第11話 噛み合う配置
第11話 噛み合う配置
次の依頼は、即日だった。
同じリーダーから声がかかり、今度は五人での行動になる。
顔ぶれは前回とほぼ同じだが、重装備の男が一人加わっていた。
「森沿いの小道だ。獣が出る」
説明は簡潔だった。
隊列も前回と似た形になる。
重装備の男が前、弓手が後方。若い男が側面を見て、リーダーが全体をまとめる。
コーイチは、やはり中央寄りに位置した。
前にも後ろにも出すぎない。全体が見え、どちらにも動ける位置だった。
森に入ってしばらくすると、空気が変わる。
重い。
鳥の声が減り、草の擦れる音ばかりが耳につく。
「来るぞ」
重装備の男が足を止めた。
その直後だった。
低い唸り声。
草を踏み分ける音。
獣が二体、左右の林から現れた。
大きさは犬より一回り大きい。
牙を見せ、間合いを測るように揺れている。
コーイチは腰に手をやり、そこで一瞬止まった。
ナイフを持つのを忘れていたことに気づいたが、今さら慌てても仕方がない。
前に出たのは重装備の男だった。
弓手は少し距離を取り、若い男が横へ流れる。
その瞬間、右側の獣が跳んだ。
狙いは、コーイチのいる側だった。
「おい!」
若い男が思わず声を上げる。
だが。
当たらない。
獣の爪は、確かにコーイチを捉えていたはずだった。
それなのに、ほんのわずかに位置がずれている。大きく避けたようには見えない。ただ、気づけばそこにいない。
獣は着地し、すぐに向きを変える。
もう一度、跳ぶ。
やはり当たらない。
コーイチ自身、何をしているつもりもなかった。
怖さで体が固まり、むしろ余計な動きが出ない。そのはずなのに、足の置き場と体の向きだけが、勝手に噛み合っていく。
若い男の目には、妙な動きに見えた。
寸前で避けているわけではない。
先読みして動いているようにも見えない。
ただ、魔獣の方が、最初から違う場所を攻撃しているように見える。
「……なんだ、あれ」
右から、左から、獣は何度も飛びかかった。
それでも当たらない。
コーイチは剣も抜かず、ナイフも持たず、ただ立っているだけに見える。
それなのに、獣の爪も牙も、服の端すら掠めなかった。
反対側では、もう一体が重装備の男に食らいつこうとしていた。
だが、そちらも弓手と若い男が牽制に入り、決定打にはならない。
コーイチの前にいた一体は、次第に息が荒くなっていった。
飛びかかる。
外れる。
着地して向きを変える。
また飛びかかる。
やはり外れる。
その繰り返しだった。
やがて獣は低く唸り、数歩だけ後ずさる。
警戒するようにコーイチを見たまま、向きを変えた。
「逃げるぞ!」
リーダーが叫ぶ。
だが、深追いはしない。
もう一体も、重装備の男の前から林へ退いた。
戦闘は、それで終わった。
誰も怪我をしていない。
「……何だったんだ、今の」
若い男が、呆れたように言う。
重装備の男も、獣が消えた林を見たまま、低く息を吐いた。
「攻撃、見えてたのか?」
そう聞かれても、コーイチには答えようがなかった。
「……よく分かりません」
本音だった。
実際、そのつもりだった。
怖くて立っていただけに近い。自分から何かした感覚はない。
弓手が小さく笑う。
「でも、当たらなかった」
それだけは事実だった。
リーダーが周囲を一度見渡し、隊列を戻す。
「行くぞ。今のは、こっちの勝ちでいい」
誰も反対しなかった。
再び歩き出す。
だが、不思議と足取りは軽かった。
危険な場所では自然と隊列が整い、無駄な動きが減る。
誰かが前に出れば、別の誰かが空いた場所を埋める。
「……噛み合ってるな」
リーダーがぽつりと言った。
村に着く頃には、全員が疲れているはずだった。
それでも、消耗は最小限で済んでいた。
「次も頼めるか」
その言葉は、相談というより確認に近かった。
コーイチは少し考え、頷く。
自分が中心にいる感覚はない。
ただ、流れの中にいるだけだ。
それでも――
一緒にいると、仕事が片付く。
少しずつ、そう見られ始めていた。




