透明な石
トミーが家に来た2日後、俺が工房で焼き物の出来上がりを待っていると、彼からメッセージが入ってきた。たった今メサのNM戦に勝利し、加護を手に入れたそうだ。フレンドリストを見るとレベルが168に上がっている。168で挑戦して勝ったんだ。元々実力があるからな。おそらく攻略クランも勝つだろう。
「主の次、2番目なのです」
工房で大人しく座っている従魔達にメッセージの内容を伝えるとリンネが言った。タロウもガウと吠え、クルミも尻尾を振っている。よくやったと言ってるのかな?ランとリーファもサムズアップをしている。
焼き物造りが終わると、俺たちはオアシスの街経由で西のセーフゾーンに飛んで周辺で経験値稼ぎをする。キャンペーンはあと2日、少しでもレベルは上げたい。そう思って熊を倒しているとレベルが166に上がった。その後少し経験値を稼いでから自宅に戻った。次は宝探しだよ。
始まりの街を出てポールを走り抜けるとそこは初めてのエリアだった。いや、初めてと言っていいのかどうか。
「主は敵をぶっ倒しに来たのです?」
俺の頭の上に乗っているリンネが言った。タロウもその背中に乗っているクルミもあれ?っと言った顔でこっちを向いている。
俺たちが飛んだ場所はメサがある荒野、そう、まさに今自分たちが攻略しているエリアと同じ景色だ。
「いや、俺たちは宝探しに来たんだよ。そうだよな?」
自分自身でも100%の自信がない。それほどに似た風景だ。
でも歩き始めると敵がいない。プレイヤーが歩いている姿も目に入ってきた。変な話だけど安心したよ。既存のエリアに手を加えて宝探しエリアにしているんだ。焦った焦った。
「ここはウハウハになる場所なのです。敵をぶっ倒す場所とは似て非なるものなのです」
「その通りだよ。焦ったよ」
それにしてもリンネは時々難しい言葉を使うんだよな。
宝箱探しのエリアなのでもちろん街も見当たらない。歩いていると荒野に宝箱を見つけた。端末をかざすと音がして宝箱が消えた。
「主、中には何が入っていたのです?」
このエリアで初めての宝箱だ。従魔達のテンションが高い。
「ちょっと待ってね」
中を見ると3,000ベニーが入っていた。俺が言うと従魔達が大喜びする。
「これでまた主がウハウハになるのです」
「そうだな。リンネの言う通りだよ」
普段コヨーテや熊がいる荒野に魔獣がいなくて、そこをのんびりと歩くというのは正直違和感がある。
歩いていると大きなメサに近づいたのでその周囲を回っていると2つ目の宝箱を見つけた。また従魔のテンションが上がったよ。
中には神魂石が4つ入っていた。緑と青と白と紫だ。緑と白と紫は従魔達にも使える。言ったら喜んでくれた。ただ、この先で神魂石を使った強化があるかどうかは不明なんだよな。まだ強化が終わっていない人にとったら有難いだろうけど。そうは言ってももちろんこれはキープするよ。
メサの周りをぐるっと回ると荒野をのんびりと歩く俺たち。普段似た様な風景の中で熊やコヨーテを倒しているのでまだ違和感がある。
荒野に転がっている岩の陰で宝箱を見つけた。
「ん?こりゃ何だ?」
端末をかざして収納をしたアイテムを見た俺は思わず声を出した。従魔達も俺の周りに座って見上げている。
端末の中には『透明な神魂石』というのが入っていた。
「綺麗な石なのです。主、それは何なのです?」
端末から取り出して従魔たちに見せるとリンネが言った。タロウとクルミも俺が手に持っている透明な石をじっと見ている。
「神魂石っていうから強化用の石の気がするけど透明なのは初めてだよ」
「ガウ」
タロウが吠えた。
「タロウはその石で主がまた強くなれると言っているのです。クルミもリンネもタロウと同じなのです」
オアシスの街の強化屋さんに持ち込んでのラムズさんに見てもらおう。
その後も2つ宝箱を見つけ、印章とポーションを手に入れた俺は帰還石を使って宝探しのエリアから出るとそのままオアシスの街に飛んだ。
強化屋の扉を開けて中に入るとカウンターにラムズさんが立っていて、俺を見つけると手を上げてきた。強化屋の中にいるプレイヤー達の視線を浴びながらラムズさんの前の列に並ぶ。タロウもリンネもクルミも大人しく列に並んでいるよ。
「従魔達のスクショを撮ってもいいですか?」
隣の列に並んでいる女性プレイヤーが聞いてきた。
「もちろん。どうぞどうぞ」
俺が答えるとリンネとクルミがタロウの背中の上に乗る。サービス精神旺盛だよ。他の女性プレイヤーもスクショを撮ってくる。その間にも少しずつ列は進んでいた。
「よう、タク。久しぶりだな」
「こんにちはなのです」
俺の番になってラムズさんの窓口の前に立つと向こうから挨拶をしてくれる。これは嬉しいね。
「それでどうしたんだい?強化は終わっただろう?」
「それが、宝探しをしていたら宝箱からこんなのが出まして」
テーブルの上に透明な神魂石を置いた。それを見たラムズさん。
「珍しいのが出たな」
「これを使って装備を強化できるんです?」
「もちろんだよ。神魂石だからな」
強化屋はカウンターが担当者ごとに仕切られていて、隣の声が聞こえない仕様になっている。なのでカウンターで話をしてもそのやりとりが他のプレイヤーに聞かれることはない。
「この透明な神魂石。滅多に出ないんだ。簡単に言うと上限を突破させるの神魂石だ」
ん?どういうこと?俺が聞くとラムズさんが説明してくれる。
「12段階目まで強化が済んでいる装備をさらに1段階強化することができる石だ。これは石2つを使って強化した装備でも使えるが、強化できるのは透明な神魂石1個について普通の石1個分だけだ。例えばだ、タクの刀は赤と緑の石で12段階強化されている。そこにこの透明な神魂石を使うとなると赤か緑のどちらか1つの色を13段階目まで強化できるということだよ。ただ強化費用は作業が難しいので1回の強化で300万ベニーかかる」
それで上限突破の神魂石というのか。それにしても凄いな。強化費用が300万なら問題ないぞ。
「バンダナもできるってことですか?」
「もちろん。タクの装備だとこの石を使ってバンダナをさらに1段階強化するのがいいだろう」
黒の神魂石だけを使っているバンダナ一択だよな。
俺は透明な神魂石とバンダナ、それと300万ベニーを支払った。一旦奥に引っ込んだラムズさんがバンダナを持って戻ってきた。
「ばっちりだぞ。これでまた強くなったな」
「ありがとうございます」
バンダナの強化が13段階になった。これでレベル換算したら少しは上がっただろう。強化屋を出ると、店の中ではおとなしかった3体の従魔が外に行こうと言ってくる。
「強くなった主を見るのです」
「そうか。じゃあ街の外で少し戦闘するか」
「ガウ」
「するか。なのです。クルミも大喜びなのです」
確かにクルミもタロウの背中の上でジャンプしているよ。
オアシスの街のギルドから西のセーフゾーンに飛んで周辺にいる熊を相手に戦闘してみる。1段階とは言え強さが実感できたよ。数体倒したところでその場から自宅に戻ってきた俺はグループメッセージを入れた。
夕刻にいつもの4人がやってきた。
縁側に座るとクラリアが言った。
「透明な神魂石が宝箱から出たという報告は来ているのよ」
数名が透明な神魂石を宝箱からゲットしたらしい。エリアはバラバラだったそうだ。運営は均等に配置しているみたいだよ。
「強化費用が300万ベニーだっけ?でも金をかける価値はあるな」
「バンダナを強化したのだろう?」
トミーとスタンリーが言ったので、もちろんその通りだよと答えた俺。
「主がまたこれで強くなったのです。主が強くなって従魔も大喜びなのです」
膝の上に座っているリンネが言うと4人がその通りだよな。と言っているよ。
今攻略しているエリアに似た風景のエリアで手に入れたという話をすると彼らも荒野のエリアに飛ばされたことがあるそうだ。
「最初はあれ?と思ったよな」
「そうそう。なんで?とか思っちゃったわよ」
トミーもマリアも最初はびっくりしたという。それが普通の反応だよな。俺だって焦ったもの。
情報クランが集めた情報では今の所、透明な神魂石が大当たりの扱いになっているらしい。確かにこれはレアなアイテムだよ。
「大当たりをしっかりと手にいれる。流石にタクだな」
「翡翠の指輪の効果だな」
スタンリーに続いてトミーが言った。確かに運が良かったと言えるよ。
攻略クランもメサのNMを倒して加護を手に入れたそうだ。
「キャンペーンもあと2日だ。しっかり経験値を稼いでおきたいよな」
俺が言うと皆もその通りだと頷いていた。
そうそう攻略クランもメサのNMを倒して加護を手に入れたそうだ。両クランともレベル168で勝ったんだろう?すごいよ。
「タクがとってくれた装備のおかげとも言えるんだよな」
NMを倒すためにそのNMが落とすアイテムを強化して勝ったからなと言っている4人。
「勝てばいいんですよ」
「主の言うとおりなのです。勝てばいいのです。よくやったのです」




