いたみ
川沿いの道を二本奥に入った商店街を当てもなく歩いていた。いや、確か当てはある。当てどころか、二ヶ月に一度振り込まれる年金をおろしに銀行へ向かっているのではなかったか。記憶を確かめるように歩みを止めた。すれ違う人の目が時々自分に注がれるのを感じる。
自分を追い越していく人の邪魔だと言わんばかりに恨めしい目。
その目に足元に視線を落とす。視線を空に上げると、陽射しが針のように鋭く目に刺さり、視界を白く濁した。赤ん坊の泣き声が後ろからする。
何かうっとおしい
Yシャツの肌に触れる感触が湿り気を帯びている。
そろそろ梅雨入りか
まだまだ自分にも季節を感じることはできる。前を見ようと視線を向ける。瞼を動かしたときの右目の違和感は増している。右手でまた傷口に触れると、指の先が薄黄色い液体で汚れた。
商店街の半ばにあるその銀行は気に入っている。特にこれと言って訳はない。その銀行の自動ドアが開いているのが見えた。そこまで行けば触れることができる涼しい空気に誘われ、男は自然と早足になるのだ。
「さっきのようにならないように、気をつけて歩け」
どこからか声が聞こえた。その声に気を取られ、男は足を上げなければならないタイミングを一瞬逃す。指先よりも数センチ先に出た革靴の先が階段の段差にかかった。これくらいなら楽に体勢を整えられる、そう思った男の頭に少し前に発せられた自分からの言葉がまた蘇えった。
「さっきのようにならないように、気をつけて…」
さっきも同じようになったのか?
男はいくらも遠くない時間に自分が前に転倒したことをその時思い出した。体が微かに揺れながら前に倒れていく。周りの景色の動きはスローモーションだ。それを列車の車窓からの景色を眺めるような、どこか優雅に見ているもう一人の自分を確かめた。
眼前に迫ってくる固。
もうどうにもならないところまできて、男は目を閉じた。
自分の手足がどう動いたのか、男には皆目見当もつかない。ただ、両手は、男の顔を硬いタイルから守ることには役に立たなかった。
左の頬とあばらを打ったようだ。
鈍痛なのか激痛なのか、どちらに分類すればよいか分からない痛みが男の体を襲う。
気をつけなければ……
また少し前にどこからか聞こえてきた言葉と男の言葉が重なった。地面にぶつけた痛みが、昨日の転倒を思い出させた。
つづく




