積みあがる難題
「大事なことだ。ツァィの≪兄を止めたい≫という”願い”。≪止めた≫後の生死は問わないのか?」
”願い”を叶えるのは簡単だ。
わざわざ”媒介”、神の【神技】に頼らなくても、警察などの組織に通報すれば良いのだから。
「悪行を。同胞達のためとはいえ、他人様を殺害した兄達。許されることだとは思いませんが。それでも家族なんです。……生きていて欲しい。一生、牢の中でも、2度と会えなくても。≪正しく、生きていて欲しい≫」
家族、身内が悪行を犯したとはいえ、死んでほしくはない。
俺の兄弟姉妹たちが、同じような罪を犯したのなら止めるし、ツァィのように何が何でも生きていて欲しいと行動するだろう。
「≪正しく、生きて欲しい≫。その真なる”願い”。この命に代えても、叶えてみせよう!」
一度は無くした命を誰かの為に、悔いの無い”正義の味方”の為に使うと決めたのだ。
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「では、話してもらおうか。アジトの場所も、そうだが。人を殺すという悪行を犯した時でさえ、兄達を裏切ろうと思わなかった。今になって裏切ろうと思った経緯を」
悪徳な人間を殺したとはいえ悪行を犯した兄達を裏切らなかったのだ。
今回、裏切ったのは決定的な何かが有ったはずなのだ。
「何処から発覚、聞きつけたのかは分かりません。兄達に近づき、手助けをしてくれた者が居ました。何処の誰だかは分かりません。私達を助けると言うより、他に思惑が有ったのだと思います」
蛇の道は蛇。
悪行を繰り返せば、更なる蛇に嗅ぎつけられるのは必然。
「その者から言われたのです。帝都から金目で重要なモノが運ばれてくると。その日程、道筋を事細かに教えられました」
古来より蛇は人に甘い毒を仕掛けてくる。
「その甘言に惑わされた兄達は、その馬車を襲撃しました。制圧した後に、確かめると高価な金品が載っていましたが……。他のモノが乗っていました」
それが破滅へと向かう事と理解もせずに、人は林檎を喰らってしまうのだ。
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「流石です、タイチ師父! 私達が”媒介”を使ってまで探し当てた”黄巾党”のアジトを自力で探し当てたとは!?」
「もっと早く。領主様が”媒介”を使う前に、連絡が欲しかったんですけど……。……イジメですか?」
夜の闇が深くなり始めた”黄巾党”のアジトの前で、領主の兵士達とジィェンの件の麻雀の時に居た気弱そうな給仕の女性が、完全武装で待っていた。
「平爺さんとの麻雀の時に居たな。実力者だとは思ったが、領主側だったのか」
「”林・木”です。ランさんだけ、行き来されるのも問題ですから……私が領主様から行き来するように言われたんですけど。……ランさんに遠く、及ばないのに……イジメですか?」
確かにフェイ・ラン程の実力者ではないだろうが、ふっわふわの茶色の髪が強い天然パーマのせいか、巻き髪のお嬢様のような風貌が更に、そう思わせる。
しかし、両手に持つ短刀、全身のあらゆる体制でも投擲できるように括り付けられたクナイのような刃物。
正面切っての戦闘ではなく、技量と手数で押すタイプの、この世界では珍しい実力者に見えた。
「肉弾戦ならともかく、刃物を使った戦い方はね、タイチ様。道具が壊れないようにとか、正確に届くように投げたりするから【武道】と違って、ある程度は発達してるよ。道具を使ってくる相手は要注意だよ」
「ガンちゃんさんが言うように、そうですね。私が【無手】なのは、私の仙力と身体能力に耐えられる武器が無いからです。大抵は握りつぶすか、少しでも複雑な構造だと弱い箇所から、込めた仙力に耐えられなくなりますから」
英雄、勇者級の仙力を持つと使う道具も厳選されるため、フェイ・ランが【無手】なのは理解できる。
「フェイ・ランを越えるかもしれないシライシに、それに耐えうる武器を渡したのか……」
「傭兵登録が出来なくても、妖魔の素材を持ち込んで生活できるように。尊く、慈悲深い玄武様が与えた”魔を討ち滅ぼす神器”。本人の要望通り”日本刀”の形状にしました。まさか”魔”ではなく”人”に使うなんて、玄武様への侮辱ですね!!」
俺も他人のことは言えないが、慈悲深いのでなく、お人好しと呼ぶのが正しいと思う。
自分の所に滅多に来ない攻撃的な兵士だったからといって、オマケを付け過ぎだ。
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『お父さんに会いたいから、面会の機会を作ってくれるかい? クゥイちゃん』
『はぁ~~い! タイチ先生のためなら、クゥイ、何でもしまーー!!』
ツァィから”黄巾党”のアジトを聞き出し、人手が要るのと、同じ案件で錯綜しているだろう領主に話を通すための機会を作るのをクゥイちゃんに依頼した。
『タイチ殿に何から何まで世話を掛けられないと、手ずからの”媒介”で探し当てたアジトの場所と相違ない』
要人の捜索で忙しいところを無理を言って面会した領主・日・樹から、”媒介”を【神技】を使ってでも、捜索しなくてはならない要人だったと告げられる。
『タイチ殿の事情は理解しました。この件が出来るだけ上手く収まるように。要人の親の説得と必要な人員を出しましょう』
娘・クゥイちゃんの一件で、俺に恩義を感じてくれている領主の全面的な協力を取り付けたのは、良かったのだが……。
『この街の名前の由来でもあり、この国、赤壁帝国。その帝、”光武帝・道”の娘。帝位継承3位、皇女”茜”様を___
___どうか、御無事で救ってください』
他のモノは、予想以上の大物だった……。
道具を使うということは、その道具が”能力の限界”となる訳です。
武器を自身の腕力で破壊してしまうような化け物達は『筋トレして物理で殴る』ほうが早くて簡単です。
この世界で【武器術】が発達しても【武道】が発達しない理由の1つです。
四章完結まで一日一話、投稿です。