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ルウラ魔道具技術大会


 フィルネを見送った後。

 夜で暗いという悪条件の中をアダマンサイホン狩りに出掛けたグレンだったが、非常に運が良かった。


 アダマンサイホンのいそうな場所を転々と〝転移〟して回ると。

 意外と直ぐに威勢のよいアダマンサイホンが見つかり、その新鮮なツノを得るのに差程の時間もかからなかったのだ。



 そしてその翌日。

 グレンがそのツノを持ってレビルの所に依頼達成報告に向かうと、彼は目を輝かせた。


「──これは立派なツノです! これなら良い物が作れますよ。支払いは来月からでよいでしょうか?」

「ああ、それなら。前の冒険者様がギルド報酬を返却してくれたので必要なくなりました。レビルさんには既に金五百をいただいてますから。これで依頼完了です」


 グレンからの意外な言葉にレビルの表情はフワッと緩む。

 そしてレビルは「そうですか!」と答えると、手に持ったツノを眺めて大会への闘士を燃やしていた。


「本当にありがとうございました。是非大会も見に来てください」

「ですね。〝ルウラ魔道具技術大会〟は、一年に一度のお祭りですし。見に行かせてもらいますよ」

「ええ、是非!」


 そしてグレンは店を後にした。

 実際、魔道具技術大会はグレンも楽しみにしている。

 大会では毎年、様々な新アイデアが誕生しており。それらの中には実用性を追及して世界中で一般的に広がった物も少なくない。


 レビルの店──〝ワーフ魔道具店〟からも過去に何品かメジャーになった道具が排出されているようだ。

 今年からは、代表職人がレビルになるが。彼の技術ならばきっと素晴らしい魔道具を生み出すだろうとグレンは期待していた。




 ────グレンがレビルに完了報告してから、僅か一週間後。

 いよいよ魔道具技術大会の開催日が訪れ、ルウラの中央広場には多くの人々が集まっていた。


 近くの村や街からも数件の魔道具店が露店を出しており、激安商品も多いので買い物の客で広場は大混雑している。


 そして、時刻が昼を過ぎた頃。

 いよいよ大会の司会者が、広場中央に作られた大きなステージの上に立った。


「さあ、今年の〝ルウラ魔道具技術大会〟の始まりだ! 各商店から代表の職人による商品紹介を聞いて、皆がスゴイと思ったり、欲しいと思った物の店に投票してくれよ!」


 司会者の言葉で周囲の客が盛り上がり、大会は開始された。


 大会では店の代表職人が一人づつステージに立ち。

 各自が作った魔道具を、実際に使用しながら説明していく形で行われる。


 大会に勝つ為にはそれなりに工夫が必要だ。

 例えばどんなに優れていても、その効果が理解しにくい物は客の反応も悪い。

 故に、こういう大会では〝派手さ〟を求めた作品が多くなる傾向があった。


 グレンが今見ていた〝魔法の踏み台〟と呼ばれる物は、その踏み台に乗って軽くジャンプすると。

 二回までなら、そのジャンプした高さまで踏み台が瞬時に〝伸びる〟という物だ。


 一見地味だが高い所の物を取りたい時などに便利そうだし、使用時のポンっと伸びるインパクトもなかなかで客からは歓声が上がっていた。

 浮遊魔法が無詠唱で使えるグレンには必要ないが、欲しくなった者も多いだろう。


 だが、踏み台の上でジャンプした後のバランスが難しそうで運動神経が必要そうだ。

 使う者を選ぶ道具ではある。


 と、まあ。

 正直言って大体の場合は〝惜しい〟魔道具が殆どである。ただ大事なのは、そのような魔道具を作れる技術がある事をアピールする事なので。

 完璧を求める大会では無いと思ってよいのだが。そんな中、一人の若い職人が歓声を浴びた。

 

 タナトス・ルーザー。

 〝ルーザーズ・マジックショップ〟の2代目であり、レビルの宿敵でもある青年だ。


 去年はレビルの父親に負けてはいるが、二位という成績を残しているだけに優勝候補である。

 そんな彼が作ったのは〝鉄壁のリング〟と呼ばれるアイテムだった。


 小さな指輪だが、その指輪の中に特殊な魔道回路が組み上げられており。

 使用者がそこに魔力を通すと、中に込められた防御魔法が発動する。


 単純に込められた魔法が発動するだけなのかと思ったが、その指輪の凄い所は一度使用しても、中の防御魔法が数回分は消えない事である。

 魔道回路が本人の魔力を増幅して、中に込められた魔法式を発動するらしいのだが。

 

 今後さらに研究していく事で、誰にでも様々な魔法を複数回使用出来る可能性を秘めていた。

 現在は単純な防御魔法の魔法式しか展開出来ないようだが、今後回復魔法などでも使えるようになったら大変貴重なアイテムとなるだろう。


 これは間違いなく世界的に注目されるアイテムとなると、グレンはもちろん、さすがのレビルも驚きを隠せないようだった。


 そして大歓声を浴びたタナトスの後で、昨年の優勝店である〝ワーフ魔道具店〟が満を持してラストで登場。

 レビルは、右手に変わった形の角笛を握り締めてステージに上がった。

 

「さあ、大歓声だったルーザーズ・マジックショップに続き。次はいよいよ昨年の優勝店、ワーフ魔道具店の登場だぁ!」


 司会者の紹介に客のボルテージは最高潮に達した。

 そして入れ替わるようにステージ上でスレ違うタナトスとレビル。

 タナトスはスレ違う瞬間にレビルに向かって勝ち誇った顔を向けた。


 〝これを超えれるものなら超えてみろ〟と、言わんばかりの感じだが、そんなタナトスの態度に臆すること失く、レビルは商品の説明を始めた。

 

「僕が作ったのは〝迷わずの角笛〟です。先ずはこの角笛の音を聞いてください」


 そしてレビルが角笛を吹くと、辺りには聞いた事のない不思議な音が響き渡った。

 その音はそこまで大きな音ではなかった。

 耳障りではなく、まるで自然の風音のように自分の周囲に身近に感じるのだ。


 しかしながら、この音は〝そこで〟鳴っている、というのが明確にわかる。

 吹いている者の場所が明確にわかる〝定位感〟があるのだ。

 

 その音色に客が全員静まり返ったのは、勿論白けたわけではない。

 その独特な音と不思議な定位感に言葉を失っていたのだろう事はグレンにもわかった。


 先ほどとは一変して、静まり返った場内でレビルが話を続ける。


「この角笛を吹くと。たとえこの西方大陸の端と端にいようとも、聞いた者は吹いた者が何処にいるかが瞬時にわかってしまう魔法の音が響き渡るのです。これさえ持っていれば森の中だろうと、洞窟の中だろうと、魔法の音色が使用者の位置を正確に示してくれる為、二度と迷子になる者は現れないでしょう」


 レビルは自信満々で言う。

 その後もレビルの説明は続き、多くの者がその〝角笛〟の不思議さに唸っていた。


 しかし正直、インパクトは〝角笛〟の音だけであり。その凄さをこの場で理解出来る者は少ないのではないか? と、グレンは感じていた。

 実際に盛り上がりだけでいったら、タナトスの時の方が周囲の歓声は凄かった。


「それでは、観客の皆さん。投票をお願い致します!」


 司会者の合図の後、客達は各々自分の心に刺さった出場者の所に赴き投票を開始した。

 

 

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