句する。
「ユーリ、この国の貴族は、ノブレスオブリージュと言って。高貴なるものの義務を大事にします。それができない貴族は、要らないのです。・・・御使い様は、この国に安寧をもたらしてくださるお方。その方を優先するのが、当たり前なのです。個人の感情を優先にして国を傾ける愚か者は、少なくとも、王族には不要なのです。・・・リリアナも覚悟してましたよ。ルーカス王子が、ユーリに選ばれたら、婚約破棄されることを。」
「リリアナ姉さま・・・。」
リリアナが、にっこりと笑う。
「でも、ユーリは、アルフレッド公を選ばれたから。結果、みんなで幸せになれて、良かったですわ。ありがとうございます。ユーリ。」
その時、はっとした。
「ねえ、リリアナ姉さま?アルフレッド様は、もしかして、奥様か、恋人と別れさせられた・・・の?」
大きく目をみはった後で、ふふっと、リリアナが軽く噴き出した。
「うふふ。ご心配なく。誰もいなかったから。アルフレッド様は、誰も女性を近寄せなかったから、国王陛下が、いつになったら結婚するんだって、気に病んでらしたわ。
緘口令が敷かれているから、そう言っているのでなく、本当に、だーれも居なかったのよ。だから、ユーリがアルフレッド公を選んだと聞いて、わたくし達、驚愕したもの。
絶対に、アルフレッド公は選ばれないだろうから、アイリーン姉さまか、わたくしのどちらかが、離縁されると信じていたのだもの。」
本当だろうかと、アイリーン王妃を見れば、アイリーン王妃も、うなずく。
「相手が決まっていない男性王族は、アルフレッド様だけでした。だから、アルフレッド様を選んで頂ければ、ありがたいと思ってはいましたが、まさか、本当に、選ばれるとは思ってもいなくて。
・・・アルフレッド様も28歳です。レジナルド陛下は、公が、王族の義務である結婚をされていないことを、非常に気に病んでいらしたので、ユーリの選択は、王族にとっては、感謝しかありません。ありがとうございます。」
その時、この国の王族の瞳が、とても澄んで綺麗な理由が、わかったような気がした。




