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トカゲさんの育て方  作者: きぬごま
第六章
22/23

22話 ゆるい恋人

「それがですねぇ……」

 景子は母とのやりとりを簡単に説明する。龍彦がやってきた事ですっかり頭の中から飛んでしまっていたが、現状何も解決しておらず、景子は話しながら再び気が重くなってしまった。

「お、お、お母様からの、男の紹介、だと!」

 龍彦は予想外の話に驚き、わなわなと震えている。

「はぁ、情けないですけど、私がこんななので、母も何かと心配みたいです……」

 景子はガックリと肩を落としながら野菜を刻む。

「ふむ、お母様の職場の男ってことは、やっちまう訳にもなぁ……」

 (タツさん、何か今怖いこと言ったような……)

 龍彦は腕組みをして、物騒なことを呟きながら何やら考え込んでいた。龍彦が何を言い出すか心配だったが、景子も何かいい案がないかと考えを巡らせる。

 すると、龍彦は何か閃いたようで、突然「あぁ!」と大声を出した。

「トカゲちゃん! 俺って、トカゲちゃんの彼氏、でいいんだよね!?」

「えぇぇ!?」

「いや何でよ!? ビックリしないでよ! 俺また泣きそうなんだけど!?」

「すすすすみません! なんだか、まだ実感がなくて……」

 景子は照れ笑いを浮かべ、頬をポリポリと掻く。そんな様子に龍彦は不安になったようで、ジトッとした目で見つめていた。

「むぅ、それで? 俺は彼氏、トカゲちゃんは彼女、なんだよね?」

「はは、はい! も、もちろんです!」

 鼻息荒く言う姿が、面白くも可愛らしく、龍彦は思わず吹き出して大笑いする。

「ぶはっ! そんな意気込まなくたって! あっははは、だめだ、おもろすぎる!」

「も、もう、そんな笑わなくたって……真剣なのに」

 しばらく笑い転げる龍彦を見てむくれていた景子だが、話の続きを聞こうと龍彦に尋ねた。

 

「それで、何か良い案が浮かんだんですか?」

「あぁ、ごめんごめん。ゴホン、えーつまり、お母様は、トカゲちゃんに恋人を作って欲しいわけだよ。と言うことは……」

「ん?」

「もう俺がいるんだから、それを正直に言えばいいんだよ!」

 ドンと胸を叩き、龍彦は自信満々に話す。景子もようやく理解出来たようで、ワンテンポ遅れ「ああ」と大きく頷いた。

「で、でも、そんな事で良いのかな?」

「大丈夫だって。ほら、トカゲちゃん、こっち来てこっち」

「ん?」

 龍彦は急にチョイチョイと手招きをすると、景子を側に座らせた。そして小さいバッグの奥底からニット帽を取り出すと、それを被ってスマホを自撮りモードにする。

「ほら、笑ってー」

「わわ……」

 急に肩を抱き寄せられ、景子はバランスを崩して龍彦の胸に倒れるようになった。

 龍彦は手際よくツーショット写真を撮影し「よし!」と呟くと、それを景子のチャットに送りつけた。

「今送った写真、お母様に彼氏出来たよーって送ってみてよ。一応髪色は帽子で隠したから」

「な、なるほど……でも、どうして隠したんですか? 似合ってるのに」

 不思議そうに聞く景子に、龍彦は少し困ったように笑った。

「まぁ、俺は好きでこの格好してるけど、傍からみたら、ちょっと不良っぽいかもだし……お母様にちょっとでもよく思われたいしねー」

「ふふ、そういえば、私も最初は少し怖かったかも」

 初めて龍彦と出会った時を思い出して、景子は懐かしい気分になった。

「でも、タツさんが優しいのはすぐにわかったので、いつの間にか全然気にならなくなってました」

「そ、そっか……えへへ、ありがと」

 優しい笑顔で話す景子の姿に、龍彦はくすぐったくなり少年のような顔で笑うのだった。


 しばらく二人は初々しくも幸せな時間を過ごしていたが、龍彦は仕事を抜けてきたことを思い出し、名残惜しいがショップに帰る事になった。

「じゃあトカゲちゃんまた今度ね! お母様にもヨロシク」

「はい、後で連絡してみます。そう言えば仕事中だったのに、長いこと引き止めてしまってすみませんでした……」

 玄関での別れ際、申し訳なさそうに謝る景子を見て、龍彦は「うーん」と何か悩むような声を出す。

「そう言うのも、トカゲちゃんらしくていいけど……これからはもっとわがまま言って良いんだからね」

「わがまま、ですか?」

「そ、だって俺たち、もう恋人でしょ?」

「ここ、恋人……!」

 その言葉に過剰に反応し赤くなる景子に、龍彦は不意打ちに頬に軽くキスをする。

「ふふ、隙ありってね。 じゃあねトカゲちゃん! また後で連絡する!」

 龍彦はニヤリと笑うと、逃げるように帰っていった。残された景子は顔を真っ赤にし、玄関の前でしばらく時が止まったように固まるのだった。


「お、戻ってきた……お帰りっす! 平戸さん調子どうでしたか?」

 ショップに戻ると、渋谷が奥のデスクに暇そうに椅子に座っていた。

「あぁ、風邪もよくなってた。明日から仕事も行けそうだって……なぁヤス、今からこれ、諒の店に貼ってきてくれ」

「なんすかこれ……うわヤバ! 店のポスターだ! カッケェ!」

 龍彦は景子の作ってくれたポスターを何枚かコピーしており、渋谷に渡した。そしてなぜか自慢気に鼻を高くしている。

「ふふーん、すげぇだろ。実は、トカゲちゃんが作ってくれたんだー」

「平戸さんが!? へぇー、彼女こんなの作れるんすねぇ」

 渋谷は感心するようにポスターをじっくりと眺める。その横で龍彦はテキパキとポスターを額縁にセットしていた。渋谷はそれに気づくと、まるでアホを見るような目を向ける。

「……あの、何してんすか?」

「見てわかんだろ! 額縁にいれて、これから毎日欠かさず拝むんだよ!」

 バカなことを言っているが、彼の目は真剣そのものだ。渋谷はツッコミを入れるのもバカバカしくなった。

「……俺、ポスター貼り行ってきまーす」

 嬉しそうに額縁を飾る龍彦をしらけた目で見ながら、その場から立ち去る渋谷であった。


 (ふぅ、やっと腹が満たされたぜ……ってかげこ、お前さっきから何してんだ?)

 龍彦が帰ってから、景子は母にチャットを送るべく、スマホとの睨み合いをかれこれ一時間は続けていた。

 同じような文面を消しては打ちを繰り返し、その度に深いため息をつく。

「んー、どうやって伝えれば……」

 難しい顔で呟くと、突然母からの着信があった。

「わっ!」

 驚きスマホを落としそうになりながらも電話に出ると、母の大きな声が景子の耳に響き渡る。

「景子! あんた、ちゃんと返事しなさいよね!」

「ごご、ごめん、私、昨日は風邪で調子悪くって……」

「え!? 大丈夫なの? 仕事終わったら差し入れしようか?」

「大丈夫だよ、もうだいぶ調子戻ったから。明日から仕事も行けるし」

 風邪だと伝えると、母は途端に心配な声色に戻り、景子は少し落ち着きを取り戻した。

「そう? なら良かったけど……最近めっきり寒いんだから、ちゃんと暖かくしなさいよ。ところで、山田さんの件なんだけど……」

 母がその話題を口にすると、景子はゴクリと唾を飲み、勇気を振り絞って口を開く。


「あ、あの! お母さんっ……」

「え?……な、何よ」

 なかなか次の言葉が出ないので、母は思わずズッコケそうになる。

「私! かかか、彼氏、出来たの! だから、山田さんには会えない、です……」

「へー、そうなんだ。彼氏出来たの……えぇ!? ホントに!?」

 一瞬話が入ってこなかった母だが、予想外の報告に驚き電話の向こうで動揺しているようだ。

「ほ、ほんと。実は、さっきチャット送ろうと思ってたの」

「へぇ、あんたにもやっと恋人が出来たのねー 今日は帰ったらお祝いパーティーだわ」

「お、大袈裟だよ。それで、山田さんは……」

「あー、もういいわ! 山田さんにはうまく言っとくから! なんなら、お詫びの合コンでもセットしてあげれば問題なしよ!」

 (そ、それでいいんだ……山田さんっていったいどんな人なんだろ……でも、うまく逃げられて良かった!)

「ところで……」

 母の声色が少し変わり、ホッとしていた景子にまた緊張が走る。

「今度お母さんに紹介しなさいよね! 景子の彼氏!」

「あ、あぁ、うん。わかった、じゃあねお母さん」

 

 なんとか無事に母に報告も済み、紹介の件も解決した事で景子は安堵し、だらりとソファーに埋もれていた。

「はぁ、良かったぁー。そうだ、タツさんにも報告しなきゃ!」

 今度は晴れやかな表情でスマホを操作する景子だった。

 (なんだよ、今度はうれしそうな顔して。ころころ忙しいヤツだなぁ……それよりホレ、俺様を出せ! 暇だんだよー)

「ん? アゴノスケ、外出たいの?」

 景子はアゴノスケをケージから出して、自分の腕にしがみつかせる。アゴノスケは勢い良く駆け上がり、景子の肩まで登っていく。

「あははは、くすぐったい! あ、そうだ!」

 パッと閃き、景子は肩に乗るアゴノスケの写真を撮る。


『タツさんお疲れさまです!

 今、母から電話があって、タツさんの事を伝えたら、喜んでくれてました。

 紹介の件はうまく断ってくれるそうです。

 せっかく撮った写真は、送りそびれちゃって残念ですけど……

 母が、タツさんに会いたいと言っていたので、良ければまた会ってくれると嬉しいです

 あと、元気なアゴノスケの写真も送っておきます!』


 チャットと共に、肩の上で大きく口を開けたアゴノスケの写真を送り、景子はニッコリと微笑む。

「ふふ、早く返事来ないかなー」

 景子はアゴノスケの頭を撫でながら、早くも龍彦からの返事を待ちわびるのだった。





 

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「むぅ、それで? 俺は彼氏、トカゲちゃんは彼女、なんだよね?」 「はは、はい! も、もちろんです!」 いいですよね、言葉で愛を確認し合う。これは、大事なんだなって思います。良い恋愛を横目に見ているよう…
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