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第三十章 おやすみ

「わんわーん!」


 誰かの声がする。


「ジロウ大好き!!」


 聞き覚えのある誰かの。


「…今ジロウ達が側にいてくれるから。」


 懐かしい誰かの声が。


「私もみんなが大好きだよ!!」


 私も忘れない。


 忘れていない。


 私自身を。


 みんなのことを。







「…収まったのか?」

 タカちゃんの声がする。

 黒い言葉と映像の渦は収まり辺りは再び真っ白な空間になっていた。


「…何をしたのだメイチョン君?」

「…私の作った世界で私の知らないことが起きるはずないのだ。」

 金色の麒麟は困惑の表情を浮かべている。


「彼女が全てを知って生きようとするはずなどなかったはずだ!!」


「…社長、いやパルメニデスさん。私達はちゃんと仕事をしただけです。」

「彼女の側で彼女を見届ける、それをしただけです。」


「…そうか。…やはりそれが大切だったのだな。」

 金色の麒麟は静かにいなないた。



「…ジロウ?」

「イデア!!目を覚ましたか!?」

「イデアちゃん!!」

「大丈夫!?」

「…ふふ、思えばいつも私が倒れたらみんながいたね。」

 イデアの姿は、恐らく生前の姿と同じにまで成長していた。


「…イデア。」

 金色の麒麟が近付いてくる。

「…その声はお父さんね、…私にこんなことしたのも全部お父さんなんでしょ。」

「…イデア、すまなかった。」

「…私こそ…ごめんなさい、心配かけて。」

「なぜお前が謝るのだ、お前がこうなってしまったのは全て私の責任なのに!」

「…違うわお父さん、…私は…私で望んだの。楽に…なりたいって…そう…思ったの。」

「だから…私のせいなの…。ごめんなさい…お父さん。」

「いや…私こそ…イデア…。」


「うっ…。」


「イデア!?」

「イデアちゃん!!」



 イデアの体は劣化して手足が消滅していた。

 淡い光を放ちながら崩壊を始めている。



「沢山…お話…したかったけど、難しい…みたいだね。」


「しっかりしろイデア!まだ俺達の冒険は終わってないんだ!!お前と行きたいところがまだまだ沢山あるんだ!!」


「…うん、ジロウ。私も…みんなと…したいことが…沢山あるの。」


「タカちゃん!!あれを使えば助かるんじゃなかったの!!」

「…ディスクはあくまでも記録データなんだ、…イデアちゃんの意識を取り戻すことは出来てもデータ事態の変更は出来ないんだ。」

「…そんな、それじゃ意味ないじゃない!!」


「…そんな…ことないよ、角ねぇ。」


「私は…みんなのお陰で、一人ぼっちの…寂しい私としてじゃなくて…みんなのお友達として…今ここにいることが出来るもん。」

「私は…とっても嬉しいよ。」

「いてあちゃん…!」

「京子お姉ちゃんには…、一番迷惑かけたね、わがままな…子どもでごめんね。」

「そんなことないよ!わたひは、もう一度あなはといれてうれひかった!!あなたともう一度話せて、嬉しかったの!!」

「…お姉ちゃんったら、泣き虫なんだから。」


「…ジロウ、…お姉ちゃんを…よろしくね。」



「バカ野郎!何がよろしくだ!お前も一緒にいるんだよ!!約束したじゃないか一緒ににいるって!!」



「…ありがとう、…私の優しい狼さん。」


「うっ…。」


 彼女の体は崩れ始める。


 それと共に彼女の記憶が真っ白だった世界に広がる。


 山を、空を、森を、街を、海をみんなで過ごした景色が広がっていく。


 彼女と過ごした日々が俺達を包んでいく。



「イデア!!」



「ジロウ、最後に…一言だけ言ってほしいの。」

「何が最後だ!最後だなんて俺が認めない!!ここはゲームの中なんだ!なんだって出来る!なんだってやれるはずなんだ!!」 

「…ジロウ、お願い。」

「お前がここにしかいれないなら俺がずっといてやる!!俺がお前と一緒にいてやるから、頼むから、側にいてくれよ…。」


「嬉しいよ…ジロウ、…嬉しいけど…私はもうここにはいられないの。」


「なんでだよ!何が不満なんだ!!俺はお前の全てを受け入れるぞ!!」


「違うのジロウ、私は…もう死んだの。私の意識は…もうじきなくなるの。私は…じきに…ただのデータになるの。」


「そうならない…ために…お父さんは私に期限を…つけてくれたの。私が…この世界で…生きていけるように。」



「そんなのお前達の勝手じゃないか!!俺達をおいていくのかイデア!!」



「…大丈夫だよ…ジロウ。私は…どこにもいかないもん。どこにも…いけなかった…私にも居場所が出来たもの。」


「ねぇ…ジ…ロウ、最後に…一言…。」


「イデア!!」


「愛…して…るよジロウ、勿…論み…んなも。」



「あぁ!!俺も!俺もお前を愛してる!イデア!!」

「たいすきだよ!!いてあちゃん!!」



「あり…が…と…う。」


「だい…す…きだよ。」




「イデアァ!!」




「………。」

「………おやすみ、………イデア。」











 ヘッドセットを外すと部屋の明かりが目に差し込んでくる。この滲んだ人工的な明かりが先程までの世界は仮初めのものだと俺に訴えかける。

「…しろうさん、きょうまへありがほうございました。」

 俺の隣いるかめちょんは初めて会った時が嘘のように泣き崩れている気がする。正直はっきり見えてない。

 俺はかめちょんの頭を掴む。

「…バカ野郎、まだ終わってない!!」

「…。」


「俺はイデアに頼まれたんだ!お前のことも!!」

「…。」


「まだ終わってないんだ!!」

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