ズルしよう
橋の袂にある小屋の中に入るとそこにはカウンターがあり、その奥には男性の人族のNPCが2人立っていた。2人とも40代に見える格好をしている。他には何もない。テーブルもなければ椅子もない。そして転送盤もない。何と言うか殺風景な部屋だ。
「こんにちは」
「こんにちは、なのです」
「ガウガウ」
俺たちは2人のNPCに挨拶をしてカウンターに近づいた。クルミは俺の肩の上でジャンプをしていたよ。
「ここはどう言う場所ですか?」
「ここは中央の橋を管理している事務所だよ」
俺から見て左側に立っている男性が言った。
「管理?事務所?」
「そう。ここには3つ橋があるだろう?左と右の橋は自由に渡って隣の台地に行ける。ただし台地はそこで行き止まりになっていてそこから先には行けないけどな」
なるほど、左右の台地は次で行き止まりか。
「中央の橋を渡ると向こうにも小屋があり、その中に転送盤がある。ただし転送盤で飛んだ先はここよりもずっと強い魔獣が徘徊しているんだ。だから中途半端な装備で向こう側に行かない様に俺たちが管理しているんだよ」
関所の街の意味はこれだったんだ。
「分かりました。それで俺と従魔はどうなんでしょうか?」
「レベルが足りない。最低でも148は必要だ。ただ装備の強化は終わっているな。そっちは問題なさそうだ」
そう言ったのはそれまで黙っていた右側の男性だ。
「じゃあレベルを上げたら渡れるんですか?」
「そうじゃない。今の2つの条件をクリアしたらまたここに来てもらいたい。その時に次の話をしよう」
まだ何か条件があるのか。俺たちは礼を言って小屋を出ると、そこに2つのクランのメンバーが固まって立っていた。待っていてくれたのかな。
「どうだった?」
スタンリーが聞いてきた。
「レベルが足りないって。148は最低必要だと言われたよ」
「148なのか」
彼らは150になっていたからレベルについては言われなかったそうだ。148というのは情報になるわねとクラリアが端末に打ち込んでいる。
「じゃあ情報クランも攻略クランも条件を全てクリアしてることになるの?」
「レベルと強化はクリアしているがすぐには橋は渡れない」
他にも何かクリアする条件があるんだな。クラリアからその情報は要る?と聞かれたので断った。そこは自分で調べたい。
「俺たちは戻るがタクはどうするんだ?」
スタンリーが聞いてきた。彼らも情報クランの連中もセーフゾーンを出る準備をいている。
「うん、もうすぐ148に上がりそうな気がするのでここで引き続き豹を倒して経験値を稼ぐよ」
俺が言うと皆がそれがいいぞと言って柵の外に出て行ったよ。指輪を使って戻らないんだな。彼らも草原か森の中でもう少し経験値を稼ぐのかもしれない。
彼らの姿が見えなくなると俺はそばにいる従魔達に顔を向けた。彼らは俺がみんなと話をしている間はおとなしく待っていてくれたんだよ。ただ俺たちだけになるとそうじゃない。俺が顔を向けるとタロウはブンブン尻尾を振るし、クルミはその場で何度もジャンプをする。そしてリンネが言った。
「主、出陣なのです。お外で敵をぶっ倒して強くなるのです」
「おう、そうするぞ」
「するぞ、なのです」
しっかりとやり取りは聞いていたんだよな。早く戦闘したくてうずうずとしていたんだろう。
柵の外に出てレベル151の豹を1時間程倒すとレベルが148に上がった。
「よし、レベルが上がったので戻るぞ」
「はいなのです」
再び橋の袂にある小屋に入ってさっき話をしたNPCに近づいた。俺がカウンターの前に立つとこちらが何かを言う前に向こうから話かけてきたよ。
「うん、しっかりレベルが上がっているな、装備系も全て9段階まで強化してある」
左側のおっちゃんがそう言うと今度は右のおっちゃんが口を開いた。
「次はお願いだ。この書類を台地の村のプレイヤーズギルド経由で関所の街の同じくプレイヤーズギルドの受付に見せてハンコを貰ってきてくれ。期限はない。いいか、先に台地の村のプレイヤーズギルドだぞ。順番を間違えると無効になって最初からやり直しになる」
ん?期限がないんだ。周る順番だけ気をつければいい簡単なお使いクエストじゃね?そう思っているとおっちゃんが続けて言う。
「ただしエリア内で転送盤、転送アイテムを使うのは禁止だ。セーフゾーン、宿、コテージでのログアウト、ログインは問題ない。転送アイテムを使うと書類がなくなって最初からやり直しになる」
なるほどここからまたスタート地点近くの台地の村まで森や草原を抜けて行き、そこから関所の街経由で帰って来いってことか。ログアウトし、次のログインで自宅で畑仕事をしてから飛ぶこともできないんだな。
「転送盤等を使わなければ良いんですね。従魔に乗って走るのはありってことですよね」
俺が言うと黙っているが否定しない。
「書類を持っていくか?準備が必要なら改めて来ても構わないぞ。その時に書類を渡す」
「いえ、今受け取ります」
そう答えると端末を差し出してくれと言うので差し出すと、音がして端末を見ると関所の書類というアイテムが入っていた。譲渡不可、転売不可アイテムだ。おそらくギルドの受付で端末を見せるとチェックしたことになるんだろう。
小屋を出たところで一旦地面の上に座る。すぐにタロウが背中を預けろと俺の背中側に座ってくれる。悪いな。座って足をひろげるとリンネが足の間に入ってきた。クルミは俺の頭の上に乗ってるよ。
タロウの背枕で端末の地図を見てみる。
この場所から台地の街までは関所の街の中を通り抜けて南の台地に出ると、今度は西に進んで西の小屋がある台地に移動。そこから南に移動して次の台地に行くと、今度は東に進んで台地を2つ越えてから北に上がった台地が台地の村がある場所だ。う〜ん、これはかなり遠いぞ。と同時に小屋やセーフゾーンが多くあるのも納得できたよ。このクエストのためなんだろうな。
普通にここから敵を倒しながら移動するとしたら関所の街でログアウトして1泊、翌日西の小屋まで進んでそこでログアウト、それから東西の2つの台地の間の中にあるセーフゾーンで1泊、そして台地の街。4日目に着く。往復で8日かかる。ログイン規制ギリギリまで頑張ったとしたらどうだろう。2日で行けるのかな?いや無理だな。どんなに頑張っても片道3日はかかるだろう。
ここは俺はタロウの背中に乗って移動しよう。ズルみたいだけど今までもやってたからいいだろう。NPCもダメだとは言っていないし。
申し訳ないが俺が不在の間の畑の見回りはランとリーファの2体にお任せだ。
「みんな頼むぞ」
「問題ないのです。ランとリーファにお任せすればいいのです。彼らがばっちりと仕事をしてくれるのです」
確かにランとリーファに任せておけば安心だ。妖精たちがいてくれてたすかるよ。それはいいとしてどう動くか。
「関所の街まで行こう。今日はそこのコテージでログアウトして明日はそこから台地の村を目指すぞ」
どこまで行けるのかは分からないがやるだけやってみよう。
「ガウ」
「目指すぞ、なのです」
タロウに乗ると草原を走り出した。軽快だよ。途中から森に入った俺たちはそのまま森の中を突っ切って関所の街に着いた。タロウがぶっ飛ばしてくれたのもあるけど北の橋から街まで2時間程で着いたよ。移動の途中で端末を見たが”関所の書類”というクエストアイテムは無くなっていない。よし、これなら問題ないぞ。気が付かなかったけどおそらく森の中で情報クランと攻略クランの連中を追い抜いたと思う。
「タロウ、ありがとうな」
コテージに戻ってくるとタロウをしっかりと撫でてやる。もちろんリンネとクルミも撫でたよ。端末を見たが”関所の書類”というクエストアイテムは無くなっていない。よし、これなら問題ないぞ。
「ガウガウ」
尻尾を振っている。
「タロウは主を乗せて走るのが大好きなのです。何も問題ないのです。明日もやってやるぜと言っているのです」
「ガウ」
「そうか、明日も頼むぞ」
タロウ頼みになるからな。しっかりと撫でてあげたよ。




