第二十二話 暗闇と暗黒
んんっ、よく寝たな。
目を開けると目の前は真っ暗だった。
魔力がすっからかんになってずいぶん寝てたらしく、すでに夜になっていた。
「今日は新月なのか」
ひとりごちって見るがその言葉は風に流れて消えた。
感覚的に魔力はほぼ回復していた。なにか燃えるものを作るか。
ということで回復した魔力でナナカマドと黒松を成長させた。
ナナカマドは七回かまどに入れても燃えないという語源があるらしく、萌えにくいので持ちての部分に使おうと思った。
だんだんと暗闇に慣れてきた目で、黒松の松ヤニを採取して、窪みを入れた切ったナナカマドの枝の先端に詰める。火打ち石を近づけて火をおこすと、簡単に引火した。
火の明かりによって目の前があらわになった。
そこには赤い実をつけた8メートルくらいのナナカマドの木と、立派な針葉樹をつけた黒松がそびえたっていた。
火が照らす向きを変えると、馬車の外に張ってあった2つのテントそれぞれにレオニさんとラナが寝てるのを確認できた。イチゴはラナと一緒に寝ているはずだ。
俺もテントを立てて寝ようかな、いや、まてよ。ふたりの睡眠の邪魔になるといけないので今夜は馬車の席で寝させてもらおう。
そこで馬車の席に体を横にしてみたが、さっきまで寝てたため全く眠くない。火は松明のホルダーにかけておいたので消えてない。
エルダートレントがいたため、ここら付近にはしばらく魔物はよってこないはずだ。
魔物たちがエルダートレントがいなくなったと気づくのは、早くても明日の昼くらいだろう。
じゃあそのへんでも歩いてくるか。
松明の明かりだけを頼りに草原を歩いていく。まあ草原というよりは原っぱのようなものだろう。芝生くらいの高さしかない植物しか生えていないため、歩きにくい、なんてことは無い。
少し行ったところに周りよりほんの少し高い丘のようなところを見つけた。
頂上、と言えるほど高くはないのだが、そこまで行って腰掛けた。
松明は地面に突き刺しておく。
ふと寝っ転がり、空を見上げるとそこには無数の星がきらめいていた。
幻想的な雰囲気の中、俺はこれまでの懐古をする。
事の発端は1年とちょっとくらい前だろう。
ラルフドに騙されたことから始まった。自分でも今思うと、急に親切心を持ちかけてきた相手は見え見えの罠だったなとは思うが、そのときは浮かれていたのだろう。
その後には慈愛の森でアブソリュートウルフに出会った。落ち着いて対処したため、命に関わるようなことはなかったが、内心すごい焦っていた。でもそのおかげでエルフの里に行けたしな。
エルフの里で過ごした時間は新鮮なことばかりだったと思う。農作業なんて、産まれてずっと王都にいた俺に馴染みがなかったけれど、予想以上に楽しかった。周りの人も優しくしてくれて。
人の優しさってこういうことなんだなと感じた。エルフだけど。
そして旅立つ、イニーザの街で初めて冒険者の活動をした。学生時代は冒険者になるとは決めてなかったけど、やったらやったで楽しい。王宮に務めるほうがよっぽど退屈だっただろう。
さらに今は街と街の移動だ。冒険者らしいや。
トレントの森はヒヤッとはしたけど――
ここで松明の灯りがフッと消えた。あたりに再び闇が落ちる。
これからも頑張って生き続けよう。きっと楽しいことも沢山あるだろう。
灯りが消えてしまったので、記憶を頼りに戻っていった。
やがてテントが見える。程よい運動で、また眠れそうだ。
松明が消えてもなお、闇はまだまだ深まっていった。
■□
「あと馬車で4日くらいですね。半分は過ぎましたよ」
トレントの群衆から抜けて早4日。あともう一回繰り返したらテロメアにつくらしい。
「ここ4日は本当に何もなかったですね。普段は出ていたはずのE級レベルの魔物すら出ないんですからね」
「なにかおかしなことが起きなければいいですけど」
ゴゴゴゴゴ――
「ロイさんなにか大きな音がなりましたよ?」
「厄介事じゃないといいんだが」
今まで何もなかったのは嵐の前の静けさだったのかもしれない。
「一応馬車を降りて臨戦態勢に入るぞ」
スピードを落として歩いて付いていった。
するとまた、先程より大きな音が。
ゴオォォン――
そして地上に突風が巻き起こる。
「みなさん、大丈夫ですか?」
「ええ、なんとか大丈夫ですレオニさん」
何だ今の突風は。まるで大きな物が通過したような感じであった。
しかし考える隙も与えてくれないのだろう。三度轟音が鳴り響く。――目の前で
ゴォォン!
地上に落ちた何かは大きな土埃を撒き散らす。
「なんだ……あれは」
土埃が次第にはれていき、まず見えたのは真紅の色をした大きな目。
睨まれると、しばし硬直してしまう。
さらに体が見えてきた。
流石にあの魔物はわかる。王都では見たことがないが、小さな子供でも知っている。
そう、最強の種の中の一種。
「ワイバーン……」
こちらのつぶやきに反応したのか、ワイバーンはグルルルと喉を鳴らしてこちらを見据えた。
向こうはどうやら戦う気でいるらしい。




