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聖パトリルクス修道院は今日も平和!  作者: 運果 尽ク乃
第九話【アウェイ】

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その03 悲劇

「ああしかし! 心優しき巫女姫は、その復讐がいかに困難かを熟知しておりました。

 これまでも、幾人もの戦士たちが魔王に挑み、そして帰らぬ人となっていました。


 冬の魔王 カーツ=マイレン!

 皆様はその恐ろしさをご存知でしょうか!?」


 知らない。いや、通り一辺倒ならともかく、詳細までは知らないというべきか。


 冬の魔王 カーツ=マイレン。

 北方ハインラティア王国の怨敵。幾度斃されても蘇る災厄の化身。


 名前の通り冬と氷の魔神であり、ハインラティアが一年の半分近く雪に沈むのはカーツ=マイレンのせいだと言われている。

 カーツ=マイレンは寒波を呼ぶ、存在するだけで周囲は極寒となり吹雪を巻き起こす。


 その周囲には荒れ狂う魔力によって生み出された氷の怪物が群れている。

 極寒と吹雪の中で氷の怪物と戦うのがどれほど難しいのか。とりあえず、冬の雨の中で外壁掃除するよりも危険で辛いのは確実だ。想像を絶する。


「千年以上、大陸統一王以前の、もはや記録も残らぬほどの大昔。

 ハインラティアのさらに北にはマイレンという国があったとされています」


 冬の魔王役なのか、真っ白なマントに同じ色の鎧、ドクロをおもわせるカンムリ付きの仮面の人物が、白づくめので顔を隠した兵隊を二人引き連れて舞台に上がる。


「当時のマイレン王カーツは、あろうことが世界龍に、『冬を呼ぶもの イスワーン』に恋をしました。

 今よりも世界龍とヒトは近く、魔法の力も強かった神話の時代です。それでも世界を脅かす魔王は存在しました」


 カーツ=マイレン役の人物が輝く剣を掲げた。長剣を持つことを許されるのは騎士階級以上の貴族だけらしい。


「当時の魔王を討ち果たし、勇者となったカーツは、魔王の遺した外法に触れ、魅了されてしまいます。

 そこには、ヒトが神になる方法が記されていたというのです!」


 太鼓が激しく打ち鳴らされる。

 カーツ=マイレン役が大仰な仕草で本を掲げた。


「カーツは願いました!

 『愛する愛する『イスワーン』! 私は貴女のために! 貴女の望む世界を作りましょう! 冬、冬、冬をここに!

 大陸全土を雪と氷と寒波で包み、静謐なる純白に染め上げて、貴女だけのものにしてしまいましょう!!』」


 周りから悲鳴が上がる、反感の声もだ。分かる。ちょっと違うよね。

 『イスワーン』は夜の闇や冬の寒さから人々を守る守護神のはずだ。


 そんな独りよがりな贈り物で、世界龍が喜ぶとは到底思えない。


「マイレン王カーツ。今や全身から冷気を吹き出す氷の怪物。

 その周辺十キルトは、水は凍てつき常に吹雪が吹き荒れる。氷でできた怪物が無限に生まれる滅びの空間! 人呼んで」

「『白魔結界』」


 朗読の人の叫びの直前に、エーコちゃんが絞り出すように呟いた。

 『白魔結界』を表現しているのか、仮面をした踊り子が二人躍り出る。


「マイレン王国をあっという間に飲み込んで、北方の悪夢そのものとなったカーツ=マイレンは愛のために歩き出しました。

 その歩みは緩やかながら、着実に大陸北部を死の荒野に変えていきました。


 もはやその目に知性なく、世界を滅ぼす災厄と成り果てて。カーツ=マイレンに救いあれ! これぞ魔王の呪いに他ならぬ!!」


 舞台の上を練り歩くカーツ=マイレン。

 そこにラッパが鳴り響いて、毛皮を着た男の人が立ちはだかる。


「ですが座して死を待つ我々ではありません!

 『真紅の悪龍 ライフレア』と『冬を呼ぶもの イスワーン』。兄妹龍を信仰する部族に、二龍から送られた奇蹟がありました。


 『不屈の炎』を灯せ! 冬を追い返すのだ!」


 毛皮の男が松明を掲げ、舞台の両側にある篝火に火を付けた。ごうと燃え上がる炎に照らされ、カーツ=マイレンが顔を覆い、踊り子と冬の兵士が撤退する。


「『不屈の炎』! 同じ名の部族の魔法使いが扱う灯火の魔法! 『白魔の結界』に潜るための守護の盾!

 勇者デヴィンはまず『不屈の炎』を求める旅に出ました」


 毛皮の人とカーツ=マイレンが下がり、代わりに勇者と二人の女性が舞台に上がる。


「旅の最中で出会ったのは、難民を守りながら南下する騎士、ハインラティアが誇る輝く美貌、貞淑なる戦乙女アーレンテ!」

「輝く美貌……貞淑、ねえ……?」

 

 青い鎧の女騎士が舞台に現れる。エーコちゃんは、私の横で皮肉っぽく呟いた。

 これは、あれかな? 例の『誰にでもベタベタする女の人』かな?


「三人はアーレンテと協力し、難民を無事に街まで送り届ける。

 助力に感謝した女騎士は、勇者デヴィンを『不屈の炎』の部族まで案内することを約束した!」


「魔王討伐を成し遂げて、脱走罪は不問になったみたいだな、運のいい女」


 エーコちゃんの独り言が怖いんですけど?


 その後、勇者一行は『島龍(ファンガーロッツ)』の気象術師を仲間に加え、『不屈の炎』の里に到達する。

 試練を突破した勇者デヴィンは、旅の仲間に『不屈の炎』の使い手を迎え入れた。


 そして。


「いざや、いざ! 『冬の魔王 カーツ=マイレン』討伐へ!

 『白魔の結界』に突入せんとする勇者デヴィンとその一行! ハインラティア最北の街トーク防衛隊に協力し、立ち並ぶ勇士たちと街を襲う氷の魔物を迎撃せよ!


 ああ! だが何たること!

 勇者デヴィンを悲劇が襲う!!」


 白い踊り子が踊り狂う。彼女らが掲げる棒の先には蛇竜を模した張り子。駆け抜ける踊り子と交差する勇者たち。

 そのまま舞台から降りていく踊り子。舞台上に残されたのは……。


「姉さん!」


 勇者役の男の人が悲鳴を上げた。

 隣のエーコちゃんが顔を背ける。


 倒れ伏した狩人姿のお姉さん。泣き崩れる勇者と巫女姫……。


 え?


 エーコ、死んじゃったよ?


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