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【冒険者ギルドのお仕事】 ~冒険者からの売れ残りを片付けているのは〝役立たず〟〝ゴミ箱〟と嘲笑われる最強の従業員だった~  作者: 水城ゆき
第二章

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公国軍艦の攻撃

二隻の大型船を一定の距離を保って追跡し始めてから、優に一時間以上が経過している。

 当然ながら大型の帆船は、風を捉える帆の面積が絶対的に違うためトップスピードが速い。グレン達の小型船は徐々に引き離されており、水平線の先に二隻のシルエットを辛うじて捉え続けるのが精一杯だった。

 それにしても、先頭を逃げるあの海賊船は、明らかに操舵のベクトルが安定していない。

 乗組員の絶対数が不足しているのか、あるいは素人が操舵輪を握っているのか……グレンは不可解に感じていた。


 やがて、先行する大型船達との距離が急速に縮まりだした。

 グレンが風魔法の出力を上げているわけではないので、大型船側が意図的に速度を緩めたのだ。

 その急減速の原因は、おそらく西方大陸の方角に極小の点として見え始めた、別の船影が原因だと思われる。 

 それはまだ豆粒ほどの大きさにしか見えないが、進路からしてルベリオン王国の沿岸警備船である可能性が高く、それを警戒したのだろう。


 だが、海賊船が速度を落とせば、当然すぐ後ろに張り付いているマールーン公国の軍艦に追い付かれる。

 海賊船の横腹へ完全に追いついた軍艦は、並走しながらジワジワと速度を同調させた。

 海賊側が諦めて拿捕に応じるのか。

 間もなく二隻が横付けして停船すると思われたその直後、ズドォォォン! と、空気を物理的に震わせる大砲の破裂音が辺りに響き渡った。

 マールーン公国の軍艦が、海賊船へ砲撃を開始したのだ────


「……これ以上は近付かない方が良さそうですね」


 グレンは風の供給を切り、大型船から十分な安全距離を保って停船する。

 波に揺られながら戦況の様子を伺っていると、隣でフィルネが「よっこいしょ」と今更のように自分の旅行カバンの中からゴソゴソと軍用の双眼鏡を取り出し、大型船の方を覗き込み始めた。


「フィルネさん、そんな便利なアイテム持ってたんですか?」

「なに、二人とも手ぶらなの? アリア様って、一応は怪しい船の『調査』に来たんですよね? なのに双眼鏡の一つも持たずに海へ? やっぱりただ遊びに来ただけだったんですかぁ?」

「ち、違うもん! ちゃんと昨日買って用意してたけど、朝慌てて持ってくるの忘れちゃったのよ!」

「アリアさん……」


 これには流石のグレンも呆れて言葉を失った。

 調査名目で張り切って出発したのだから、当然アリアがその程度の必須装備は準備しているものとばかり思い込んでいたからだ。


「そんな事より、あの海賊船、一方的にボコボコに撃たれてるわね。何で一発も撃ち返さないのかしら?」と、フィルネが双眼鏡を覗き込みながら的確な疑問を呈する。

「弾薬が底をついたとか……?」と、アリアは適当な事を言うが、おそらくはそうではない、とグレンは演算する。


「やはり人員すら足りていないのかも。僕が見た感じ、操船の挙動がバタバタして素人くさかったですからね」


 そしてもう一つ、グレンの脳内では重要な論理的帰結が導き出されていた。

 それは、あの海賊船は『南方大陸の誘拐事件とは無関係』だという事である。

 もし仮にも〝水巫女〟という超重要VIPが人質として乗船しているなら、いくら公国の軍艦といえど、船ごと沈めるような無差別砲撃など撃てるはずがないからだ。


 やがて軍艦の砲撃がピタリと止まり、今度は移乗攻撃による白兵戦に切り替えたようで。

 軍艦の甲板から海賊船の甲板へと、何本もの接舷用の板が次々と渡された。


「もう、離れましょう。これ以上ここにいて巻き添えを食うのもバカバカしいですし」


 グレンは、武装した海兵達が雪崩れ込むように海賊船に乗り込んでいく様子を遠目に見ながら二人に告げる。

 しかし、双眼鏡で監視を続けていたフィルネが、突如として甲高い悲鳴を上げた。


「ああっ! 海賊が一人と……女の子!?」

「女の子? フィルネさん、ちょっと貸して!」


 グレンは咄嗟にフィルネの手から双眼鏡を引ったくり、ピントを合わせる。

 海賊船の後方デッキで、一人の男が数十人の海兵に完全に取り囲まれ、追い詰められている。

 その男の背中には、蒼い髪をした幼い少女が隠れるようにしがみついており、男は明らかにその少女を必死で庇っているように見えた。

 次の瞬間、パンッ! パンッ! と無数の乾いた破裂音が鳴り響いた。

 大砲ではなく、海軍の歩兵が好んで装備する近代兵器〝鉄砲マスケット〟の斉射音だ。


 海賊の男は少女を庇うように抱き抱えたまま、被弾の衝撃で二人共に船の縁を越え、後方の海面へと真っ逆さまに転落した。


「ちょっと、どうなったの!? 誰か海に落ちたみたいだけど!」

「グレンくん、私にも見せてよぉ!」


 隣で騒ぐアリアとフィルネの声を聞き流しながら、グレンは双眼鏡で海面を凝視するが、落ちた二人が浮かび上がってくる気配はない。

 すると、その船の縁から下を覗き込んでいた海兵達が、一斉に顔を上げ、こちら──グレン達の小型船──を明確に指差した。


「……これは、ちょっとヤバい展開になりそうです」


 グレンが直ぐに船を動かそうと、フィルネに双眼鏡を押し付けた瞬間。軍艦の甲板から、グレン達の小船目掛けて一斉にマスケット銃が火を噴いた。

 グレンが咄嗟に風の物理シールドを展開。飛来した鉛の弾丸は運動エネルギーを完全に殺され、グレン達の船の数メートル手前でことごとく「ポチャリ」と間抜けな音を立てて海面へ落下していく。


「ち、ちょっと、どういう事!? 何で海軍が一般人の私達を撃ってくるのよ!」

「もしかして、私達もあの海賊の仲間だと勘違いされたのかなぁ?」

「理由はわかりませんが、とにかく全速で逃げます」


 グレン個人の感情としては、海へ落ちたあの二人が気になったが。相手の海兵達は、次弾装填の構えを見せており、そんな人道的な隙を与えてくれそうにない。

 アリアやフィルネを死守するのが最優先だと判断し、直ちに船を風に乗せようとするが。軍艦の上から無数の鉛の弾が雨霰と降り注ぎ、グレンはシールドの維持に徹するしかなかった。


「ちょっと本当にアイツら何なの!? こっちは丸腰の一般人よ? 少し頭おかしいんじゃないの!?」

「フィルネさん、怒る気持ちはわかりますが、先ずは風魔法で船の加速を補助してくれないかな!?」

「私が!? 魔法なら聖女のアリア様の方が得意でしょ……!」 

「アリアさんは光魔法特化型だから、風の操作は専門外なんだ!」

「ごめんね。光のシールド魔法で防御支援が出来たらいいんだけど、光魔法は魔法とかには強いけど、物理的な攻撃(鉛玉)にはすっごく弱くて……」


 申し訳なさそうに身を縮めるアリアに対し、銃撃の恐怖に晒されている状況だというのに、フィルネの顔に途端に勝ち誇ったような謎の笑みが浮かぶ。


「へえぇ。まあ、最強の冒険者であるアリア様が〝出来ない〟なら、受付嬢の私がやるしかないわね」

「なによ。別に私だって、全く出来ないわけじゃないんだけど!? ちょっと苦手なだけよ!」

「はいはい、言い訳は結構です。とりあえず有能な私に任せてくださいね! 『吹けや吹けや導きの風よ!』────」

 

 フィルネの使う初歩の風魔法により船の帆が風を孕み、ジワジワと加速し始めたが、相手の軍艦も当然こちらを追うように動き出している。

 少しでも早くトップスピードに乗せて、射程外まで距離を離したい。

 速度が乗ってくると、結局は帆の面積が大きい大型船の方が最高速度は速いのだから。

 

やがて距離が遠くなると、海兵達の鬱陶しい銃撃の雨はおさまった。

 グレンは即座に防御から移動用の風魔法へと切り替え、爆発的な推進力を生み出すが、軍艦の方も確実に速度を乗せて追従してきている。

 (このまま逃げ続けても、速度差で何処かで確実に射程内に捕捉される……)

 後は、西方大陸の方角に見える豆粒のような船影が、ルベリオン王国の正規軍艦である事を願い、そこまで逃げ切るしかなかった。


 まさに、マールーン公国の巨大な軍艦とグレン達の小舟による、絶望的な追いかけっこが始まるかと思われたその時。

 軍艦は、どういう風の吹き回しか、意外と早めにグレン達の追跡を諦め、進路を変えて去っていった。

 一旦はホッと胸を撫で下ろした三人だったが。やはり、自国の領海近くで一般人を無差別に攻撃してきた他国の軍艦の異常行動は、王国海軍に報告すべきだろうと。

グレン達は最短ルートでマリンルーズの港へと舵を切り、帰還を急いだ────。

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