”順調”な立ち上がり
分かる人には分かる前置き。
作者的な想定として、主人公の雀力は『哲也』の房州さんの所で修行中の哲也と同じくらいです。
ーー半荘戦(東南)・東一局ーー
胴元を引っ張り出すために”賭場荒らし”をし、自分が望んだ形でも勝負に持ち込んだおかげか、全ての流れが、俺に味方する。
配牌の時点で、タンヤオ、ピンフ、一盃口の一手前という好配牌。
「さて……。命知らずの実力拝見と、行こうか」
俺の内心の熱気を知ってか知らずか、右隣の男から無造作に牌が切られて勝負が開始される。
二万五千点を確保するまではリーチをしないつもりだったが、ダブルリーチなら話は別だ!
否応が無く、初ツモに、力が___
___入ったが、ツモった牌は手配の連なりに近かったが、目指す役に絡まなかった初ツモをツモ切る。
「フフーン! 偉く賢いボク! 麻雀のルールは、よく分かりませんが。今のは、凄く惜しかったのは分かりますよ! さすがは、賢いボクですね!!!」
「ブフ!!??」
シンの空気を読まない、迂闊な発言に右隣の男が噴き出す。
「馬鹿!!? 馬鹿シン!! 勝負なんですよ!? 相手に情報を与えてどうするんですか!!? 馬鹿! バカ! ばか!! タイチさんが負けたら責任、取れるんですか!!??」
「くく、くくく。幸い、始まったばかりだ。最初から、やり直しても構わんぞ?」
俺にか、失態に激昂するリウに同情したのか、右隣の男から提案が出る。
「配牌が良すぎるんでね。続行だ。自力で、ツモ上がりすれば問題ない」
「くくく。強がりにならなければ良いがな。俺は”火・牙”だ。よろしくな、タイチよ」
最初から警戒されていたこともあり、この局はテンパイこそすれ、上がって点棒を増やすことが出来なかった。
東(右隣)・ヤー・24000、ノーテン罰符・-1000
南(対面)・大男・24000、ノーテン罰符・-1000
西(左隣)・爺さん・26000、テンパイ・+1000
北・俺・26000、テンパイ・+1000
好配牌だった俺を警戒し、手を崩してでも防御をしていた二人と違って、キッチリとテンパイまで持っていった爺さんは、やはり要警戒だ。
ーー東二局ーー
結果、上がることが出来なかったが、流れを掴み好配牌だった俺の手牌は、いまだに好調。
……好調なのだが、相手からの出上がりが出来そうにない流れを感じ取る。
(さっきの局、与えたミスを考えてもロンできる可能性は充分あった。……何か有るな。俺の手牌を知る方法が)
「フ、くくく」
中盤、満貫以上をダマテンしていたころから、牌をじらすように指で隠しながら、ゆっくりと捨て始めたヤーから笑い声が零れる。
「ヤー。意地が悪いぞい。もっと敬わんか」
「くっくく。悪い悪い。ろくでもない出自なのでな。許してくれ、翁」
そういう事かと理解して後ろを、俺に憑いて来た精霊達の方を振り向く。
「僕、じゃないよ!? タイチ様! だって馬鹿だもん! ルール分かんないし、顔に出てたのは、二人のほうだよ!!」
「「え!!???」」
今までの賭場荒らしの時の対局で、見学をさせていなかったので、自覚が無かったのだろう。
俺達の一挙手一投足に反応してしまって、声に出していないが相手に表情などで情報を与えてしまっていたようだ。
「……俺の配慮が足りなかったな。リウ、シン、済まなかったな。最初から、こうすれば良かった」
「ごめんなさい! タイチさん!! 私、私……」
この局では今さら遅いが、手牌を全て伏せ牌にする対応を取る俺に、シンを叱責した手前、涙目になりながら申し訳なさそうにするリウ。
リウに悪いと思いながらも、ここまでの展開が思い通りに推移したことに内心、ほくそ笑む……。
東・25000、テンパイ・+1000
南・23000、ノーテン罰符・-1000
西・27000、テンパイ・+1000
北・25000、ノーテン罰符・-1000
掴んだ、狙った流れを崩さぬように、振り込みしないように防御に回って、この局は終了する。
ーー東三局ーー
「ほっほっほ。ここまでツモもロンも無し。鳴きの発声すら少ないと来ておるからの。……ここらで、大きく出るとするか。……”立直”!」
自分の親が回ってきたことで、相手の中で一番の麻雀巧者であると見られる爺さんから、初手立直が出る。
「怖い怖い。親のダブリーか。勝負に出たな、爺さん」
「ほっほっほ。”池・平”じゃ。せいぜい振り込まぬようにの」
十中八九、ピン爺さんに振り込むことは無いと思うが、警戒を解くことはしない。
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仲間内で点棒が移動しても問題の無い胴元は、何の警戒もなく強打を連発し、手牌を高くしていく。
俺はピン爺さんの捨て牌、他家の捨て牌から当たり牌を推測し、防御しながら終盤に向かっていた。
「…………」
終局まで後二巡といったところで対面の無口な大男から、俺の手牌に二つある捨て牌が出る。
安全が確保されたことに安堵しつつ、その牌を、捨てる___
___「……”ロン”」
「チョンボです! フリテン・ミス!!! タイチさんが捨てた牌は、さっき貴方が捨てたばかりの牌です!!! イカサマ、チョンボは8000点払いですよ!!! 2000点、タイチさんに払ってください!!!」
大男から初めての発声が信じられないチョンボだと、リウが責め立てた。
さきほどの自身の失態を取り戻さんばかりに激怒し、叱責する。
「くくく。精霊様。聞くが、”山・槌”の先ほど捨てた牌と、タイチが捨てた牌は違う牌に見えるが?」
「何を言ってるんですか!? そんな、はず、は…………え!???」
ヤーの指摘に、捨て牌を確認したリウが信じられないと驚いていた。
自分の瞳が壊れたのかと、何度も擦りながら確認しても、先ほど捨てた牌と俺の捨てた牌が違っていた。
「アッハハハ! 精霊様とはいえ、間違いは有る。気にすることはないぞ?」
「そんな筈は、そんな、はず、は…………あっ!!? やっぱりチョンボです!!! 5巡目、早い段階で捨ててるじゃないですか!!!? 私が間違える訳が有りません!」
結果が同じでも、指摘する場所を間違えていたことを棚に上げて、得意げにするリウ。
「何ィ!!? そんな馬鹿な!!??」
驚愕し、ヤーが何度も確認するが、リウの言ったようにチュイの捨て牌が並んでいた。
「ほっほっほ。……やりますな」
「そちらこそ」
チュイが捨てた後に、盤面にツモなどで手を出せたのはピン爺さんと俺の二人だけだ。
ピン爺さんがチュイの捨て牌を”すり替え”た後に、俺が前の捨て牌を”すり替え”るという高度なイカサマの攻防が有ったのだ。
「どうします? 終局も近い。続行して、せっかくリーチしてるんだ。テンパイ料と連荘するのも有りですよ。というか、それ以外ないのでは?」
「ほっほっほ。古い人間ですからな。アヤが付いた上に、ここまで上がれなかったでの。リー棒は惜しいが流局にして、流れを変えようかと思っております」
もっともらしいことを言っているが、要は自分のチョンボを誤魔化しているだけなのは分かっている。
自分を最大限に警戒させて、イカサマを使ってでも防御を崩そうとしただけなので、ノーテン・リーチだったのだと推測できる。
このまま終局まで行ったら、テンパイ料を受け取る際に手牌を晒すことになるのを避けただけだ。
麻雀の実力も、イカサマの実力も、警戒すべきはピン爺さんだけと認識した。
東・27000、+2000
南・15000、チョンボ・-8000
西・30000、+3000……リー棒1000
北・27000、+2000
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もう少し、理想通りの展開にするのに時間が掛かると思っていた。
半荘を数度、おこなってから流れを作れると思っていたが、”順調”な立ち上がりだった。
早ければ、この半荘で決着が付く!!!
はい、せ~~の、『近代麻雀』で、やれ!!
二章は、平日午後二時、土日祝日午前六時に投稿します。