犯罪の取り締まり①
辺境伯領の話のあらすじ
①数年前から麻薬が領内で広がり始める
②ルビスコ王国からの侵攻が開始される
③第三魔法師団が応援に駆けつける
④ロサが上層部やチルドレンをやっつけた
そして戦いから逃げた魔法師団は、麻薬密売にYSが関与しているか調べようと思い立つ。
「これはこれは!
太客じゃねぇか!
まぁ、まずは金から先に渡してもらおうか」
庭師の男は、いや、麻薬の密売者は品定めする目付きをして、僕からどれだけ金を巻き上げられるかを算段し始めた。
僕の目的はこの密売者からアジトの位置や密売の組織図などを得ることだ。
まずはこの密売者に信用され、手がかりとなるような情報を聞き出さねばならない。
僕はありったけのお金をだし、他愛もない話をして信頼獲得に努めた。
「この辺りで他にクルミを売ってくれるところはないのか?」
「なに言ってんだ、店構えたらすぐばれるだろ」
「……それはそうだ。
でもクルミをもっと欲しいんだ、売ってくれる人はいないだろうか?」
「さぁ知らねぇな。
自分は上と直接契約を結んでるからな、他の奴なんて知ったこっちゃない」
目先に出された金で、密売者は口からポロポロと大事そうな情報を落としていく。
上がYSなのは予想がついていた。
それでも僕は、自分のやれることを精一杯やろうと、情報を引き出すために質問を重ねた。
「あんたのくれた量では数日持つかわからない。
上から直接買いたいんだが、どこなら上の人に会えるだろうか?」
「さぁな、知らねぇ。
というより、お前、そんなにヘビーなのか?
……麻薬は人格を崩壊させるから今のうちに止めとけよ?」
通常ならば一ヶ月は持ちそうな量を数日で使いきると言ったのだから、犯罪者から心配されてしまった。
この機会だから、最近よく聞いている曲を口ずさんでみた。
「They say she's in the class A team, stocking her daydream, been this way since 18♪」
密売者が僕の歌を聞いて小さくのけぞり、ハミングしだした。
「エド・シーランのTHE A TEAMだな!
いい歌を聞いてんなぁ!」
実は、我が国では画像を送る魔法は発明されていないが、音声を送る魔法は開発されている。
ミュンヒ王国王城のロサ様のところに「君の地下鉄」という名前の音声の記録装置があるらしい。
人々は事前に君の地下鉄と同期している媒体「アルクヒト」を購入し、それに自らの生命力を流し込むことで、君の地下鉄に記録されている歌を聞くことができる。
歌い終えた途端、密売者は急いだ様子で僕に一方的に別れを告げた。
「……!
じゃあな。
またクルミを持ってくるから、その時も買ってくれよ」
僕は麻薬の流通ルートについても、密売組織の組織図も全くわかっていないため、なんとか引き留めようとした。
ぐいっと彼の袖を引っ張ると、密売者は振り向いた。
「ちょっと待ってくれ。
もっと情報がほしいんだ」
「知らん!
ほら、向こうを見てみろ、ミュンヒ王国の兵士が帰ってきたぞ。
自分みたいな仕事をしている奴は見つかったらヤバイから、早く隠れないと!」
密売者は強引に僕の手を振り払い、駆け足で走っていった。
振り向くと遠くに、疲れきったが晴れやかな顔をしたホルマリン団長がいた。
アルマイトや他の同僚も続々と帰還してきているようだった。
僕は彼らにあわせる顔がないため、急いで密売者の後を追った。
一身上の都合で、ロサ視点の話に戻るのはまだ少し先かもしれません。
なぜなら、ロサは「人を殺す」という重大な事をやったので、人を殺したことのない自分では彼女のことを理解できないからです。
想像してみてください(海外のニュースのことです)
『とある元警察官が保育施設に侵入して発砲し、園児30人を殺しました。
その元警察官はその後、妻と子供を殺して自殺しました。
さて、元警察官の犯行から自殺までの心の動きを、自分が元警察官だとして小説風に書いてください』
無理ですね。
この元警察官の心理なんて、推測はできても文章に起こす方法が全くわからないですよね。
それと同じです。
(その点、サスペンス小説の作家などは尊敬に値するように思います。読まないけれど)