第32話 顔なじみ
◇◇◇
「運命」というものは存在する。
勇助は、その身を持ってはっきりと確信した。
――知ってる人しかいないってことある……?
結論から言うと、「三十」グループのメンバー、勇助とつばきを除いた残りの二人は、どちらも勇助との顔なじみだった。
いや、片方に至っては、勇助が勝手に存在と名前を認知しているだけであって、向こうは勇助の存在など初耳なのかもしれない。これに関しては、本人のみぞ知る――といったところだ。
まず、一人目。
この端正且つ中性的な顔立ちを見間違える筈がない。
彼は他でもなく、「勇助が講堂で頭から突っ込んだあの男子生徒」だった。
「また会ったね!」
男子生徒が、こちらに向けて親しげに手を振る。
ひとまず覚えてくれてはいるようだ。勇助が手を振り返しながら安堵する。
「こっちは覚えてるけどあっちは一切覚えてない」などという最高に気まずい展開にならなくて良かった。
次に、二人目。
熊の耳を思わせる髪型が特徴的な、水使いの「相崎何とかさん」だった。
「何とか」になってしまっているのは、勇助なりに申し訳ないと思っている。しかし本当に覚えていないのだ。
「全員どっかで見たことあるなあ」
「相崎さん」は、首を捻りながらそう言った。
上がり下がりの激しい、独特のイントネーションが耳に残る。
「あの、じゃあ自己紹介でも……」
「せやな。名前呼ぶ時困るさかいに」
勇助が控えめにそう提案すると、「相崎さん」は大きく頷いた。
それで僅かに自信を得た勇助が、先程よりも少し張った声で続ける。
「それじゃあ、一人ずつ名前と、あったら能力を言ってく……っていうので」
「ほなウチから」
大きく挙手してから、「相崎さん」は同意を得るのも待たずに自己紹介を始めた。
「ウチ、相崎心愛。能力は、まあ水を出したり操ったりするヤツや。やりすぎると脱水症状出るから期待しすぎんようにな。ほなよろしゅう」
――あ〜! ココアだココア!!
自力で思い出せなかったのは少々悔しいが、それでもスッキリしたことには間違いない。
次に勇助を襲ったのは、「ココアって何て字書くんだろ……?」という純粋な疑問だった。
しかし、彼女の派手な茶髪も相まって、余計に熊を連想してしまう。
勇助は頭の中に浮かんできた「熊」の字を必死に振り払った。
「じゃあ、次は僕」と前置きしてから、続いて例の男子生徒が名乗る。
「僕は東流星。能力は『予知』。視えるのは、大体三日後ぐらいまでかな。よろしくね」
生まれる性別を間違えたのではないかと思うほどに柔らかい笑みである。
しかし、予知の能力とは凄い。もしかしたら流星は、入学式の怪獣事変が学園側による試験だったことも知っていたのかもしれない。そして、このクラス決定試験の結果も――?
「ホントにどうでもいいことなんだけどさ。もしかして流星君って、怪獣騒ぎのこととか視えてたの?」
一度気になったことは、何としてでも突き止めようとするのが人の性。
勇助のかなり唐突な質問に、流星は一瞬ぽかんとしたような顔をしていたが、すぐに微笑みながら答えた。
「いや、全然。ていうか視ようともしてなかったんだよね。まさか勇学の入学式で、あんなハプニングが起こるだなんて全然思ってなかったから」
少し伏し目がちになってから、流星が続ける。
「小学校の時に物凄く怖い予知をしちゃってから、日をまたいだ予知――というか予知そのものを積極的にしなくなったんだよね」
「そうなんだ……」
で、その「物凄く怖い予知」って? と突っ込んで聞けるほど、勇助は度胸のある人間ではない。
というか、その予知の内容によっては、この問いは「無神経」となってしまうこともあるかも知れない。
念には念を……ということで、勇助はそれ以上何も言わなかった。
「私は、姫原つばき。能力は『魔法』――火魔法と水魔法、あとはちょっとした回復魔法みたいなのとか。皆頑張ろうね!」
つばきが微笑みながら自己紹介を終える。
心愛は頷いてから、勇助の方に視線を投げた。
「最後はアンタやな」
「あ、うん! えっと、谷田勇助です。能力は無いんですけど、皆の足を引っ張らないように精一杯――」
「――アンタ、能力無いん?」
心愛が、丸く見開いた目で勇助の顔を見つめた。
気まずさ等から、目を合わせることに耐えられなくなって、勇助が心愛から視線を逸らす。
「一応……無い、ですね」
「一応って何や、無いもんは無いってハッキリ言いや」
「無い!! です」
――何故自分は、敬語で喋っているのだろうか。その答えは勇助本人にも分からない。
心愛に言われるがままハッキリと無能力宣言をした勇助。
すると、心愛はかなり露骨に大きなため息を吐いた。
「ありえへん……ほんまにありえへん。何で能力も持ってない奴がここにおるねん」
勇助の動きが一瞬止まる。
いや――でも、そうだ。普通は、こうなのだ。この反応が世間一般的に普通なのだ。
勇学に来てから、今まで出会ってきた仲間達が「優しすぎた」というだけなのだ。
能力を持っていない方がレアケースで――そして、能力者達からは疎まれる今日このご時世で、心愛のこの反応は至って「フツー」なものなのだ。
「無能力」を受け止めてくれる人が多過ぎたあまりに、この一言が前より効いてしまっているだけ。そう、それだけだ。
気持ちを少しばかり整理してから、勇助が至って平静を装う。
「『フツーの人間代表』という制度でして……」
「はあ? そんで言われるがまま、ノコノコ勇学来たってことかいな? 能力も無い奴が立派な勇者になんかなれるわけないやろ。身の程弁えたらどうや?」
心愛の蔑むような――いや、実際蔑んでいるのだが――視線が痛い。
次に何と返すべきか分からず、勇助は思わず俯いた。
「そこまで言うことないでしょ!? 能力なんて無くたって、勇者になれないとは限らないじゃない!」
「そうだよ! 能力があることが、能力を持っていない人に威張り散らしていい理由にはならない」
つばきと流星が、素早く心愛に言い返した。流星も無能力への理解はあるようだ。
とにかく二人の言葉は、勇助にとってかなり有難いものだった。




