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聖パトリルクス修道院は今日も平和!  作者: 運果 尽ク乃
第九話【アウェイ】

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その04 巫女姫ウォトワルフ

「姉を失い悲しみに暮れる勇者デヴィン。彼に寄り添う巫女姫ウォトワルフ。


 巫女姫は涙ながらに語る『魔王の力は強大で、あなた方はまだ幼い。こうなることは自明でした。私がもっとしっかりとあなた達を止めて居たなら』」


「誰がいつ泣いたって?」


 ドスの効いた独り言は聞こえないふり。

 そうか、エーコちゃんは、エーコという名前は偽名だったんだ。


 『エルフ』の名前なんて知らないけれど、ウォトワルフなんて仰々しいのは正直平民らしくない。


「『あなたはもう戦うべきではありません。ここを離れて平和に暮らしなさい。

 私はあの『冬の魔王』を倒せる英雄を探して来ます』」


「ああン?」


 エーコちゃん口が、口が悪いよ!


「かくして巫女姫ウォトワルフは勇者デヴィンと袂を分かった!

 ああ、優しくも悲しきすれ違い!」


 巫女姫の役者が、後ろ髪ひかれながらも退場する。私に分かるのは、本物の巫女姫ちゃんはこの劇に不満たらたらという事位だ。

 その後、勇者デヴィンと三人の仲間は苦しい戦いを潜り抜け、なんとか冬の魔王 カーツ=マイレンを倒した。


 エーコちゃんから漂う不機嫌オーラで、私は楽しむどころではなかった。


「勇者デヴィンの戦いは終わった!

 しかし、彼の旅は終わらない!」


 まだ何かあるのだろうか。首を傾げる観客たち。


「愛する人に! 『エルフ』の巫女姫ウォトワルフに! 彼は無事を伝えねばなりません!

 そして同時に、彼女の手を取り接吻をせねばならぬのです!」


「おや、これはこれは、よく帝国が許可を出しましたね!」


 反対隣で例の少年が感嘆した。

 私も同じ気持ちで続きを待った。部隊の上では巫女姫役の女性の手に、勇者役の青年がキスをしていた。


「ウォトワルフ、私の妻になってください。この劇を見て、ハインラティアにお戻り下さい」


 黄色い悲鳴が飛び交う中で、私は仏頂面のエーコちゃんをチラ見した。

 思う所はあるだろうけど、そこまでは分からない。


 勇者の告白をエーコちゃんはどう捉えているのだろう。

 彼女は本当は何歳で、勇者デヴィンをどう思っているのだろうか。


 考えているうちに、舞台は幕となっていた。出演者たちが横並びになり挨拶をする。


 エーコちゃんにすぐに確認したい気持ちもあったが気が引けた。

 ここには他人もいるし、何より修道院のみんなのうち、誰が彼女の素性に気付いているのか分からない。望まぬ暴露は避けたいからだ。


「シスター」

「あ、席の件ありがとうございました。なかなか凝った演出で面白かったですね」


「はい。楽しめたなら良かったです。良ければこの後、一緒に街を見て回りませんか?

 私は歳の近い友人が居ないので、祭の楽しみ方が分からないのです」


 これはなんとも断りにくい、私は隣の座敷で笑いながら感想を言い合うロドゥバたちを見た。

 悩みこむエーコちゃんも相談できそうにない。


「保護者と来ているので、許可をもらってからでもいいですか?」

「はい、もちろん。それと、自己紹介が遅れました。私はルシビル。商人の息子です」

「イウノです。スグ村のイウノ」


 『来訪祭』も楽しみだけど、その前からお祭りが楽しめるならそれに越したことはないもんね。




「じゃあ、|蟻の刻(午後4時)に集合ね。

 お姉さんはそれまで飲んでようかな〜、ヘアルトはどうする?」

「ダダ酒と美少年……どちらも捨てがたい。体が二つ欲しいですね」


「奢りは最初の一杯だけよ?」

「俺の奢りはツマミだけだぜ?」

「手前一文無しなんてすけどー!?」


 酔っぱらいは放置して私たちはティカイ探索に向かった。


「目的地はありますの?」

「むし! ヌーヨドむし見たいヨ!」

「この時期には難しいかな……」


 ヌーヨドはロドゥバと、私はエーコちゃんと手を繋いでいた。

 右も左も何もかもが珍しいヌーヨドと、心ここにあらずといった様子のエーコちゃん。


「ガッマさんからお給金貰ったんだ。さっきは奢って貰っちまったし、豆パンでも食わねェ……食べないか?」

「いいんですか?」


 ベタくんがポケットから財布を取り出した。キョトンとして訪ね返すルシビルくん。

 ベタくんは一瞬苛立った顔をしたが、すぐに隠した。ベタくん的には私たちに奢りたいのであって、ルシビルくんは想定外なのだろう。


「私は実は屋台の食べ物とか食べたことがないので、すごく嬉しいですね! 買い方も知らないんですよ」

「マジかよ」

「わたくしも知りませんわ」『ヌーヨドも!」


 それまであった反発が、頼られることへの喜びに変わったのか、ベタくんはニコニコしながらルシビルくんを先導した。

 さて、困ったぞ? エーコちゃんの手を引きながら私はルシビルくんの背中を見つめた。


 商人の息子が、屋台での買い物の仕方を知らないなんておかしいだろう。

 では彼は何者なのか。


 世間知らずで物腰丁寧、そんな子供が単独行動を出来ているのは、おそらくこの街の人間だから。

 彼は、十中八九ティカイルクスの縁者だろう。


 …………さて、困ったぞ。


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