岩盤の街の強化屋
テイマーギルドを出た俺たちはプレイヤーギルドで教えてもらった不動産屋さんに顔をだした。自分のコテージを借りる前に、すでに借りられているコテージがあるかどうかを聞いた。情報クランと攻略クランは間違いなく借りているだろう。その場所の近くを借りるつもりなんだよ。
俺が聞くと予想通り2つの大きなコテージが借りられているのだと教えてくれた。その近くにある小さなコテージを借りて3ヶ月分の料金と転送盤のお金を払った。
コテージは俺たちが入ってきた門(西門)から見ると左手にある。不動産屋から歩いて15分程でコテージエリアに入ると入ったところにある大きなコテージから見慣れた顔が出てきた。
「岩盤の街にようこそ」
出てきたのは情報クランで神官をしているユーリだ。
「さっき着いてね。ここを借りたところだよ」
「そうなんだ。じゃあまた内密の話ができるって訳ね」
「そうなるな」
ギルマスとトミーに俺が着いたことを伝えておくというのでお願いして、俺たちは借りたコテージに入った。タロウとリンネとクルミは早速新しい庭で遊び出したよ。
転送盤を設置して開通を確認して庭にいるとクラリアとトミーがやってきた。
「無事に到着したみたいね」
「やあ、久しぶりだね」
挨拶を交わすと庭にあるテーブルに座る。本当に久しぶりに会うよ。彼らはレベル118だがもうすぐ119になるんじゃないかなと言っている。
「115でこの街にやってきたか」
「途中がいやらしかったけど、こっちはタロウとリンネとクルミがいる。隠れているオークをこっちが先に見つけられるから危ない場面はなかったよ」
彼らも最初は苦労したらしい。近づくと突然起き上がって攻撃してくるのでずっと緊張しっぱなしだったそうだ。
「しかもわざとやり過ごして背後から襲ってきたりするのよ」
「いやらしいな」
情報クランも攻略クランも117でセーフゾーンを出発し、森を抜けてこの街へ移動している最中に118に上がったそうだ。プレイヤーの数が増えてきているところだと言う。
「強化屋には行った?」
「いや、前は通ったけどね。とりあえず先にコテージを借りようと」
「じゃあ黙っておくわね」
クラリアの言い方だと今までの強化屋とは違うのかな?まぁ行けば分かることだ。
「プレイヤーズギルドに2パーティいたよ」
「ここ数日で増えてきた。ただ森のセーフゾーンからここに来る途中で全滅しているパーティもいる」
やっぱりあの身を隠しているスノウオークの待ち伏せでやられているプレイヤーがいるそうだ。背後から来られて神官や魔法使いが戦闘不能になると勝ち目がなくなるからな。
その後2人が教えてくれたがこの街は岩の上にあって東西南北に門があり、その門の近くに東屋、転送盤があるそうだ。もちろんその下にもある、4箇所の転送盤から街に出入り出来るので好きな場所から下に飛んでそこから雪原に出ていくことができるらしい。
「転送盤の数も多いし、便利ではあるな」
「それで今は周辺でレベル上げ中?」
俺が聞くと頷く2人、街の周辺は全てスノウオークらしくて、街から北と東に出るとレベルが120になっているそうだ。西は俺たちが通ってきたルートで119、南も119でこちらは2体固まっている。北と東は敵のレベルが120と上がることもあり単体だ。
雪の上での戦闘、相手はレベルが1つ2つ上とは言え体力が多い。戦闘時間が長引くとリンクする可能性もあるので気が抜けない。
「ただ今はライバルがいないからな。今のうちに120まで上げるか、なんて話を攻略クランの連中としているんだよ」
相変わらず効率的に動いているんだろう。
「タクは一旦自宅に戻るのかい?」
「いや、折角この街にいるので強化屋に行ってみるつもりだよ。2人の話を聞くと今までと同じじゃなさそうだしね、どんな感じなのか見てくる」
そう言って彼らと別れた俺は借りているコテージから出ると、街の中にある強化屋の扉を開けた。入った感じは今までの街にあった強化屋と同じで、ホールがあってカウンターがあり、そのカウンターの向こう側にはオーバーオールを着ているドワーフが5名立っている。俺たち以外にプレイヤーはいない。
「こんにちはなのです」
「ガウ」
「こんにちは。強化をしてもらおうと思って」
「よお、こっちだ」
そう言うと中央にいたドワーフが声をかけてきた。俺は彼の前に移動する。タロウは足元、リンネは頭の上、そしてクルミはフードの中だ。
「この街では初めてかい?」
その人の前に立つとドワーフが言った。
「はい」
「じゃあ最初にちょっと説明してやる。ここじゃ何だから応接室に行こう」
説明? 移動?
「えっ、いいんですか?」
「今はあんた達以外は客もいねぇ、それに弟子が4人いるからな。そいつらに任せれば問題ないぞ」
「主は特別なお客様だからなのです」
頭の上からリンネが言った。俺はそれはないだろうと思ったが、ドワーフがその通りだと言った。どういうこと?
俺はドワーフの後を付いてカウンターの横にある応接室にはいった。部屋に入るなりドワーフの大将が俺の頭に視線を向けた。
「そのバンダナ、黒の神魂石を2個使ってるだろう。話は他の街の仲間から聞いているんだよ。黒の神魂石を2つ使ってバンダナを12段階強化した上忍のプレイヤーがいるってな」
そうなのか。と納得すると同時にこのドワーフが俺を個室に呼んだ理由も理解したよ。バンダナが強化されているってのは限られた人しか知らないからな。ホールで話すことじゃない。NPCもちゃんと分かっているんだ。
「なるほど。理解しました」
俺に声をかけてきたドワーフはヘイムさんと言ってここの責任者だそうだ。
「俺はタク、こっちがタロウ、頭の上に乗ってるのがリンネ、フードにいるのがクルミです」
「霊狼に九尾狐、それから神獣か。凄い従魔を持ってるじゃないか、しかも懐いている様だし」
「ありがとうございます」
「それで本題だ」
ヘイムさんが話しだした。
この街というかこのエリアから強化については115装備以上の装備について、1つの装備に対して2つの色が異なる石を使うことが出来るのだという。
「例えばだ、今タクが着ている装束は115装備で何も強化されていない。そうだな?」
「その通りです」
「従来なら強化は赤なら赤1色を最大6段階強化できた。逆に言うと1つの装備で強化出来る色、ステータスは1種類だ」
俺は頷きながらヘイムさんの話を聞いている。
「ただ、このエリアでは1つの装備に対して2つのステータスをつけることができる。つまり2種類の神魂石を使って強化出来るってことだ」
「たとえば今俺が来ている装束に赤と緑の神魂石を使ってSTRとAGIのステータスを上げることが出来るってことですか?」
「その通り。この街で3段階まで強化できる。ただ最初に選んだ2種類は変更できないぞ」
それは今までと同じだな。
「もちろん、今まで通り1種類の強化だけでも出来る。ただその場合は後から追加できない。赤を1段階強化した後で緑を強化したいと思っても出来ない。2つか1つ。これを最初に決める必要がある」
「従魔のスカーフの追加の強化は無理だってことですね?」
「3体とも6段階強化済みだな。申し訳ないがスカーフに更に新しい石を強化するのはできない。強化前のスカーフなら出来るけどな」
「なるほど、分かりました。それでその強化費用はいくらになりますか?」
「1種類なら今まで通り1回50万ベニー。2つの神魂石を使う場合は1回の強化で150万ベニーになる」
50万X2の100万とはならずに150万になるのか。
俺は端末を見て神魂石をいくつ持っているのか確認する。
赤の神魂石:力(STR)12個
緑の神魂石:素早さ(AGI)12個
茶の神魂石:体力(VIT)14個
青の神魂石:器用(DEX)11個
白の神魂石:精神(MND)10個
紫の神魂石:知性(INT)8個
こうして見ると、長いスパンで見るとどの色も似たような数になるんだな。
それで強化だが、俺にとって必要な神魂石は赤と緑だ。
装束赤X3、緑X3
刀赤X6、緑X6 (2本分)
赤が9個、緑が9個か。うん、問題ないな。強化費用は150万ベニーを9回で1,350万ベニーになる。払えないことはない。
俺は赤の石9個と緑の石9個をテーブルに置いた。
「これで装束と刀を3段階お願いできますか?」
「赤と緑の2つの石を使って3段階強化するんだな?」
「そうです。お願いします」
俺はヘイムさんに装備と神魂石を渡し、1,350万ベニーを支払った。
「ちょっと待ってろ」
席を立ったヘイムさんが部屋から出て言った。
「これで主がまた強くなるのです」
「ガウガウ」
それまで静かにしていた従魔達がヘイムさんがいなくなると3体の従魔がゴソゴソと動き出す。クルミはポンチョのフードと俺の肩を行ったり来たりするし、リンネは頭の上だと思ったら膝の上に乗ってくる。
「主、撫でるのです」
俺が撫でるとタロウもクルミも撫でろと身体を寄せてくる。撫でるのは俺も好きだからたくさん撫でてやるよ。
両手で3体を撫でていると、しばらくしてヘイムさんが戻ってきた。
「お待たせだな。刀2本と装束、全て赤と緑の神魂石を使って3段階強化したぞ」
「ありがとうございます」
「これでまた主が強くなったのです」
「従魔の言う通りだ。それにバンダナがある。この街の周辺の敵なら余裕だろう」
「この街で3段階強化できたということは、他の街であと3段階強化できるということですか?」
俺が聞いたらその通りだと答えてくれた。ただ次の街の場所については教えてくれない。こちらもそこまで期待はしていなかったからな。一応聞いてみたって感じ。
装備を身につけた俺はヘイムさんにお礼を言って強化屋を後にした。




