馬車の旅で焼き肉パーティー
話に聞く限りだと今回狙うのはボロンボアという猪に似た魔物らしい。
実際見たことはないが狩にやり方は変わらないので問題ない。
ポロンボアは特別美味しいとまでは言わないが肉自体に癖が少なく、よく流通しているお肉だそうだ。
しかも、性格も大人しくこちらから攻撃をしなければ襲ってはこないということだった。
肉の情報ばかり聞いていたせいか、ちょっと不審者っぽく見られたが情報は大事だ。
罠を仕掛けて数時間後、馬車で少し休憩してから見に行って見ると大型犬大の猪が捕獲されていた。
何でも屋やっていて良かった。
普通に生活していた猪の捕まえ方なんて覚えることはなかっただろう。
ぜひ、元の世界へ戻ったらまわりの友達に教えてあげよう。
猪の捕まえ方知っていると、異世界でも役に立つぜって。
あっ……ダメだ。
異世界に行ってきたんだなんて言ったら心の病院を勧められる未来しか見えない。
それはそうと、自然に感謝をして美味しく頂くことにする。
『いただきます』
川へ運んで解体をする。
罠にはまっているおかげでこちらか一方的に狩ることができた。
お姫様からもらった短刀の切れ味ははんぱなかった。
硬い皮膚の部分もすんなりと刃がはいっていく。
全然刃こぼれする気配もないし。
切れる短刀のおかげでキレイに毛皮と肉とにわけられた。
猟師さん、解体が面倒だからといって俺に丸投げしてくれてありがとう。
元の世界でも猪の解体をやったことがある。
こんなに切れるナイフではなかったので猟師の人がやり方を教えて俺に丸投げしたのはいい思い出だ。
毛皮はキレイに余分な物を除去して洗い乾かしておく。
本当はしっかりと処理をしたいが仕方がない。
肉の方はかなり多くとれた。一人で食べるには多すぎる。
どうせなら馬車のみんなに食べてもらおう。
こういう交流ってあとで結構大事になる。
解体した猪を持って御者のところへいく。
「どうですか、これ」
「おぉ! ブラッドボアじゃないですか」
ん? ポロンボアってやつじゃないのか? 俺には見分けがつかないが御者の人は目が飛び出そうな勢いで驚いている。
「実は凄腕のハンターさんだったんですね! ブラッドボアはかなりのスピードがあって正面にたった魔物や人間はみんな血に染まるっていう意味でブラッドボアって呼ばれているんですよ。それを一人で倒してしまうなんてすごいですね」
なんだその危険生物。そんな魔物がいる森を危なくないとかよく言ったなこの御者。
「いや、罠を仕掛けたらたまたまかかった感じですよ」
「ハハハ! そんな謙遜しなくても大丈夫ですよ。ブラッドベアの皮膚は鋼鉄のように硬いって言われていて、解体だって大人数人でやらなければいけないほど大変だっていうのは誰だって知っていますよ。でも、その分お肉は相当美味しいという話ですよね。普通は貴族が買い占めてしまうので一般には流通しないので食べたことはないですが。じゅるり」
なんか御者の目が怖いのですけど。なに最後のじゅるりって。
同じ馬車には15人くらい乗っていたが、御者のブラッドベアという言葉に反応してこっちを見てくる。みんなの視線が怖い。別に独り占めするつもりはないよ。
「じゃあせっかくなのでみなさんで食べますか? お肉はかなりありますし」
「えっ? いいんですか? 売ったらかなりの金額になりますよ。それにこんな貴重なお肉をいただいても返せるものがないですし」
御者はそう言いながらも、手にはすでにフライパンのようなものを準備し、どこからとりだしたのか皿まで置いてある。
言葉と態度があべこべになっているぞ。
俺は少しもったいぶったように一呼吸置いて
「そうですね。じゃあみなさんの持っている保存食とか旅に役立ちそうなアイテムとかと交換でいいですよ。物はお任せしますので」
「おじさん、本当にそんなんでいいのか?」
「えぇいいですよ。お兄さんは優しいので」
おじさんではない。こういう時はお兄さんだ。
「よっ! カッコイイお兄さん」
「お兄さん太っ腹」
そこからはブラッドベアの大焼き肉大会になった。
「美味い」
「生きていてよかった」
「もう死んでもいいブヒ。こんな食べ物をくれるなんて配下になるブヒ」
「神様の使いだ」
みんな嬉しそうな顔で肉をお腹いっぱい食べていた。
俺も一緒に食べてみたが、これは本当に美味しかった。
たいした調味料もないため、ほぼ肉の美味さっを味わう感じになったが、肉の風味、噛んだ時の触感、そして柔らかさ。
一噛みごとにこの世界にきて良かったと思ってしまうくらい美味しいお肉だった。
こんなお肉が道端でとれるなんて。
異世界最高すぎる。
普段、お金がない時は100g58円の肉に半額シールが貼られるの待って食べていた俺としては大変満足だった。
これは一般には出回らないと言われるのがわかる気がする。
また安全に確保できるならぜひ確保したい。
一緒に乗り合わせていた商人がお酒の樽1つと交換でブロック肉を欲しいと言われたので交換し、お酒もどうせだからと全員に振る舞ってやった。
田舎と同じで物々交換はこっちの世界でも有効だったようだ。
翌日はもう、馬車の荷台の中はみんな満足そうな笑顔のまま全員爆睡していた。
御者だけはしっかりと馬の手綱を握っていたが、鼻提灯を作りながら居眠りをしていた。
それでも道をしっかりと進んでいる。
御者はダメでも馬がしっかりしているらしい。
異世界の馬優秀すぎるだろう。
この馬も水の代わりに途中から酒を飲んで肉を食べていたが、異世界はいろいろ違うようだ。
俺が肉を狩ってきたとわかっていたのか妙に懐かれた。
異世界でも動物の可愛さは正義だ。
俺は当分困らないくらいの保存食やテント、異世界の服など色々手に入れることができた。
商人はかなり喜んでくれており、ぜひまたお礼をさせて欲しいと言われた。
それからの馬車の旅はかなり和気あいあいとした楽しいものになった。