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出来損ないの天使  作者: ぺっぺろ


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1/5

始まり

 その天使は、出来損ないだった。


 飛ぶのが遅い。羽ばたきはいつも一拍遅れて、風を掴む前に落ちる。光を操る祈りは途中でほどけ、魔法陣は描ききる前に霧散した。天界の誰もが当たり前にこなすそれらを、彼は一つとして満足に扱えなかった。


「どうして?」


 それが彼の口癖だった。


 どうして羽はあるのに飛べないのか。どうして祈りは届く前に壊れるのか。どうして、同じ天使なのに自分だけがこうなのか。


 問えば問うほど、世界は沈黙した。沈黙は答えにならず、ただ重さだけを増していった。


 訓練場の隅で、彼は一人、何度目かの落下から立ち上がる。白い床には、彼の羽ばたきが残した微かな傷だけが増えていく。


「また失敗か」


 誰かの声が遠くで笑った。


 笑いは悪意ではなかった。ただ当然のような、空気のような響きだった。それがいちばん堪えた。


 彼はもう一度、翼を広げる。


 飛べ、と願う。祈る。魔法を思い描く。すべてを正しく、完璧に。


 だが世界は応えない。


 そのときだった。


 訓練場の境界、光の柱の影に、ひとりの老人が立っていた。


 天界には似つかわしくない存在だった。羽もなく、光輪もなく、ただそこに“いる”というだけの、異物のような静けさをまとっている。


 老人は彼の失敗を一通り見てから、ぽつりと言った。


「お前は、飛ぼうとしているな」


「……見ればわかるでしょう」


「見ても、わからぬ者も多い」


 老人はゆっくりと歩み寄る。足音はないのに、確かに距離が縮まっていく。


「どうして、飛べないと思う?」


 その問いに、彼は一瞬言葉を失った。


 どうして。


 また、その言葉だ。


「……才能がないからですか」


「違う」


 即答だった。


 あまりにも迷いのない否定に、彼は逆に息を詰まらせる。


 老人は、彼の翼を見上げた。壊れた羽根でもなく、欠けた光でもなく、ただ観察するように。


「お前はまだ、“飛び方”しか知らない」


「……飛び方、しか?」


「そうだ」


 老人は少しだけ目を細める。


「飛ぶとは何かを、お前はまだ考えたことがない」


 その言葉は、彼の胸の奥に落ちたまま、すぐには意味を持たなかった。ただ確かに、今までの失敗とは違う場所が痛んだ。


 老人は背を向ける。


「明日もここへ来い。飛び方ではなく、“飛ぶとは何か”を考えてからな」


 それだけ言うと、影はゆっくりと光に溶けるように消えていった。


 残された彼は、初めて「どうして?」ではなく別の問いを抱いた。


――飛ぶとは、何だ?


 羽は、静かに震えていた。

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