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公国軍艦の攻撃


 二隻の大型船を追ってから一時間以上が経つ。

 大型船は両方とも速度が出るので、グレン達の船は徐々に離されており。

 二隻を視界に捉えるのが精一杯だった。


 それにしても、先頭の海賊船は明らかに操船が安定していない。

 乗組員が少ないか、未熟な者が操作しているのか……どちらかだろう。



 やがて大型船達との距離が縮まりだした。

 グレン達の船は速度を変えてないので、大型船が速度を緩めたようだ。


 その原因は、おそらく西方大陸の方に見える船が原因だと思われる。 

 それはまだ豆粒のような大きさにしか見えないが、ルベリオン王国の軍艦の可能性を警戒したのだろう。


 だが、当然マールーン公国の軍艦に追い付かれる。

 海賊船に追い付いた軍艦は、並走しながら徐々に速度を落とした。


 海賊側が諦めたのか。

 間もなく二隻が停船すると思われた頃、突然大きな爆発音が辺りに響き渡った。


 軍艦が海賊船を撃ったのだ────



「これ以上は、近付かない方が良さそうですね」


 グレンは大型船から距離を取り停船する。

 様子を伺っていると、フィルネが今更のように自分のカバンの中からゴソゴソと双眼鏡を取り出して大型船の方を覗いた。


「フィルネ、そんなの持ってたんだ?」

「なに、二人は持ってないの? アリア様って海域を調査に来たんですよね? やっぱり遊びに来てたんですか?」

「ち、違うもん。用意してたけど、持ってくるの忘れたのよ」

「アリアさん……」


 これにはグレンも言葉を失った。

 調査名目で来てるのだから、アリアは持ってるものだと思っていたからだ。


「そんな事より、海賊船が一方的に撃たれてるわね。何で撃ち返さないのかしら?」と、フィルネが望遠鏡を見ながら疑問を呈する。


「弾が無いとか……?」と、アリアは言うが、おそらくはそうではない、とグレンは考える。


「やはり船員が少ないのかも。僕が見た感じ、操船がバタバタしてたし」


 もう一つ、グレンは予想している。

 それは、あの海賊船は南方大陸の事件とは無関係だという事である。

 もし〝水巫女〟が人質にされているなら、公国の軍艦もむやみに撃ったり出来ないだろうからだ。


 軍艦の砲撃が止まり、今度は白兵戦に切り替えたようで。

 軍艦の方から海賊船の方へと、人が歩ける程の幅の板が渡された。


「もう、離れよう。これ以上ここにいても危ないし」


 グレンは、海兵達が海賊船に乗り込んでいく様子を見ながら二人に告げる。

 しかし、望遠鏡で見ているフィルネが叫んだ。


「あ、海賊! と……女の子?」

「女の子? フィルネ、ちょっと貸して」


 グレンは咄嗟にフィルネの双眼鏡を借りて覗く。

 海賊船の後方デッキで、一人の海賊らしき者が追い詰められている。

 その傍らには青い髪の少女がおり、海賊は少女を庇っているように見える。


 次の瞬間、沢山の破裂音が鳴った。

 大砲ではなく、おそらくは海軍が好んで使う〝鉄砲〟と呼ばれる武器だと思われるが。


 海賊は少女を庇うようにして、二人共に船の後部から海面へと落ちた。


「ちょっとどうなったの? 誰か海に落ちたみたいだけど」

「グレンくん、私にも見せてよぉ」


 騒ぐアリアとフィルネを無視するように、グレンは海面を見るが落ちた二人は浮かんでこない。

 すると、船の上から海軍が何人も顔を出してグレン達を指差していた。


「これは、ちょっとヤバそうだな」


 グレンが、直ぐに船を動かそうとフィルネに望遠鏡を渡した瞬間。

 船の上からグレン達目掛けて鉄砲が撃たれた。


 グレンが咄嗟に魔法のシールドを展開して、鉛の弾はグレン達の船の手前でことごとく海面に落とされていく。



「ちょっと、どういう事? 何で海軍が私達を撃ってくるのよ!」

「私達も仲間だと思われたのかなぁ?」

「わかりません。とにかく逃げます」


 グレン的には、海に落ちた二人を探したかったが。相手はそんな暇を与えてくれそうにない。


 アリアやフィルネを守るのが先決だと船を風に乗せるが、海賊船の上から無数の小さな鉛の弾がいつまでも降り注ぎ。

 グレンは防御魔法に徹するしかなかった。


「ちよっと本当にアイツら何なの! こっちは一般人よ? 少し頭おかしいんじゃないの?」

「フィルネ、気持ちはわかるけど、先ずは風魔法で船の移動を補助してくれないかな?」

「私が? 魔法ならアリア様のほうが……」 

「アリアさんは光魔法特化型だから、風魔法は得意じゃないんだ」

「ごめんね。シールドの方で支援出来たらいいんだけど、光のシールド魔法じゃ物理攻撃に弱いから……」


 申し訳なさそうな顔をするアリアに、フィルネが途端に勝ち誇ったような顔を見せる。


「へえぇ。まあ、アリア様が〝出来ない〟なら仕方ないわね」

「なによ。別に私だって、出来ないわけじゃないんだけど? 苦手なだけよ」

「はいはい、とりあえず私に任せてくださいね。吹吹けや吹けや導きの風────」

 

 フィルネの風魔法で船は加速し始めたが、軍艦も動き出している。

 加速で出来るだけ距離を離したい。

 速度が乗ってくると、帆が大きい船の方がトップスピードは速いからだ。

 

 幸い海軍達は軍艦に戻ったようで銃撃はおさまった。

 直ぐにグレンの風魔法を移動に回すが、軍艦の方も速度が乗ってきている。


 このまま逃げ続けても何処かで追い付かれるだろう。

 後は西方大陸の方に見える豆粒の船が、ルベリオン王国の軍艦である事を願うまでだ。



 こうしてマールーン公国の軍艦とグレン達で追いかけっこが始まるかと思われたのだが。

 軍艦は意外と早めに追跡を諦めたようだ。


 一旦はホッとしたが。

 やはり攻撃してきた公国の行動は、海軍に伝えるべきだろうと、グレン達は直ぐにマリンルーズへと戻る事にした────


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