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【冒険者ギルドのお仕事】 ~冒険者からの売れ残りを片付けているのは〝役立たず〟〝ゴミ箱〟と嘲笑われる最強の従業員だった~  作者: 水城ゆき
第一章

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イレギュラー

一般的に言って、ゴブリン討伐という仕事は「チョロい仕事」と言われる。

 最低ランクである『D』ランク冒険者なら鼻歌交じりに完遂できるし、戦闘に慣れていない『E』ランクでさえ、油断しなければどうにかなる。それゆえ『討伐系依頼』の対価としては、あまりにも安い。


 ただ、アリアの記憶にこびりついていたその依頼書『ベイナント渓谷のゴブリン討伐』には、忌々しい【再】の印が三つも押されていた事も知っている。

 その印は達成不可能による放棄、あるいは受領者の失踪など、理由はともかく三度投げ出された依頼という証明でもあり、もはやギルドの掲示板における「不名誉なシミ」のような存在だ。

 

 それでも報酬は安い。アリアのような高ランク冒険者がわざわざ拾い上げる理由など全くない。

王都ルウラという街の「利点」は、そんな安仕事に構わなくても、他にいくらでも高額な依頼が転がっていることにあるのだから。

 ゆえに、その依頼書に手を伸ばすのは世間知らずの新人か、あるいは正真正銘の暇人くらいのものだろう。


 しかし、例外は存在する。

 「ついで」という名の拾い上げだ。

 別の仕事で近くを通りかかった際、寄り道程度の気軽さで依頼を達成し、事後報告で小銭を稼ぐ。つまり、アリアにとっては別依頼の途中で道端に落ちている硬貨を拾う程度の、あまりに軽い動機だった。

 その慢心で挑んだゴブリン退治、それが彼女を死の淵まで追いつめたのだから全く笑えない話である。


 ところが。

 アリア・エルナードという女は、やはり神に愛されていたらしい。

 すぐ背後、よしかかる岩のすぐ後ろにいた「死」が、奇跡的に遠ざかっていくのを感じた。

 アリアが岩陰から、恐る恐るその「奇跡」の理由を確認すると、視界に入ったのは遠くからゴブリンに向かって歩いていく一人の男の姿。

 長身だが、驚くほどに細い。ヒョロリとしたその体躯は、武骨な戦士というよりは風が吹けば折れそうな頼りない若木のように見えた。


身体能力など期待するだけ無駄だろう。あれが冒険者なら、間違いなく後方で呪文を唱える魔術師タイプだ。アリアは半ば絶望し、ため息を漏らす。

 自分のようなAAランクでさえ詠唱の時間を与えられなかったのだ。その者が長く持つはずがない────と、思った次の瞬間、世界の理が書き換わった。


 コトン、と。

 乾いた音を立てて、ゴブリンの首が地面に落ちた。

 先ほどまでアリアを絶望させていた「規格外の緑」は、何が起きたのかを理解する暇もなく、ただの「頭部のない肉塊」へと成り果て、地面に崩れ落ちたのだ。

 一瞬。まさに瞬きすら許さない刹那の出来事。

 「長くは持たない」というアリアの予想は当たっていた。ただ、持たなかったのは男の方ではなく、ゴブリンの命だった。

 

 それよりも、その男は奇妙だった。

 討伐の証拠となる部位を回収するでもなく、まるで散歩の途中で邪魔な小石を避けただけのような足取りで、来た道を引き返したのだ。

 報酬への執着も感じられない、圧倒的な無関心。アリアは辛うじてその男の横顔を視界に捉えた。

 自分と同年代だろう。特徴は栗色のミディアムヘア。どこにでもいる、まさに「背景」のような男。

 だが、記憶の断片が激しく明滅する。どこかで見た。あの、やる気のなさそうな、それでいて見覚えのある地味な輪郭。


 (……ギルドの店員、だったかしら?)


 確証はない。思考がまとまる前に男の姿は忽然と霧のように消えていた。

 アリアは必死に男の背中を追ったが、その後何時間と歩き続け、王都ルウラの城門をくぐっても、一度として彼の背中を捉えることはできなかった。

 

 夜の帳が降りたギルドは、閉店間際であっても活気に満ちている。

 アリアは真っ先に掲示板へ向かった。例の「依頼書」を確かめるために。

 しかし────


「あの依頼書ないじゃん!」


 思わず叫ぶ。誰かが持ち去った。あるいは誰かが「完了」させたのか。

 次にアリアの視線は獲物を探す獣のようにギルド内を彷徨い、ある一人の人物を捉えた。

 制服を纏った、長身細身の店員。栗色の髪。あのベイナント渓谷で、死神を屠った男の面影と一致する者。


──見つけた!間違いない、彼だ。


 アリアは迷わず踏み出した。

 その男こそが、この冒険者ギルド、ルウラ支店において「無能」のレッテルを貼られて他の冒険者から、そして従業員達からすら呆れられている、ギルド一の『役立たず』であることなど知るよしもなく。

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