食い違う二人
人の居そうな場所を避け、グレンは王都ルウラから少し離れた場所にアリアと共に転移していた。
横にはシッカリ荷車がある。
それはアリアがチャッカリ荷車を持ち帰る事をグレンに提案してきたからだ。
実際、彼女が持ち帰る分には何も問題ない。
日数的にも依頼をこなして帰って来る頃合いなのだから。
もし、納得出来ない人間がいるとしたら、それはアリアの言う〝黒幕〟の三人だけだろう。
夜明け前のルウラへの街道を歩くグレンとアリアの向かい側から五、六人ほど誰かが歩いて来る。
それが捜索隊だと気付いたのは、その中に『ヴァルハラ』がいたからだ。
すぐにグレンの横からアリアが飛び出す。
ヴァルハラのリーダー、レオンの前に立ちはだかったアリアは、溜まりに溜まってたらしき怒りを吐き出した。
「よくも私を売ってくれたわね!」
「アリアちゃん? 無事だったのか! 盗賊団に捕まっているのかと……」
レオンはアリアの顔を何度も確認しつつも、その瞳の奥には驚きと気まずさを同居させているように見える。
それもそのはずだ。
グレンが聞いた話では、アリアは元々ドラゴンになど襲われていなかったのだから。
グレンが聞いた話では、アリア達が遺跡に到着したのは夜中だったらしく。一旦全員で朝まで一眠りする事になったという。
ところが次に起きた時。アリア一人だけが手足を縛られ盗賊達に捕らえられていたのだという。
盗賊同士が話してた『アイツのおかげで上手くいったな』という言葉を聞いて、アリアはレオン達ヴァルハラに嵌められた事に気付いたという。
レオンに向かって怒りをぶつけるアリアだが、レオンも黙ってはいなかった。
「違うぞアリアちゃん、売るってなんだよ。そりゃあ確かに、アリアちゃんを置いて逃げたのは悪かったけどさ。俺達も仕方なかったんだよ! わかるだろ?」
「あなた達、ギルドにはドラゴンに襲われたって報告したんでしょ! その事が既に嘘付いてる証拠よ」
捜索隊の他の冒険者は状況が飲み込めず、どちらの味方になればよいのかと戸惑っているし。
コミュ障のグレンもこの手の言い争いに割り込める勇気はないので、とりあえず脳内で二人の話を纏めていた。
「そ、それは違う。ドラゴンって言った方が捜索隊を結成してもらいやすいだろ? 少しでも早くアリアちゃんを助けようと思っただけだぜ」
レオンの切り返しは上手い。
彼が開口一番で〝盗賊団に……〟と当事者しか知らないだろう事を口にした時は、完全な〝黒〟に見えたのだが。
それを帳消しにする程、レオンの言い分に隙がない。
この世界において人間を攻撃するには、例外を除き基本的に正当な理由の基に国へ許可を取る必要がある。
対して相手が魔物の場合、国の許可など不要なのでレスポンス良く動けるのだ。
盗賊団は悪なので例外には入るだろうが、それでも人間を相手にするのは冒険者にとってリスキーだ。
魔物と違い知恵があり、数で連携もする。
もし勝ったとしても相手を悪と証明出来なければ、逆に法で裁かれる可能性もあるのだから。
つまり捜索隊を集めるなら、盗賊団の事を説明するより、魔物による危険性を理由にした方が集まりやすい。
とはいえ、アリアが嘘を言ってるとも思えない。
この状況で両者を冷静にさせる話術があれば良いが、話下手なグレンにはヒートアップするアリアとレオンを見ている事しか出来なかった。
「あなた達、絶対に王国騎士団に突き出してやるから」
「いい加減に俺達の話も聞けよ!」
「私には切り札があるの。盗賊団を全員拘束してるんだからね」
「な、嘘だろ? それなら後日、騎士団に話を通して法の基で盗賊に話を聞こうじゃないか!」
「あなた達、そんな事言って今から盗賊団を逃がしに行くつもりでしょ」
「そんなバカな。じゃあ、明日まで俺達と行動を共にすればいいぜ。俺達はこうしてキミを救いに行く為に捜索隊を動かしたが、本人が戻って来たなら急ぐ必要もない」
一旦、両者の話し合いは休戦となった。
グレン的には、レオンがこの条件を受け入れたのは意外だった。
しかし、アリアがグレンに助けられた事を言わないよう口裏を合わせているように。ベーチャもレオンとの間に関係があっても言わない可能性はあるわけだ。
────翌日の昼になり。ギルドの店内は騒然としていた。
アリアとレオンの食い違いは既に街中に拡がっており、王城からは騎士が数名訪れていた。
シャトルファングの幹部、ベーチャも遺跡付近で拘束されているという話が、普段腰の重い王国側を直ぐに動かしたようだ。
丸一日かけてアリアとレオン、そして国を交えて話し合いがおこなわれた結果。騎士団十名が遺跡まで馬を走らせ、そこにアリアとレオンが同行する事となった。
出発は明朝六時で、現状ではアリアとレオン両者共に何の根拠も証拠もないとされている。
こうして数日の間、この騒動の結末を予想する冒険者達でギルド内はいつになく騒々しさを増していった────




