蒼髪の少女
バルドロフの首もとに当てたシミタ-を、小刻みに動かしながら「ほれほれ」と煽りつつ。他の海賊達にビリディは命令する。
「よーし、お前ら。全員、武器を置いて海へ飛び込め」
船長を人質にされては、さすがに言う事を聞くしかないので他の海賊達は次々と海面へ身を投じた。
「くそっ、ふざけんな」
「覚えてろよ、てめえ!」
「お、俺は泳げねーんだよぉ」
各々が捨て台詞を吐きながら、船のへりから飛び降りる。
なかなか飛ばない奴は、ロゴスがオールで尻をぶっ叩いて落とした。
「お前らには、その豆粒みたいな船やるから。まぁ、半分は泳ぐ事になるだろうけど、心配はいらねぇよ。その船もどうせ陸まで持たないだろうから。近くを誰かが通る事を祈るんだな。もっとも、海賊を乗せてくれる船があればだけど……」
全員が飛び降りたのを見届けたビリディは、最後にバルドロフを船の縁に連れて行き、海へ落とす寸前で一旦止めて訊ねる。
「ほら、後はお前だ。何か言いたい事はあるか?」
「お、お前、この船を襲った事を後悔するぞ!」
「あー、はいはい。じゃあお前は、この船の船長だった事を後悔しながら、残りの航海はボロ船で楽しんでこい……あばよっ」
と、バルドロフの尻を蹴飛ばし海へ落とした。
海面に浮かぶ小型帆船に群がる海賊達に大きく手を振って別れを告げる。
そして、船室等を確認していたロゴスに言う。
「よし、ロゴス。船に異常は無いか? なら、船を風に乗せるぞ。このまま西方大陸だ!」
「ざっと見た所、問題はありませんが。何人か残した方が良かったんじゃないですかね。二人でこの船動かすのは大変ですよ」
「大丈夫、大丈夫。何とかなるって。あいつら乗せてたら何しでかすかわかんねーからな」
相変わらず楽観的なビリディに、ロゴスはため息を吐きながらもテキパキと出発の準備を始めた。
ビリディもそれを手伝い、海面でバタバタする海賊達と小型船を残してビリディ達の〝新たな船〟は、ゆっくりと海上を進み出した。
風に乗り順調に移動する大型船だったが二時間程移動した所でビリディ達は一旦、船を止めた。
貨物室や食料庫のチェックと待ちに待った食事を摂るための停船だ。
何せ二人しかいないので、大型船を走らせながら船室に入るのは危ない。
デッキを降りると船内はかなり広い。
制圧後に、ざっと海賊が残っていないかはチェックしていたのだが。
積み荷は調べていなかった。
ビリディはとりあえず、食料庫にあったパンを噛りながらロゴスと二人で積み荷を調べていたのだが。
驚く事にこの船には、大量の財宝と武器が乗っていた。
「おい、こいつはスゲェな。どうりで全員が鉄砲なんて高価な代物を持ってたわけだ。しかも、この財宝。この船、一体何処から来たんだろうな」
「若、これは面倒な船を奪っちまった可能性がありますよ」
確かに、普通の海賊船の積み荷ではなかった。
財宝もそうだが武器の量が異常で、まるで戦争でもするかのようだ。
だが、ビリディには関係ない。
大量のお宝に目を輝かせて興奮気味に漁り続ける、すると突然横でロゴスが「うわぁぁ!」と絶叫した。
ロゴスの前には、大人二、三人が楽に入れる程の一際大きな木箱がある。
「どうした?」
「これ、魔力結界がかかってます。気付かなかったら、危うく腕を無くす所でしたよ」
「ほう、では魔力無しの俺の出番だな」
冷や汗を流すロゴスを横目に、ビリディはアッサリと木箱の留金具を外した。
魔力結界は、その結界に触れた者の体内に流れる些細な魔力をも暴発させる〝罠〟の一種だが。
ビリディには生まれつき魔力が無い。
その代わり、肉体的にあらゆる面で優れていたりするのだが。
とにかく。魔力が無いという事は、魔力結界も当然働かないという事である。
ビリディはアッサリと蓋を開いて中を覗いた。
そして、思わず絶句したのだ。
箱の中には大量の水と食料、そして────
〝少女〟が入っていた。
少女は夏の空の様な〝蒼色〟をした少しクセのある長い髪と、どの大陸の人種にも見ない〝金色の瞳〟を持っている。
年齢は十代前半くらいだろうか。
その少女は、箱の上から覗いているビリディを虚ろな目で見上げていたのだ。
服装はいたって普通の白っぽいワンピースのようだが、首のペンダントがその存在感を主張してきた。
キラキラと宝飾がちりばめられ、一見大きめの豪華なメダルだが。
それに刻まれていたのは、南方大陸を統べる国──【セルシアクベイルート聖王国】の紋章に間違いなかった。
「おいおい、嘘だろ?」と、ビリディは己のひたいを押さえる。
それを見てロゴスも、何事か? と覗き込んで言葉を失っていた。
南方大陸の〝セルシアクベイルート聖王国〟は大昔、セルシート、アクア、ベイサイド、ルートリア、という別々の国だった。
それが二百年程前、一つの国となった。
その背景には、当時の南方大陸で数十年間続いた〝大干ばつ〟がある。
大地は枯れ、水と食料は減り続け。やがて四つの国はどんどん人口を落としていった。
しかし、ある日。ルートリアの一人の女性が、不思議な力で南方大陸全土に恵みの雨を降らせたのだ。
それから人々は彼女を〝神〟のように崇め〝恵みの聖女〟と呼んだ。
その後、生き残った者達が寄り添い四つの国を一つの王国として再建。
その頂点に〝恵みの聖女〟が、王女として座した事で、今のセルシアクベイルート聖王国が誕生した。
その聖女の一族。
つまり聖王国の王族だけが持つのが、目の前の小汚い少女が身に付けている紋章を刻んだメダルなのだ。
「若。どうします?」
「青髪といい、聖王国の紋章といい、間違いねぇだろ。こいつは、とんだ〝外れクジ〟を引いたな」
「とりあえず聖王国に連れて行ったら……」
ビリディは今になって理解した。
バルドロフが『この船を襲った事を後悔するぞ』と言ってた意味が。
「バカ言うな……こんな船で行ったら大変だ。それに俺たちは悪名高き〝シャトルファング盗賊団〟だぞ」
つまり、上陸してから〝信用出来る〟誰かに、彼女を託すしかないという事なのだ。
もっとも、指名手配されているビリディを信用してくれる者がいれば、の話だが────




