従魔サービス期間 その1
その後、強化屋を出て少しマップ作成をした俺たちは、街の外に出て新しい装備を使ってみた。
3段階強化しただけで刀の切れ味、動きやすさ共に体感で違いが分かるレベルだ。お金は掛かったけどそれに見合う十分な効果だよ。さらに戦闘前にいちいち着替えなくても良いというのは大きいぞ。能力的にはレベルで1つは間違いなく上がってる気がする。
十分満足した俺たちは外からそのまま転移の腕輪で自宅に戻った。庭でクールダウンしていると活動を終えた4人が久しぶりに自宅にやってきた。俺が岩盤の街についたのはフレンドリストを見て知ったらしい、その後自宅に移動したタイミングと彼らが活動を終えるタイミングが同じだったから顔を出したそうだ。マリアはタロウちゃん久しぶり、元気だった?とか言いながらタロウをわしゃわしゃと撫で回している。タロウも尻尾をブンブン振って嬉しそうだよ。
「武器も防具も3段階強化したか?」
トミーが聞いてきた。
「もちろん。神魂石は貯まっていたし、幸いに金も足りた」
「ソロだとドロップ品を総取りできるからな」
そう言ったトミー。彼らは岩盤の街に着いた時には全員の神魂石が足りなかったそうだ。その後周辺のオークを倒して石を集めて今は全員が2種類の石で3段階の強化を終えている。攻略クランも同じ状況だったそうだ。
「新しい装備はフィールドで使ってみた?」
「もちろん、まず着替えなくても良いというのがいいね。あとやっぱり2種類の石の効果が合わさった相乗効果っていうのかな。動きやすくなって刀の威力が増しているから戦闘していて爽快だよ。強くなっているのは間違いないね」
「タクが今言った感覚と皆同じ感覚を皆持ってる。強化前と後で全然違うよな」
俺の話を聞いていたスタンリーが言った。
「主は雪の上で白い敵をバッサバッサと切り倒していたのです」
「ガウ」
「いやいや、お前達も頑張ってたぞ」
「そう言えば従魔のスカーフの強化はどうだった?できた?」
クラリアが聞いてきた。
「強化されているものに追加で強化は出来ないって言われた。強化をしていないスカーフならできるってさ」
俺が言うと予想通りねと言ったクラリア。当然だけど彼らは強化についての情報も既に公開している。
「強化については、反響は大きいが全ての防具と武器を3段階強化し終えたプレイヤーは今の時点ではほとんどいない。皆神魂石はそれなりに持っているが、強化費用が高いだろう?多くが金策中だよ」
1段階強化するのに150万かかるからな。武器は1つだけ手に持っているとしても合計で900万かかる。その前に115装備を手にいれる為にお金を使っているだろうし。
俺みたいに安定した金策を持っているプレイヤーが少ないのだろう。ただ、自宅周辺も家や畑が増えているので農業で金策しているプレイヤーもいるはずなんだけどな。俺がそんな話をすると畑の大きさが違うのと、農業をやっているプレイヤーは軸足を完全にそっちに置いているのでまだレベル的に岩盤の街に来るレベルじゃないんだとトミーが教えてくれた。
「タクの様に大規模に畑をやり、しかも普段は妖精が面倒を見てくれる。こんな事をやってるのは他にいないな」
「言われてみれば確かにそうだよな」
実際種を蒔いて収穫して農業ギルドに売るだけだもの。普段はランとリーファに丸投げだ。だから午後からレベル上げをしたりダンジョン攻略ができる。時には外でログアウトもしてるし。
情報クランと攻略クランは新しい岩盤の街の中を歩いてクエストをこなしたり、いろんな情報を集めつつ、街の外で経験値を稼いでいるそうだ。俺だって同じだよ。午前中は自宅、午後は新しい街を歩いたり周辺で敵を倒してレベルを上げる。プレイヤーのやることはいつでもどこでも変わらないよな。
そうは言ってもとりあえずの目標である次の街に着いた。ここらで一休みだ。レベル上げはやるけどもそれ以外の事も楽しみたい。
岩盤の街に着いてマップクエストを終えた翌日、朝の畑の見回りを終え、イチゴのビニールハウスの中で遊んでいた従魔達が自分のところに寄って来た。
「いっぱい遊んだか?」
「ガウ」
「はいなのです。それで主、これから何をするのです」
従魔代表のリンネが聞いてきた。俺は足元や肩にいる5体の従魔達に言う。
「新しい街にも着いた。ここ最近はずっと外で活動していただろう? だからしばらくのんびりと過ごすつもりだよ」
「休憩は必要なのです」
「うん、ありがとう。それでだ、これから数日は皆がやりたい事をやろうと思う。もちろんランとリーファもだぞ。皆やりたいことを言ってくれるか?」
そう言うとランとリーファは肩から飛び立つと俺の前でパタパタを羽根を震わせる。サラリーマンなら家庭サービス?今の俺は従魔サービスとでも言うのかな。従魔サービス期間だ。
「ランとリーファは主と一緒に自宅でのんびりしたり工房で焼き物を作るのを眺めたりしたいのです」
「分かった」
次はクルミがジャンプした。
「クルミは大きなお船に乗りたいのです」
「うん」
「ガウガウ」
「タロウは主を乗せてソリを引っ張るのと雪合戦がしたいのです」
リンネが言うとタロウが尻尾をブンブンと振る。
「OKだ。それでリンネは?」
「リンネも雪合戦なのです。でも父上と母上にも会いたいのです」
えっと、ランとリーファは俺に自宅でのんびりして欲しい。クルミは水の街と森の街とを行き来している大きな船に乗りたい。タロウはソリと雪合戦、リンネは隠れ里に行きたい。よし、全部やるぞ。
「分かった。今日はランとリーファの日だ。俺たちは今日は自宅から外に出ない。ここでのんびり1日過ごす」
そう言うと2体の妖精が歓喜の舞をしてくれる。久しぶりに見たけど可愛いんだよな。
「明日はクルミの希望で船に乗る。明後日の昼に着いたらそのままリンネの里に行こう。その次の日は雪合戦とソリだ。いいかな?」
そう言うと皆が喜んでくれた。
「主は優しいのです。今日はランとリーファの日なのでお家でのんびりするのです」
「その通り、家でのんびりして外には出ないぞ」
俺は早速エプロンを身につけた。工房に入ると後ろから皆ついてくる。そしていつもの定位置にタロウが座るとその背中に4体の従魔達が腰を下ろした。
バザールは最近はバタバタしていたこともあり毎週という訳には行かないけど、それでも3週間で2度の頻度では出品している。従魔の置物やお皿は一時の様に長い列ができるほどじゃないけど、それでも出すと毎回完売するんだよ。なので作れる時には沢山作っておきたい。
従魔の置物が焼き上がると皆に見せる。その度に皆喜んでくれるんだよ。モデルが喜んでくれるのは作り手としては嬉しい。お皿やマグカップに書いてあるリンネも9本の尻尾が分かる様に書いて焼いていく。
焼き物を2時間ほどやると休憩タイムだ。
「休憩しようか」
俺が工房から出て縁側に座ると皆その周りで思い思いにリラックスする。自分でお茶を入れて梨を食べながら敷地の中を流れている小川に視線を向けた。ここからは見えないが川には魚がいるし、そこにランとリーファの船が浮かんでいる。それを見ていると1つアイデアが浮かんだ。
「ランとリーファのあの船に屋根をつけようか。そうしたら船に乗っても直接陽が当たらないから気持ちいいぞ」
そう言うと両肩に乗っている2体の妖精が肩から飛ぶと俺の前で歓喜の舞を舞ってくれた。これで決まりだ。
工房を見ると前に買った木材がまだ残っていた。これならいけそうだ。
俺は船を一旦小川から上げて工房に運ぶとその船に屋根を作る作業をする。タロウやリンネ達も工房にやってきて船を手直しするのを見ている。
1時間程で船に三角屋根がついた屋形船風になった。船の船腹に4本の柱を立ててその上に三角屋根を乗せて固定する。妖精とクルミが乗る船なので柱はそれほど高くしていない。屋根は船の3分の2を覆う様にして船首側と船尾側には屋根がない。
「出来たぞ」
「格好いいのです」
「おう、ありがとう。早速浮かべよう」
工房から出て庭を流れてる小川に新しく屋根が着いた船を浮かべてから船首をロープで岸の棒に括り付けた。
「よし、乗っていいぞ」
早速ランとリーファ、そしてクルミが船に乗り込んだ。屋根の下に座ると2体の妖精がサムズアップする。クルミは船首でジャンプしていた。
「ランとリーファとクルミがすごく喜んでいるのです」
「よかったよ」
クルミは船首から屋根の上に飛び乗ったりと動き回っているし、ランとリーファも屋根に座ったりしている。本当はそこは座るところじゃないんだけど、お前達の船だ、好きに使っていいよ。
俺たちはしばらく船に乗っている妖精を見てから再び工房に入って焼き物を作る。ランとリーファも応援に来てくれた。1日のんびりと焼き物を作ったおかげでかなりストックができたよ。
リラックスできた良い1日だった。




