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ロデュオゾロ

 一番最後に出勤して来たのは、ロデュオゾロだ。彼は目の下に薄っすらと影をつくり、大あくびをしながら次元を越えて来た。エルフ族は男も女も髪を伸ばしている者が多いのだが、彼はかなりの短髪だった。毛先がツンツン立つほど短い。シャルと同じかそれ以上に背が高く、体つきもエルフ族にしては筋肉質である。ただし筋肉質と言っても、エルフという種族の性質的に、なれるのは精々細マッチョ程度なのだが。


「ロロ、おはよう」

「はよーッス……うん? なんか、チビが増えてんな」


 ロデュオゾロ――ロロは、シャルに挨拶を返した後、ふとトリスと並ぶアズを見て不思議そうに首を傾げた。


「ちょっと、ロデュオゾロ先輩! チビは辞めてくださいって、いつもお願いしているじゃないですか! モラルハラスメントですよ!」

「……名前、なんだっけか?」

「キィーッ! 九十年も経つのに! ルルトリシアです!」


 今にもハンカチの端を噛みしめそうなトリスに、ロロは「名前がクソ長ぇんだよな……リーダー以外は愛称呼び禁止とか、うぜぇこと言うし」と独りごちた。すぐさまトリスが「ご自分の方が、ややこしくて言いにくいお名前でしょう!」とツッコんだが、彼は肩を竦めただけだった。


「ロデュオゾロ先輩、今日からよろしくお願いします! 新人で、ルルトリシアの双子の兄アザレオルルです! アズって呼んでください!」

「おー……おーおー、なんか情報量が多いが、とりあえずアズ。新人。理解した」


 ロロは言いながら再び大あくびをして、目尻に涙を溜めている。その様子を見たダニエラが「あらあら」と笑みを漏らした。


「も~、また夜更かしぃ~?」

「夜更かしっつーか……まあ、俺らに朝も夜も関係ねえ気がしますけど。倉庫ん中のモノが減ると、落ち着かねえんスよ……リーダー仕事はできるのに、在庫管理だけは杜撰(ずさん)だし」

「ロロが備品の管理に一番向いてるから、任せた方が効率が良い。適材適所だ」

「……はあ、まあ、それはそうッスね」


 ロロはどこか照れくさそうにして、指先で鼻の下を擦った。「収納」の異次元空間は時が進む。生鮮品は腐敗するし、草花は水をやらねば、瞬く間に枯れる。道具だって使わないまま放置していれば、傷(いた)んでダメになってしまう。

 仕事に使うものは清掃チームごとの共有財産として管理することが多く、大体どこにでも一人は倉庫番が居る。倉庫番に選ばれるのは、管理能力が高く責任感の強い者。そして、体力と健康に自信のある者だけだ。

 ダンジョン内で使う備品全てを揃えた倉庫番が遅刻、または体調を崩した場合、その日の仕事は大変なことになってしまう。そもそも在庫の管理ができなければ、有事の際に原状回復が難しくなる。

 その点、ロロは倉庫番として素晴らしかった。ダンジョン時間で言えば約五年、世界時間で言えば約千年も無遅刻無欠席が続いているのだから、大したものだ。

 彼がいつも遅刻ギリギリで眠たそうにしているのは、昼夜問わず備品の補充に奔走しているからである。掃除に使う洗剤や道具から始まり、塗装関係、ダンジョン内で使う魔法アイテム、エリアに植え直す薬草、湖に放つ魚、モンスター関連の素材や宝箱の中身まで。


 もちろん、シャルもダニエラもトリスも、必要最低限の備品や私物の道具は己の「収納」に保有している。しかし、誰もロロの品揃えには敵わないだろう。正に痒い所に手が届くエルフだ。クレアシオンに配属されて間もない頃はどうしようもない落ちこぼれの不良(ヤンキー)であったが、今ではすっかり更生してしまった。


「初日だし、新人はリーダーが面倒見るんスよね? 俺、先にチビとエリア行って夜勤から引継ぎ受けときましょうか」


 トリスが「またチビって言う」と膨れっ面になれば、ロロは「チビシア」と妙な愛称で呼んだ。


「助かる、ロロは気が利くな。ウチ唯一の良心と言っても過言ではない」

「……おだててもなんも出ねえし」


 ロロはコホンと咳払いすると、おもむろに「収納」の異空間からココアと書かれた缶を取り出した。それをシャルに投げ渡したかと思えば、トリスの腕を引き、さっさとダンジョンの奥へ歩いて行ってしまう。一連の流れを目にしたアズが「おだてたら、なんか出た……」と呟いた。


「ロロちゃん、すっかり丸くなったよねぇ。最初はこれでもかと尖がってたのに~」

「根は良いヤツなんだろう。ココアも、いつも僕の好む銘柄を選んで用意してくれるからな……周りをよく見ているし、僕の後継者にはロロを推薦したい」

「あ~、またそんなこと言って~。夜勤のリーダーさんの耳に入ったら、ロロちゃん今よりもっと嫌われちゃうんだからぁ~」

「嫌われるのが怖くて、管理者が務まるか」


 目を細めて悪戯っぽく笑うダニエラに、シャルはため息を吐き出した。そうして気を取り直したようにアズを見やると、「ついて来い」と言ってダンジョンの外へ歩き出す。


「――さて。早速だが、ウチのやり方を覚えてもらおうか」

「はい! よろしくお願いします! ……て言っても、ダンジョンによって仕事内容って変わりますっけ? 自分ここが十四か所目のダンジョンですけど、今までどれも似たような研修でしたよ」

「ここは、新米冒険者が多――いや、新米冒険者し(・)か(・)来ないダンジョンだぞ。他と一緒くたにされるのは困る」


 シャルのその言葉に、アズはいまいちピンと来ていないようだった。

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