その04 巫女姫ウォトワルフ
「姉を失い悲しみに暮れる勇者デヴィン。彼に寄り添う巫女姫ウォトワルフ。
巫女姫は涙ながらに語る『魔王の力は強大で、あなた方はまだ幼い。こうなることは自明でした。私がもっとしっかりとあなた達を止めて居たなら』」
「誰がいつ泣いたって?」
ドスの効いた独り言は聞こえないふり。
そうか、エーコちゃんは、エーコという名前は偽名だったんだ。
『エルフ』の名前なんて知らないけれど、ウォトワルフなんて仰々しいのは正直平民らしくない。
「『あなたはもう戦うべきではありません。ここを離れて平和に暮らしなさい。
私はあの『冬の魔王』を倒せる英雄を探して来ます』」
「ああン?」
エーコちゃん口が、口が悪いよ!
「かくして巫女姫ウォトワルフは勇者デヴィンと袂を分かった!
ああ、優しくも悲しきすれ違い!」
巫女姫の役者が、後ろ髪ひかれながらも退場する。私に分かるのは、本物の巫女姫ちゃんはこの劇に不満たらたらという事位だ。
その後、勇者デヴィンと三人の仲間は苦しい戦いを潜り抜け、なんとか冬の魔王 カーツ=マイレンを倒した。
エーコちゃんから漂う不機嫌オーラで、私は楽しむどころではなかった。
「勇者デヴィンの戦いは終わった!
しかし、彼の旅は終わらない!」
まだ何かあるのだろうか。首を傾げる観客たち。
「愛する人に! 『エルフ』の巫女姫ウォトワルフに! 彼は無事を伝えねばなりません!
そして同時に、彼女の手を取り接吻をせねばならぬのです!」
「おや、これはこれは、よく帝国が許可を出しましたね!」
反対隣で例の少年が感嘆した。
私も同じ気持ちで続きを待った。部隊の上では巫女姫役の女性の手に、勇者役の青年がキスをしていた。
「ウォトワルフ、私の妻になってください。この劇を見て、ハインラティアにお戻り下さい」
黄色い悲鳴が飛び交う中で、私は仏頂面のエーコちゃんをチラ見した。
思う所はあるだろうけど、そこまでは分からない。
勇者の告白をエーコちゃんはどう捉えているのだろう。
彼女は本当は何歳で、勇者デヴィンをどう思っているのだろうか。
考えているうちに、舞台は幕となっていた。出演者たちが横並びになり挨拶をする。
エーコちゃんにすぐに確認したい気持ちもあったが気が引けた。
ここには他人もいるし、何より修道院のみんなのうち、誰が彼女の素性に気付いているのか分からない。望まぬ暴露は避けたいからだ。
「シスター」
「あ、席の件ありがとうございました。なかなか凝った演出で面白かったですね」
「はい。楽しめたなら良かったです。良ければこの後、一緒に街を見て回りませんか?
私は歳の近い友人が居ないので、祭の楽しみ方が分からないのです」
これはなんとも断りにくい、私は隣の座敷で笑いながら感想を言い合うロドゥバたちを見た。
悩みこむエーコちゃんも相談できそうにない。
「保護者と来ているので、許可をもらってからでもいいですか?」
「はい、もちろん。それと、自己紹介が遅れました。私はルシビル。商人の息子です」
「イウノです。スグ村のイウノ」
『来訪祭』も楽しみだけど、その前からお祭りが楽しめるならそれに越したことはないもんね。
「じゃあ、|蟻の刻(午後4時)に集合ね。
お姉さんはそれまで飲んでようかな〜、ヘアルトはどうする?」
「ダダ酒と美少年……どちらも捨てがたい。体が二つ欲しいですね」
「奢りは最初の一杯だけよ?」
「俺の奢りはツマミだけだぜ?」
「手前一文無しなんてすけどー!?」
酔っぱらいは放置して私たちはティカイ探索に向かった。
「目的地はありますの?」
「むし! ヌーヨドむし見たいヨ!」
「この時期には難しいかな……」
ヌーヨドはロドゥバと、私はエーコちゃんと手を繋いでいた。
右も左も何もかもが珍しいヌーヨドと、心ここにあらずといった様子のエーコちゃん。
「ガッマさんからお給金貰ったんだ。さっきは奢って貰っちまったし、豆パンでも食わねェ……食べないか?」
「いいんですか?」
ベタくんがポケットから財布を取り出した。キョトンとして訪ね返すルシビルくん。
ベタくんは一瞬苛立った顔をしたが、すぐに隠した。ベタくん的には私たちに奢りたいのであって、ルシビルくんは想定外なのだろう。
「私は実は屋台の食べ物とか食べたことがないので、すごく嬉しいですね! 買い方も知らないんですよ」
「マジかよ」
「わたくしも知りませんわ」『ヌーヨドも!」
それまであった反発が、頼られることへの喜びに変わったのか、ベタくんはニコニコしながらルシビルくんを先導した。
さて、困ったぞ? エーコちゃんの手を引きながら私はルシビルくんの背中を見つめた。
商人の息子が、屋台での買い物の仕方を知らないなんておかしいだろう。
では彼は何者なのか。
世間知らずで物腰丁寧、そんな子供が単独行動を出来ているのは、おそらくこの街の人間だから。
彼は、十中八九ティカイルクスの縁者だろう。
…………さて、困ったぞ。




