最終話 旅路
「よし、記録はまとめ終わったね」
ミライが私達のレポートを片付けると、アシタが寂しそうにテーブルの上を跳ねた。
『あっという間だったね』
「いやー、僕的にはヒヤヒヤしたよ」
『残って貰うために、洗脳なんてするつもりなかったよー』
「本当に? ちょっとも考えてない?」
『か……カンガエテナイヨ』
ミライがバッタを指で弾く。
『痛いよ!』
「罰でーす」
『未遂でーす!』
バッタがミライの顔面に張り付くと、嫌がらせのように頬っぺを引っ掻いた。
「うわっ、やりやがったな!」
『べーっだ!』
「クソッ、ツヅク、ミチ、ユウキ、こんなやつのために残らなくていいよ!」
『待って、それは死活問題ー!!』
『ミライ、あまりいじめてやるな』
まぁまぁと、オレンジ色の触角を出したりするハジメ――うん、臭いね。なんでわざわざ出した?
「うわっ、臭いって!!」
「ハジメ兄ちゃん、なんで出したのー?!」
「うぅ……」
『ふふふっ』
笑うハジメ――うん、リアクションを見たかっただけね。うん。臭いけど。うん……。
「さぁ、そろそろ行こうか」
悟が立ち上がるので、つられて私達も立ち上がる。
「次はどこに行く? ここはお母さんが決めてたから、次は私が決めていい?」
「えーっ、お姉ちゃんズルい!」
「順番にしたらいいじゃん?」
「じゃあ、次は私がいいー!」
「いやいや、お姉ちゃんの方が先」
「いやいや、お父さんが先に決めたいなぁ」
二人は揃って悟を見上げる。
「お父さん、横槍入れないでよ」
「そうだよ、私かお姉ちゃんだよ」
「えぇー、お父さんも決めたいなぁ」
「順番だから、私とお姉ちゃんの次ね」
「えぇー」
わざとらしく口を尖らせる悟に笑ってしまう。
「朋里も優希も行きたいところあるの?」
「んー? チョコの星とか?」
「私、ファンタジー的な文明がいい! 本格的な魔法文明!」
「あるかなぁ……」
頬をぽりぽり掻きながら、ミライはアカシックレコードで検索をしているのか、上を見つめている。
『いいねー、宇宙旅行』
「アシタも来る?」
『いやいや、私達には管理者業務があるから』
「アカシックレコードで、私達のログは追えたりするの?」
『あー、そういえば、ある程度は追えるね』
「じゃあ、アカシックレコード経由で時々手紙を書くね」
『え、ありがとう……嬉しい』
「お母さん! 私もやる!」
「私も!」
『嬉しい……ミライ達は書いてくれないのー?』
「気が向いたら書くよ。気が向いたらね」
『まぁ、なんてツンデレなの!』
「僕、アシタにデレたことある?」
『……アルヨ?』
再び指で弾かれ飛んでいくバッタ。
皆で笑い合うと、一つ頷いた。
「さぁ、次の場所を決めたよ。行こう」
「どこにしたの?」
「行ってからのお楽しみ。ひとつ言うと、行先の決定権は連れて行く僕らにあります」
『君達のお兄ちゃん、意地悪じゃない?――ぐっ!』
「……さぁ、行くよ! 皆集まってー」
ミライの掛け声に、ミライの元に近寄る。
飛ばされたばかりのアシタに振り向くと、笑顔で手を振った。
「ありがとう、アシタ! 元気でね」
「ありがとう、学校のみんなにもよろしくね!」
「楽しかったよ、また遊ぼうね!」
「管理者頑張るんだよ、理想の文明を続けてね」
『ツヅク、みんなをよろしく頼むぞ』
『わかった』
『ありがとう、死にたくなったら、消滅する前に絶対ここに来てね』
「大丈夫。家族がいれば、乗り越えられるよ」
『――そうだね』
また涙で水たまりを作り始めるバッタに微笑みながら、私達はミライを見る。
次はどんな星に行くのだろう。未知への好奇心に心を踊らせながら、私は頬を深い緑に染める。
私達、守山家の旅路は続く。
ミライ達がいつ納得できる答えにたどり着くかはわからない。そもそも、私達が勝手にあると決めつけているだけで、答えがあるかも分からない。
でも、私達は旅を続ける。納得できるまで続ける。
一億年、十億年だって付き合うよ。
私達は家族だもの。
この広大な宇宙で奇跡的に結ばれた、かけがえのない絆。
私はこの関係を断ち切るつもりはない。
――宇宙にどれだけ星があって、どれだけ命があっても、私は私でしかない。
だから、旅を続ける。家族と共に――。
「じゃあ、行くよ――格納」




