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第34話

私たちは魔力を計るために魔法棟と呼ばれる建物へ移動した。前世でいう体育館のようなものだ。………それよりも確実に二倍の広さはあるけれど。


「ここが魔法棟です。此処では魔法を実際に使うことが出来る場所で棟に高度な障壁が貼られているため、魔法を間違えて打っても壊れないようになっています」


そこには的の付いた案山子?のようなものが置いてあり、まだ魔法の練習をしている生徒が残っていた。


「今回の授業は魔法を使用しないのでこの魔人形(マジック・ドール)は必要ありませんが、攻撃魔法の実技で使うことになります」


それでは早速魔力を調べてみましょうかとノエル先生が言うと、別の魔法科の先生が魔法棟に入って来た。


「こちらの先生方にも手伝って貰ってみなさんの魔力を計らせていただきます。此処で質問はありますか?」


先生はくるりと私たちの顔を見回す。すると、一つ手が上がった。

_____アルト。


「はい。どのように魔力を測るのですか?」

「方法は手に魔力を纏わせて魔晶石に触れるだけです。魔力は血液とともに流れているので血の流れをイメージすると上手くできますよ」


血の流れをイメージする。魔法を使う時にするイメージと同じなのかな。実際に流れる血から魔力を集めて手に集めた。


「こんな感じかしら?」


レイアは眉を寄せて魔力を集めていた。私の目には青白い魔力がゆらゆらと蜃気楼の様に動いているのが見えた。初めて魔力を制御するのだったら上出来だと思う。


「ちょっと魔力が揺らいでいるけど、そこまで出来るのなら上出来よ」

「?魔力が揺らいでいる?」

「えぇ。説明するのは難しいけど、そうね。糸に例えると今は、緩くなって弛んでいる状態でそれをピンっと張るような感じかしら?」


ものは試しとばかりにレイアは魔力を手に集め始めた。少しずつ魔力が集結して、今度は揺らめくこともなく魔力が止まっていた。


「そう。そのまま、その状態を維持出来るといいわ」

「ふぅ。やっぱり、魔力の制御って難しいわね」

「最初はみんなそうだけど、慣れると簡単に魔力を操れるようになれるわ」


私だって昔は魔力をいろんな場所に集めることを想像できなくて、苦戦していたことがあったのだ。でも、魔力を操れることに慣れてしまうと息をするように魔力操作を出来てしまう。


「さて、みなさん。上手く出来ましたか?これから魔力を計測します。名前を呼ばれたら前に出て下さい」


話し終えたノエル先生はちらりと横にいる先生を横目で見た。小さく頷いた魔法科の先生は片手を上げ、呪文を唱え出す。


「精霊よ、我らに力を貸したまえ。我が魔力を源に。我らを害するものからこの場を守る聖なる結界を!"魔障防護結界"」


その魔法に私は思わず目を見張った。


魔障防護結界は水と光を同時に行使する複合魔法で魔力操作が難しく、消費する魔力が激しい為滅多に使われない。

しかし、その分魔法や物理攻撃から完全に守ることが出来ることから魔障防護結界は上位魔法に位置している筈だ。


この魔法を知らない人は何とも思っていないようだが、ある程度魔法に詳しい人はどよめいていた。ノエル先生は平然としてその様子を見て頷くと、アルトをちらりと横目で見た。それに気づいたアルトは片眉を少し上げる。


「それではまず殿下にやってもらいましょうか。今、念の為に張ってもらったこの魔障防護結界は物理にも魔法にも耐性のある魔法なので安心して魔法を使ってもらって大丈夫です」

「分かりました」


アルトはこくりと頷くと、水晶の方へ近づく。歩くと柔らかな漆黒の髪が風になびいた。手を水晶へ近づけ、ゆっくりと莫大な魔力が練り上げられる。


アルトは元々魔力が多いので覚悟はしていたが、成長して魔力が多くなっていたのだろう。余りの魔力の量にアルトに心を寄せている令嬢たちはうっとりと見つめている。


「これは……!」


先生が僅かに息を呑んだ瞬間、アルトが得意な炎のように燃える色が水晶に現れた。

そして、水晶の背後にその力が具現化するかのように大きな何かが姿を現した。


人間ほどの大きさのある爪に魔法棟の端から端まで届きそうな羽。

それはまさしく…。


炎龍(ドラゴン)……?」


そう口にした瞬間、それは私の方を向く。私はその凄まじい威圧感にたじろぎ、足が震えた。

しかし、次の瞬間私の頭に直接響いてくるような声が聞こえた。


『……お主。もしや、我の姿が見えるのか?』


その声にはっとして、咄嗟に念話を繋げた。


『もしかして炎龍……ですか?』

『!…如何にも我は炎龍と呼ばれている。しかし、念話を使えるとは驚いたな…今の年代にも念話を扱える者が居たのか』


しかし、こんなに大きな炎龍が現れたというのに周りの人達は誰も騒いでいない。みんなは未だアルトに注目していて、ノエル先生は真剣な表情で手元の紙に何かを書いていた。


『我の姿はそう簡単に見ることは出来ぬ。だから、心配しなくても大丈夫なのだ。何せ我はこの者の魔力そのものなのだから』

『魔力…そのもの……?』


魔力そのものということは精霊に近い存在なのかもしれない。精霊はある属性の魔力が集まって意思が芽生えたものだという話を昔、文献で見たことがある。


『精霊…ということですか?』

『それとは少し違うが…この話はいつか話そう』

『えっ!』


炎龍はそう言い残した瞬間、溶けるように消えていく。一瞬何が起こったのかと思ったが、丁度その時アルトが水晶から手を離していた。


「ありがとうございました。殿下、それじゃあ…。次は…」


ノエル先生は緊張を解すように優しげな笑みを浮かべ、次の人の名前を読んでいく。

呼ばれた生徒はアルトと同じように水晶に魔力を流し込んでいるけれど。しかし、不思議な事にこの後、アルトと同じような事は起こらなかった。

自分の計測も終わり、少し気になったことといえば、フローラの魔力が以外にも少なかったことだろうか。


「それにしても、ローゼリラ様は凄いですわ。殿下と同等の魔力があって、その他にも全属性を扱うことが出来るなんて」

「ふふっ…ありがとう。でも、レイア様も魔力のコントロールが上手いですわよ。誰かに習っていらしたのですか?」


いくら姓を貰った大商人って言っても凄い魔法の使い手なんかは貴族が雇っていってしまうので魔法を学ぶのはかなり難しいことだ。きっと、誰か身内に優秀な方がいるのだろう。


「えぇ、伯父に。伯父は身内の中で一番魔法の扱いが上手い方だったので」

「それは素晴らしいわね」


こうして話している間にもフローラの鋭い視線が背中に刺さった。なんだか落ち着かないな。そう思った時、まるで助けに入るかのようなタイミングでノエル先生が話し出した。


「…ん。これで良し。全員調べ終わりました。皆さん、自分の魔力量のことを知ることが出来ましたか?魔力量を把握しておく事はこれから魔法を習得していくために重要な事なので気をつけましょう。それでは、授業は終了です。解散!」


解散の一言でクラスが動き始める。その移動の最中で私はひっそりと思った。炎龍の名前を聞くの忘れてた……と。


******


『懐かしい。まさか、あのような娘に会えるとは…。それにあの者、大きな精霊の気配がくっついていた。確か、風の精霊王は百年前城から飛び出してまだ帰ってきていないと思ったが、あの娘の元に居たとはな、なかなか面白い。……我に出来ることは少ないかもしれないがあの者らが幸あらんことを願っておるか』


大きな赤いものは暗い闇でそう呟いていた。


ずっと書きたかったところが書けて嬉しいです!

これから1話から編集し直しているので投稿に時間が掛かりますが、よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[一言] おもしろいので、続きを書いて欲しいです。
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