ルウラからの旅立ち
その日の夜。グレンの送別会と王宮就職が決まったフィルネの祝い、そして新人──ベロアの歓迎会も兼ねた飲み会がギルド隣の酒場で行われた。
グレンは人の多い場所が苦手だが、蓋を開けてみれば場の空気の殆どをベロアがかっさらっており。
主役であるはずのグレンとフィルネには、テーブルの端で二人っきりで食事を楽しみながら話しをするという、初めての機会が訪れていた。
「────でも、フィルネがナルシーさんの補佐に入るとは意外だったなぁ」
「正直迷ったわよ。でも、収入面で家族も楽になるし、何かあっても騎士団に所属してるから優先して助けてもらえるんだってさ。なんか私なんかには勿体ない話ね。でも、もうギルドに居ても誰かさんでストレス発散も出来ないし。丁度良かったのよ」
と、フィルネは笑いながら答えるが、その笑顔はどこか寂しそうにも見えた。
グレンだって彼女との想い出は比較的多い。
故に、別れを実感すると感慨深いものがあるのだ。
思わず自分がちょこちょこルウラに戻る事を伝えようか……とも考えたが。
それは〝転移魔法〟を使える事を口外するようなものなので控える。
そもそもルベリオン王国と、これから行くピュアル公国は友好関係にあり。
ピュアル公国で手に負えない面倒な事件や魔物などが出た時に、ルベリオンの騎士が手を貸す場面は普通にあるのでナルシーと共に行動する彼女には、何処かでバッタリも全然ある話だ。
「それより、ベロっちの事よ。あの若さで本部から送られて来るなんて、なんだか最初のキミみたいだよね。それとも本部は若い子は外に出す習慣なの?」
「いや。まあ、そんな感じかな……ハハハ」
と笑って誤魔化しつつも、グレンだってベロアの素性は知らない。
だが、自分がそうであったように彼もきっと何か理由があってギルドマスターに拾われたのだろうが。
ただ、精神年齢の低さを感じるので〝ソティラス〟である事を隠していられるかは心配な所だ。
特にフィルネは鋭いので直ぐに感付きかねない。
もしくは、ベロア自身がウッカリ暴露しても変じゃないのだが。
故にフィルネが辞めるタイミングでルウラに派遣されて来たのは良かったかもしれないと、グレンは考えていた。
そんなグレンの思いを読み取ったかのように、フィルネは唐突に「で、結局キミは何者なの?」と、悪戯に微笑んだ。
「なにって、普通の従業員だけど……」
「普通の従業員は、隠れて売れ残りの依頼なんてやらないと思うのだけど?」
「まあ、小遣い稼ぎというか、なんというか」
フィルネは笑っているが、おそらくグレンの返答が誤魔化しにすぎない事は見抜いているようにも思えた。
「まあいいわ。何者にしても私の方が王宮職で立場は上なんだから、何処かで会ったらちゃんと挨拶しなさいよね!」
「も、もちろんだよ。フィルネも、あまりナルシーさんを困らせないようにね」
「キミ、ここ最近私に言うようになったよね。オドオドしてる方が可愛かったかも……」
と軽い嫌味を言って笑うフィルネを見て、グレンも自然と笑顔が零れた。
だが彼女の言う通り、最近グレンは自分の性格が明るく変化している事に気付いていた。
それはフィルネに変えられた部分もあるだろうし、ルウラで起きた様々な事件や出会いが、自分を大きく成長させてくれたのだと思っている。
だからこそ、次の街でも上手くやっていけるだろうとグレンは確信しているのだ。
その後、相変わらずベロア中心に飲み会は続き。
最後は従業員達にグレンなりの精一杯の別れの言葉を述べて、会はお開きとなった。
従業員達が各々散って行く中で、フィルネは最後に少し照れくさそうにグレンに言う。
「じゃあ元気でね。ルウラに来る事があったら、絶対に私の所に顔を見せに来なさいよ」
「うん。フィルネも元気でね……」
フィルネはコクりと頷いて手を振った。
実際、転移魔法でルウラに来る事は多々あるだろうが。その時に〝グレンとして〟彼女と顔を合わせるかはまだ決めていない。
ただ彼女が再会を求めてくれた事は、出会った頃の彼女の態度から考えればグレンにとって本当に嬉しい事であった。
飲み会を終えたグレンは人のいない路地裏から〝転移〟して、己が自宅のように使わせてもらっていた森の屋敷へと戻った。
二年以上を過ごした屋敷の部屋を見回して、グレンは「よし! やるか……」と、気合いを入れる。
というのも、今日は朝までかけて屋敷の全てを綺麗にすると決めていたからだ。
グレンが初めて西方大陸に来た時に見付けた〝幽霊屋敷〟と呼ばれる廃墟。
少しづつ掃除したり直したりしてたが、これからベロアをここに住まわせようとグレンが思い付いたのは、本人とギルドの掲示板の前で話していた時だった。
ベロアは普通に宿を借りるつもりだったらしいのだが、街から離れたこの屋敷を使う方がグレンもベロアに会いやすいので、二人で話し合って決めていたのだ。
────そして旅立ちの朝を迎えた。
グレンは屋敷から出る前に、次に直ぐベロアが入れるようにと屋敷の〝魔力結界〟を解いておく。
後は、彼が新たに自分の結界を張るだろう。
そして屋敷を離れたグレンが、アリアの待つルウラの宿屋へと向かうと彼女は女将さんと最後の挨拶をしていた。
「────アリアちゃん。また是非遊びに来てちょうだいね」
「はい、女将さん。絶対にまた来ます!」
「うんうん。ほら、アリアちゃん。彼氏が来たみたいだよ……」
ニタニタ笑みを浮かべる女将に言われ、アリアは恥ずかしそうに「そうみたいですね」と女将に答えていた。
〝彼氏〟という言葉に照れくさくなったグレンは、逃げるように足早にその宿屋を出て、外で彼女を待つ事にした。
少し待ってると、宿屋から出てきたアリアが言う。
「おまたせ、グレンくん。さぁ先ずはどこを目指すの? まさか、ファジロードまで転移するとか言わないよね?」
「とりあえず転移は無理です。僕も初めて行く所なので……ある程度は転移で短縮は出来ますが……」
「転移は禁止ね! だって……今日からは、せっかくの二人旅なんだし」
そう呟くアリアの顔は耳まで真っ赤に染まっていて、その初々しさにグレンの胸は緊張で高鳴った。
「そ、そうですね。でも歩きだと結構日数かかると思いますよ?」
「急ぐの?」
「いえ、特に急げとは言われてないですね」
ファジロードまでは、幾つかの街や村を経由する事になるだろう。
その度に〝転移魔法〟でベロアの様子を見に戻る事は出来るので、そもそもファジロードへの到着を急ぐ必要はなかった。
「じゃあ、ファジロードに着くまでに私達の距離ももっと近付けたいな。これから先、私の事は〝アリア〟って呼び捨てにしてよ」
「さ、さすがに急には……」
「だめだよっ! 絶対に呼んでもらうんだから」
そう言ってアリアは、照れくさそうにグレンの少し先を歩き始めた。
グレンも彼女にはかなり慣れたつもりだった。
だが関係が変わると、また別の緊張が走るものなのだと知り。
それは顔を真っ赤にしているアリアを見て、〝彼女も同じなのだ〟とグレンは思った。
それならば……と、グレンは勇気を出して先を歩くアリアの手を掴まえる。
その手を握って「一緒に歩こう」と声をかけると、彼女は少しはにかんで、グレンに身体を預けて頷いた。
西方大陸に来た時はコミュ障で人と距離をおいていたグレンが、今は自らその距離を縮めようとしているのだから凄い成長だ。
斯くして、グレンはルウラ支店での任務を終え。
彼女──アリア・エルナードと共に新しい勤務地、ピュアル公国〝ファジロード〟へと向けて旅立つ。
かつて〝役立たず〟〝ゴミ箱〟と嘲笑われていたルウラ支店のギルド従業員──グレン・ターナーの物語は、ここで終わりとなる。
だが、グレンの人生はまだまだ続く。
冒険者ギルド本部が立ち上げた〝ソティラス〟という秘密組織で、最強と言われた少年がこれからどのような未来を造り上げていくのか。
それはやがて〝伝説〟として世界中に。そして勿論、ルウラの街にも届くだろう──────
これにて一旦完結とさせていただきます。
拙い文章で、読者ニーズも考えず書きたいように書いた作品でしたが。
ここまで読んで下さった読者の方々には心から感謝いたします。
本当にありがとうございましたm(_ _)m
とりあえず他にも勉強がてら書きたいものや挑戦したいジャンルもあるので。
また何処かで見かけた際は読んでくれると嬉しいです




