妻の死
プッシュフォンに変えたばかりの電話が鳴った。雪の降る日だった。新しい電話の音は乾いていて、耳障りなほど、静かな部屋によく響いた。男の妻の死を告げる電話だった。その電話を部下からの電話を取るのと同じように左手で受け、いつもと同じように受話器を置く前に、右手でゆっくりと押さえた。
電話を受けた後、椅子に体を預け、浅い溜息をついた。何が起きても気持ちが大きく揺れることはない、男はそう自分に言い聞かせ、今自分の目の前で起きている事態を整理しなければと思った。椅子から立って、いつも考え事をする時にそうするように、窓際に立って下に広がる景色を見た。
高くそびえる自分のビルに追いつこうと果敢に天空目指して伸びようとする工事中の他社のビルを白い雪が厚く覆っていた。昨晩から降り始めた雪は男の見下ろす世界をいつもと別のものに変えてしまった。朝、自分を送り出すいつもと変わらない妻の顔を思い出した。
高層ビルの最上階の窓へ吹き付ける雪に男の視界はうっすらと遮られ、向こうに見えるはずの景色は見えなくなり、その代わりに窓ガラスに妻の笑った顔が写った。嘘とも真ともはかれぬ受話器の向こうから聞こえた妻の死を告げた警察官を名乗る男の言葉が何度も繰り返し鼓膜をたたいた。
そんなことあるはずはない―。
上着も持たずに男は部屋を飛び出した。




