気持ちを知りたい
アルフレッド公は、ため息をつく。
魔力を流して、感じるかどうか、テストしていた時、ユーリの顔が近くにあり、彼女の頬がほんのり上気していて、とても可愛いと思ってしまった。
テストが終わった後、すぐに、自分から離れようとしたユーリを、離したくなくて、思わず、衝動的に、抱き寄せたら、逃げられてしまった。
「ユーリは、私のこと、嫌いなんだろうか?」
顔は嫌われていないと思う。綺麗だって言ってくれたから。
いや、もしかして、それは、お世辞だったんだろうか?
それとも、顔は気にならないけれど、私自身は、好きじゃないということだろうか。
もしかしたら、元の世界に、好きな男がいたのかもしれない。
伴侶を選んでほしいと、レジナルド王が言ったとき、あまり時間をかけずに、自分を選んでくれたのは、自分が一番良かったからではなく、義務で選ぶなら、誰でもいい。と思ったからかもしれない。
アルフレッド公は、どんどん、自分が落ち込んでいくのを感じて、新しく生まれた感情に、戸惑う。
「神の御使いに選ばれたら、拒否できない。だから、この婚姻は、義務。気持ちは関係ない、はず??」
義務だったら、相手がどう思っていようと、関係ないはずだ。
それなのに。
「私は、なぜ、義務であることに、ショックを受けている?」
出会ってから、まだ10日くらい。
まだ、10日しか経っていないのに、ユーリに惹かれていく自分を感じる。
ユーリの生国は、おそらく、このエルダー王国よりはるかに、文明が進んでいる。
この国の貴族が学ばなければならない学科は、全て、ユーリには、もう学び終わった、簡単な内容だったらしい。
初めて学ぶ、エルダー王国の歴史や法律などは、ともかく、文学、数学、経営学は、彼女に教えることがほとんど無かった。
むしろ、彼女に、これから教えてもらいたいことが、たくさん、ある。
だからだろうか、彼女は、14歳だというけれど、この国の同じくらいの年の令嬢と比べても、ぐっと、大人に見える。
そして、まじめで、何事も熱心に取り組み、いつも楽しそうにしているユーリから、目が離せなくなっている。
王族に魅了が効かないなんて、信じられないほどに、どんどん、ユーリを好きになっている自分がいる。
ブレアは、主のアルフレッド公の様子を見て、困惑していた。
彼が知っているアルフレッド公は、感情を表に出さない。
乳兄弟である自分には、さすがに冷たい目で見ることは無いが、めったに感情を見せることが無く、微笑んでもらった記憶も、数えるほどだ。
それはそれとして、普段、いつも、本にかじりつくか、何か怪しげな研究をしている彼が、それらを放棄し、やや顔を赤らめ、困ったような顔で、動物園の檻の中の動物のように、室内をうろうろと行ったり来たりをしている姿は、28年間、傍についているブレアも初めて見た。
「アルフレッド様。お茶をお淹れしましょうか?」
声をかけても、聞こえていないようだ。
「アルフレッド様!!!」
大きな声で呼びかければ、はっとしたように、足を止める。
「ん?ああ、ブレア。何だ?」
「・・・さっきから、うろうろ歩き回って、何されてるんですか。散歩したいなら、庭園に出られたらいかがですか。」
「いや、散歩をしたいわけでは、無い・・・。」
「そうですか。では、お茶をお淹れしましょうか?」
「いらない。・・・今は、ほっといてくれ。」
「はあ、そうですかあ。」
ブレアは、ため息をついて、部屋から出ようとした。
「あ、まて。ブレア。」
「なんです?」
「ユーリは、私のことを、どう思っていると思う?」
「はあ?そんなこと、従僕の私が知るわけないでしょう。ご自分で聞いてくださいよ。」
「ユーリに聞くのか?」
「ユーリ様の気持ちは、ユーリ様に聞くしかないでしょう。」
「いや。そんなこと・・・。」
一層、顔を赤くして、ぶつぶつ言いだした、アルフレッド公を、珍獣でも見るかのような目で見て、ブレアは、ため息をついて、退室する。
「アルフレッド様でも、恋に落ちるんだなあ。・・・いや。それとも、神の御使いって、やっぱり、王族にも、魅了を使えるんじゃないか?」