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フィルネの居場所


「は、はい? 私……ですか?」

「ああ、フィルネくん。キミを指名しているのだ」


 フィルネは途端に先ほどまでの毅然とした態度が消し飛び、動揺しているようだった。

 ちょうどそこに「こんにちは!」と、アリアが現れる。


 が、いつもとは違う雰囲気に「な、なに?」とグレンに耳打ちをする。

 すると、丁度ナルシーがフィルネに話の続きを始めた。


「僕は意外と仕事が多くてね。そこで事務も出来る補佐役が欲しいのだが、男だらけの職場でもあるし時には遠征もある。故に女性が続かなくてね……かといって男はみんな僕に緊張してしまうし……」


 確かにナルシー程の英雄を目の前にしたら、緊張もするだろう。

 グレンは意外と気にしないが、実際に彼の〝覇気〟というのはジッとしてても感じる。


 その点、フィルネは恐ろしく動じない。

 あのメンタルの強さは天性のものなのだろうし、仕事の手早さを見てても確かにナルシーが欲しがるのは自然である。


「グレンくんなら良かったのだが、キミは転勤するらしいじゃないか」


 と、付け足すナルシー。

 その言葉を聞いてアリアが驚いた。


「ぐ、グレンくん? どういう事?」

「言ってませんでしたね。実はギルド本部の決定で僕は別の支店に行く予定になってるんですよ」

「もう。そういう大事な事は早く言ってよ……、どこに行くか決まったら直ぐに教えてよ? もちろん、私も一緒に行くんだから!」


 と、当たり前のように答えるアリア。

 そんな彼女の言葉を聞いて、フィルネは目を丸くして驚いていたが。

 フッと笑みを浮かべると、ナルシーに答えた。


「そうですか。では、前向きに検討させてもらいます」

「良い返事を期待している。では、王国案件の方もよろしく頼んだ」


 そう言い残し、ナルシーは去っていった。

 ナルシーがギルドを出たのを確認するなり、アリアがフィルネに言う。


「まさかギルドの受付から、一気に王国騎士団長の補佐役になるなんて。凄い出世じゃない!」

「私はアリア様の行動力の方が驚きですよ。やっぱり凄いですよね……」

「そう? まあ、私は冒険者だし。何処にだって行けるからね」


 アリアは元々中央大陸出身なので、フットワークが軽いのはグレンも承知である。

 グレンが異動を伝えなかったのは、忘れていただけであり。言えば当然こうなる事は予想していたのだ。


 それより、フィルネの話しにグレンは驚いた。


 フィルネの家はあまり裕福とは言えない。

 グレンが昔に聞いた話では、彼女は六人家族で両親と父側の祖母、それに妹と弟がいる。


 両親は共働きで毎日殆ど家にいないというし、祖母も高齢なので働けない。

 生活は苦しく、少しでも両親の負担を減らす為にフィルネはギルドで働いた金の半分以上を家に入れているようだ。


 そんな彼女にとって、王宮での仕事は降ってきた幸運だ。

 もちろんナルシーについて回るとなると、ギルドのように一定の場所で働くだけではない。


 彼は外交もするし遠征もある。そういう所にも着いていかなければならないだろう。

 だが給料は〝倍以上〟になり、何よりも〝箔〟が付く。

 家族にお金を入れるだけでなく、家族達もフィルネを誇りに思う事だろう。


 ナルシーも、毎回ただ無駄にフィルネに話し掛けていたのではなく。

 彼女の仕事っぷりを見ていたのかもしれない。

 そう考えると、やはり目の付け所が違うなぁ……と、グレンは感心するのだが。


 アリアの見方は違うようだった。



 ギルドの営業時間が終わり、グレンが店を出るとアリアが手を振っていた。

 夕飯を一緒に食べる約束をしていたので、アリアの滞在する宿屋のレストランに向かう。


 カウンター席に二人で隣あって座ると。

 食事をしながら、アリアがギルドであった話をふってきた。

 開幕からワインをグイっと飲み干した彼女の話は、異動を伝えなかったグレンへの文句から始まったが。


 その後、話題はフィルネの話となった。


「私ね。ナルシーさんって、フィルネちゃんに気があるんじゃないかと思うんだよね」

「え!? そうなんですか? フィルネのあの悪態を見て、ナルシーさんもそんな事考えられますかね?」

「甘いわね。私はずっと思ってたのよ……」


 アリアは言う。

 ナルシー程の人間になると、自分にフランクに接してくれる人物が少なくなるのだと。

 

 気兼ねなく話かけてくれるフィルネの存在は、ナルシーにとって心地好いのではないか? とアリアは考えているようだった。

 

「だって、そうじゃなきゃ。わざわざフィルネちゃんに話し掛けないでしょ。他にも従業員はいるのよ?」

「そんなもんてすか? 意外とナルシーさんって、罵倒されるのが好きなのかも」


 酔って顔を赤くしたアリアが、目を細めてグレンを睨み付ける。

 慣れないジョークは通じなかったらしく、グレンが思わず視線を外すと。アリアはため息混じりに答えた。


「グレンくんってさぁ。本当に人の気持ちとかに鈍感だよねぇ。そりゃ、フィルネちゃんも苦労したわよね」

「どういう意味ですか?」

「もしフィルネちゃんが家族の縛りもない〝自由な冒険者〟だったら。きっと、ずっと私のライバルだったかもしれないわね」


 アリアのライバル……と聞いてグレンは考える。

 フィルネって実は戦えたのか?

 そんな素振りは全く見えなかったが、AAランクのアリアにライバル意識させるくらいなのだから、そういう事なのだろうとグレンは解釈する。


「アリアさんは凄いですね。やはり僕には、そもそも人を見る目が無いのかもしれません」

「まあ、グレンくんは人一倍鈍感だから。でも、そのお陰でキミが今の今まで誰の者にもならなかったのなら、私にはラッキーだったなぁ」


 そう言ってアリアはコトンとグレンに身体をあずける。

 あまりに近いアリアの髪から良い香りが漂ってくると、グレンの心臓は途端に激しく鼓動した。


「ねえ、グレンくん。今日はこのまま私の部屋に泊まれば?」


 かなり酔っているようなので、グレンは慌てて否定する。


「い、いや。遠慮しておきますよ」

「ふふ、こりゃ私も苦労しそうだな。フィルネちゃんとグレンくんってギルドでずっと一緒だったんだよね?」

「な、なんでまたフィルネさんの話? まあ、二年以上の付き合いになりますけど」

「羨ましいなぁ……。なんか私、フィルネちゃんの居場所奪っちゃったのかな……」

「何の話ですか?」


 グレンが聞き返すもアリアからの返事はない。

 その直後。

 スースーとアリアの寝息が聞こえてきて、彼女が酔い潰れた事を知ったグレンが二階の彼女の部屋に送り届ける事になった。



 アリアを送った後。

 グレンは再びフィルネとナルシーの事を考えてみた。

 アリアの言うように、ナルシーがフィルネに気があるかどうかはグレンにはわからないが。


 とりあえず、フィルネは無鉄砲で危ない所がある。

 今後ナルシーと共に働くのならば、ルウラを離れるグレンにとっても安心出来る話だとは思った。

 

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